不遇の魔道具師と星の王

緑野 りぃとる

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第四章 魔術大学編

第56話 一年後(後編)

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 家を出発して、半年も経つと片腕の生活にも慣れた。片腕での戦闘、片腕での作業、片腕での日常生活。

 どれも腕をなくす前とほとんど遜色ない程度にはこなせるようになった。それでも不便に感じることは多く、例えば食事をとるとき食器を持ち上げられないのでチマチマとしか食べられない。

 イリスが気を利かせて手で掴んで食べることのできる料理、例えばサンドイッチや肉巻き飯などを作ってくれるのだが、たまに仲良くなった冒険者の人たちと酒場で食事をとる時、なかなかステーキやら何やら食べるのに苦労した。

 そういった時はイリスが食べやすく細かく切ってくれたりしているのだが、かなり申し訳ない。ということで、俺は5ヶ月もかけて義手を作ったのだった。星賢者に色々と知識を貰いつつ様々な素材で試行錯誤しているうちに5ヶ月もスイレン王国との国境そばにある街、フィンダー要塞都市に滞在していた。

 この街は国境にある街だけあって、ほかの町とは違い街全体が高く頑丈な壁におおわれている。街中を色々な装備を纏った冒険者や衛兵が何人もうろついている。

 それだけ大勢の冒険者がいると、町としては非常に栄えるのが普通であり、この町もその例にもれず非常に活気のある町だった。

 町を歩いていると必ず冒険者らしき人が屋台の人と話しながら買い物をしていたり、駆け出しの冒険者が同じ駆け出しの鍛冶師や革細工師が練習に作ったそこそこの装備を吟味していたり。ギルドの近くに行けば常に複数人の冒険者たちがジョッキを片手に騒いでいる。

 騒いでいても、町の人に大きな迷惑をかけることはなく、少し変な言い方ではあるが、おとなしく騒いでいた。

 冒険者という職業がかなり好きな俺にとって、この町での生活は本当に楽しいものになっていたと思う。といっても、滞在していた五か月のうちほとんどが鍛冶師の工房を借りての作業だったのだが。

 俺が工房で左腕の義手を作っている間、イリスはかなり自由に動き回っていたらしい。彼女は肺の片方がつぶれているためあまり無理してほしくはないのだが、彼女曰くこの状態にもなれてしまったらしい。

 人間慣れてしまえばある程度の不利でも気にしなくなるそうだ。さすがに以前のように激しく動き回っているわけではないようだが、かなりの頻度で魔法を使っているそうだ。

 魔力を使うことなので特に悪影響はないと思うが、やはり俺は心配性なんだろう。彼女がいつも泊まっている宿屋に帰ってくると必ず彼女に回復魔法をかけていた。彼女には必要ないと言われてしまうが、構わず毎日かけていた。

 五か月の間、俺とイリスは朝日が昇るころに起床、その後一緒に食事をとって俺は鍛冶師の工房、イリスは冒険者ギルドへと向かう。俺はそのまま日が暮れるまで工房で自分の義手を作り、鍛冶師の親方さんが店じまいをすると同時に宿屋へと帰る。一方イリスはそこまで運動量の多くない依頼、例えば怪我人の治療や、フェンダーの初等学校の臨時講師などを受けて小銭を稼いでいた。

 なんでも、彼女はこれからの冒険に必要な経費を少しでも貯めておきたいとのこと。

 だが、俺はすでにヘルメスの町での活躍を認められてアテナ信仰国からかなりの額の報奨金をもらっており、そのお金は現在共有口座になってしまっている俺の口座に入っている。

 そのことは彼女も知っており、俺もそのことを改めて聞いてみた。曰く、「必要なものは必要なんです!」だそうだ。いったい何に使うのだろうか?

 俺は釈然としないながらも、早急に自分の義手を完成させるべく作業に没頭していたので、彼女がいったい五か月でいくら稼いだのか知ることもなかった。

 そんなこんなで五か月がたち、ついに俺の新しい左腕が完成した。残念ながら本当の腕のように皮膚に覆われているようなものは作ることができなかった。

 皮膚のような材質のもので覆ってしまうとどうしてもスムーズに指や手首、肘あたりが動いてくれず、渋々金属の部分をむき出しにしている。

 正直肌色にしようかとも考えたのだが、それはそれで格好が悪かったため、ガンメタリックに染めた。

 義手は魔力でも油圧でも動かすことができ、魔力を使うときは本当の自分の腕のように動かすことができる。油圧で動かすときは体のバランスを保つような方向にゆっくりと動くため、あまり使う場面はない。

 そして五か月もかけて作った義手が、ただの腕を模倣した金属塊ではないことはもう想像に難くないだろう。この義手には複数の機能を搭載している。

 少し長めのナイフが手首の辺りから出てきたり、手のひらから各種属性魔法を簡単に発動させることができたり、手の甲に取り付けた銃口からは普通の弾丸や魔法弾、散弾にグラップルを発射することができる、
などなど。

 これでもし朧霊刀や師からもらった杖が無くてもある程度戦うことができる。正直生身でもある程度は戦えると思ったのだが、万が一にも生身では勝てない相手が急に現れた場合や、朧霊刀が破壊された場合なども考えた結果のこのオーバーテクノロジーである。

 もちろんほかの人の手には渡らないようにしている。工房を貸してくれていた親方さんも、その弟子さんも口外はしないと約束してくれたので問題ないと思う。

 もちろん敵には遠慮なく使うし、使っているところを隠すつもりもない。この義手を作りながら親方さんと話しているといろいろ知ることができた。俺が向かうスイレン王国が一番魔道具の技術が進んでいるそうなのだが、それでも前世の俺が作っていた物と同じレベルのものを作ることは不可能だそうだ。

 なので俺がいくらこのハイテク義手を見せつけたとしても誰もこの複製品はおろか、スムーズに動く魔力で動く義手を作ることもできないだろう。

 俺は出来上がった義手を身に着けて宿へと戻り、一泊してイリスと共にフェンダーの町を出た。

 その後はスイレンへとまっすぐ向かい、ちょうど家を出て一年。

 やっと俺たち二人はスイレン王国の王都の近くに到着したのだった。
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