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Ⅵ.因縁の魔窟
穿つ者
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「そんなものは必要ない」
ユイは一刀両断に切って捨てる。
それを一瞬は唖然と見たヴァルスは、次には鋭く目を据わらせていた。
「そう思っているのはユイだけだよ。
足をあれだけ痛めても、こっちの足手まといにだけはなるまいと、必死に歩くセレンの姿を、その覚悟を…ユイは既に見ているだろう?
なのに、何故スキンシップくらい…」
「あいつに必要なのは馴れ合いじゃない。
それに、今、俺の側が軽率な甘さを見せる訳にはいかない」
「…?」
そのユイの、意味ありげな言い回しから、何かに気付いたらしいヴァルスが、一転、神経を尖らせ、高揚させた。
「まさか…、ユイ」
「セレンはあくまで、“俺に勝手に付いて来ているお荷物”という位置に留めなければ、組織側がどう出て来るか分からない。
だからセレンに対して、俺からの必要以上の介入は、極力避けなければならない…
それだけだ」
「…、成る程ね…」
ヴァルスは口に手を当てて考える。
…つまり、セレンがユイと、過剰に親しくしていることを組織が嗅ぎ付けたが最後、その当の組織が、ユイの言葉が示す通り、まさしく、“セレンに対して、どのように出るか分からない”のだ。
「…でもさぁ、ユイって、そういう割には自覚がないよね?」
ちら、と、ヴァルスがユイに、意味ありげな視線を走らせる。
「実際に組織にそう思わせる為だとしてもさ、現にユイは、セレンに服を用意してあげたり、俺を呼び出して、面倒をみせたりしたじゃない。
…あれだけの否フェミニストな冷血漢が、いつからそんなに女のコに対して、親切になったの?」
「…、なら、お前は…あの状況下で放っておけるか?」
ユイは逆に問うも、その双眸には間違いのない葛藤が浮かんでいる。
それによって自らの推測が確信に変わったヴァルスは、問答無用で脳内と心理内での両方で、肯定を余儀なくされることとなった。
「…総統に勘繰られるのは、時間の問題…以前に、手遅れだと思うんだけど」
「確かにな」
ユイは意外にも、あっさりと答える。
それにヴァルスが、若干ながら拍子抜けした。
「だったら、何で…」
「…あの総統のことだ。セレンのことは、父親であるヴィルザーク侯爵の件を踏まえても、最初から殺すつもりでいたはず──
それが尖兵にだけ命令し、自らが色を窺うように傍観など…およそ、らしくない」
「…だとしたら?」
「次は総統が、自ら動く…のを先読みし、確実にロゼが来るだろうな」
「ロゼ…ねぇ。確かにあいつは、組織の中じゃ俺たちの先輩格になるのかもだけど、どーもいけすかなくてね…」
ヴァルスが仏頂面で天を仰ぐ。
「…なんであんな厄介な奴が動くかね。
ねー? 一体何でだろうねぇ? ユイ」
語感を皮肉混じりに強めて、ヴァルスはユイの方に、ちくちくと言葉責めをする。
「それもこれも、ユイがれっきとした、副総統だからだよねー?」
「…何が言いたい」
ヴァルスは今度は肩を竦めた。
「やだねぇ、分かってるくせに。
…ユイがその辺のザコレベルなら、カード(幹部予備)の連中だけで、粛正効果は充分なんだよ?
そいつらだけで事は済むはずなんだから。
それが、なまじ副総統なんてとんでもない階級なもんだから、わざわざあーいう面倒くさいのが出張って来るんでしょうが」
「…、お前が言うにしては正論なだけに、悔しいが返す言葉もないな」
「…それ、誉めてんの? 貶してんの?」
「誉めが3、貶しが7くらいか」
「あー…、なんかその辺りの冷静な即答、やっぱりユイって感じ…」
ヴァルスが悶々とした息をついた。
ユイは一刀両断に切って捨てる。
それを一瞬は唖然と見たヴァルスは、次には鋭く目を据わらせていた。
「そう思っているのはユイだけだよ。
足をあれだけ痛めても、こっちの足手まといにだけはなるまいと、必死に歩くセレンの姿を、その覚悟を…ユイは既に見ているだろう?
なのに、何故スキンシップくらい…」
「あいつに必要なのは馴れ合いじゃない。
それに、今、俺の側が軽率な甘さを見せる訳にはいかない」
「…?」
そのユイの、意味ありげな言い回しから、何かに気付いたらしいヴァルスが、一転、神経を尖らせ、高揚させた。
「まさか…、ユイ」
「セレンはあくまで、“俺に勝手に付いて来ているお荷物”という位置に留めなければ、組織側がどう出て来るか分からない。
だからセレンに対して、俺からの必要以上の介入は、極力避けなければならない…
それだけだ」
「…、成る程ね…」
ヴァルスは口に手を当てて考える。
…つまり、セレンがユイと、過剰に親しくしていることを組織が嗅ぎ付けたが最後、その当の組織が、ユイの言葉が示す通り、まさしく、“セレンに対して、どのように出るか分からない”のだ。
「…でもさぁ、ユイって、そういう割には自覚がないよね?」
ちら、と、ヴァルスがユイに、意味ありげな視線を走らせる。
「実際に組織にそう思わせる為だとしてもさ、現にユイは、セレンに服を用意してあげたり、俺を呼び出して、面倒をみせたりしたじゃない。
…あれだけの否フェミニストな冷血漢が、いつからそんなに女のコに対して、親切になったの?」
「…、なら、お前は…あの状況下で放っておけるか?」
ユイは逆に問うも、その双眸には間違いのない葛藤が浮かんでいる。
それによって自らの推測が確信に変わったヴァルスは、問答無用で脳内と心理内での両方で、肯定を余儀なくされることとなった。
「…総統に勘繰られるのは、時間の問題…以前に、手遅れだと思うんだけど」
「確かにな」
ユイは意外にも、あっさりと答える。
それにヴァルスが、若干ながら拍子抜けした。
「だったら、何で…」
「…あの総統のことだ。セレンのことは、父親であるヴィルザーク侯爵の件を踏まえても、最初から殺すつもりでいたはず──
それが尖兵にだけ命令し、自らが色を窺うように傍観など…およそ、らしくない」
「…だとしたら?」
「次は総統が、自ら動く…のを先読みし、確実にロゼが来るだろうな」
「ロゼ…ねぇ。確かにあいつは、組織の中じゃ俺たちの先輩格になるのかもだけど、どーもいけすかなくてね…」
ヴァルスが仏頂面で天を仰ぐ。
「…なんであんな厄介な奴が動くかね。
ねー? 一体何でだろうねぇ? ユイ」
語感を皮肉混じりに強めて、ヴァルスはユイの方に、ちくちくと言葉責めをする。
「それもこれも、ユイがれっきとした、副総統だからだよねー?」
「…何が言いたい」
ヴァルスは今度は肩を竦めた。
「やだねぇ、分かってるくせに。
…ユイがその辺のザコレベルなら、カード(幹部予備)の連中だけで、粛正効果は充分なんだよ?
そいつらだけで事は済むはずなんだから。
それが、なまじ副総統なんてとんでもない階級なもんだから、わざわざあーいう面倒くさいのが出張って来るんでしょうが」
「…、お前が言うにしては正論なだけに、悔しいが返す言葉もないな」
「…それ、誉めてんの? 貶してんの?」
「誉めが3、貶しが7くらいか」
「あー…、なんかその辺りの冷静な即答、やっぱりユイって感じ…」
ヴァルスが悶々とした息をついた。
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