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Ⅵ.因縁の魔窟
休息にもならぬ事態
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★☆★☆★
「!おい、マジですげー美味ぇよ、これ!
ほら、早くユイも食べてみろよ!」
「…おい」
「!ん…、さすがにこっちも絶品だな!
この、種類が豊富なミニケーキ! 紅茶と合わせると、それぞれが味わい深くて、ほんと半端ねぇぜ!」
「…ちょっと、ヴァルス」
凄まじい食欲も顕に、噛む間も惜しむ程に素早く、紅茶で喉奥に菓子を流し込むヴァルスに、ユイは明らかな呆れを入れ、セレンは口が真一文字になり…
そして半眼にもなっていた。
そんな2人の様子を、苦笑しながら眺めたレアンが、ユキに、菓子と紅茶のお代わりを、それぞれ持ってくるように促す。
それを察したヴァルスの目が輝いた。
「お!? お代わりかっ!?」
「…いい加減にしろ貴様」
ヴァルスの右隣に腰を落ち着け、それまで様子を窺っていたユイが、ついにたまりかねたのか、ヴァルスに対して、ゆらりと左手を伸ばした。
次には、そのままの心の勢いを殺さず、ヴァルスの右耳を、千切れんばかりに強く引っ張る。
これにはさすがに、ヴァルスが顔をしかめ、更に強烈にひきつらせた。
「!いていていて! …な、何すんだよ、ユイ!?」
「この期に及んで、まだ言わせる気か?」
殺気を纏ったユイには容赦がない。
それを察したヴァルスは、ユイの性格を良く知るだけに、すっかり反論に詰まり、口を引き結んだ。
「ヴァルス、おやつは静かに…ね?」
セレンがダメ出しをし、“頂きます”…と呟いて、自らもミニケーキを、ゆっくりと頬張る。
…口に広がる甘い味。それが、これまでの疲労を溶かし、流してくれるようで、セレンは無意識に、もうひとつのケーキを摘まんでいた。
そんなセレンを見て、ユイの怒りは多少、軟化する。
ユイは、とどめにぎゅうとヴァルスの耳を潰すと、傍らで耳を押さえて飛び上がった不届き者には目もくれず、今度はレアンを真正面から見つめた。
「煩い連れが失礼をした」
「構わない。もう慣れたからな」
こちらもすっかりヴァルスに慣れたのか、レアンは平然とそう答える。
…そんな時、タイミング良く、ユキがおやつのお代わりを持参する。
慌てて飛び付くヴァルスの襟首を、今度という今度は、ぎゅむと押さえつけながら、ユイはそんなヴァルスを、まるで意に介さず続けた。
「さて、見せて貰おうか? レアン公爵…
セレンの父親が遺した、真実とやらをな」
「ああ。…だが、その前に、こちらからも幾つか訊ねたい」
「なんだ?」
ユイの下でヴァルスが無駄な抵抗を示し、じたじたと藻掻くも、ユイはそんな大の大人の動きを、上から片手で軽々と押さえつけたままに問う。
…そんな、常人には遥かに難しい力技を、この体格で平然と行うユイに、自然、レアンの表情が、改めて引き締まった。
「…セレンの父・アーサーが、書類として託して来たのは…
ユイ、貴方の戸籍だ」
『…え…!?』
ヴァルスとセレンが、同時に声をあげる。
その疑問符を声色に抱いたまま、セレンが独り言のように呟いた。
「──ユイの…戸籍…!?
な、何故…そんなものを… お父様が!?」
「!…せ、セレンの言う通りだぜ!」
辛くもユイの手から逃れた… 否、恐らくはユイの側が外したであろう手の抑圧から逃れたヴァルスも、こちらもまた、驚きを隠せずに、勢いの波に乗るように、強く声を張り上げた。
「──組織・Break Gunsに属する人間に、戸籍が存在するはずがない!
あの暗殺組織は、“だからこそ”周囲から勘繰られず、法に縛られない形で存在しているんだ!」
「……」
何故か、ヴァルスの怒声にも似た否の声を聞いても、ユイは何も語らず、押し黙ったままだった。
「!おい、マジですげー美味ぇよ、これ!
ほら、早くユイも食べてみろよ!」
「…おい」
「!ん…、さすがにこっちも絶品だな!
この、種類が豊富なミニケーキ! 紅茶と合わせると、それぞれが味わい深くて、ほんと半端ねぇぜ!」
「…ちょっと、ヴァルス」
凄まじい食欲も顕に、噛む間も惜しむ程に素早く、紅茶で喉奥に菓子を流し込むヴァルスに、ユイは明らかな呆れを入れ、セレンは口が真一文字になり…
そして半眼にもなっていた。
そんな2人の様子を、苦笑しながら眺めたレアンが、ユキに、菓子と紅茶のお代わりを、それぞれ持ってくるように促す。
それを察したヴァルスの目が輝いた。
「お!? お代わりかっ!?」
「…いい加減にしろ貴様」
ヴァルスの右隣に腰を落ち着け、それまで様子を窺っていたユイが、ついにたまりかねたのか、ヴァルスに対して、ゆらりと左手を伸ばした。
次には、そのままの心の勢いを殺さず、ヴァルスの右耳を、千切れんばかりに強く引っ張る。
これにはさすがに、ヴァルスが顔をしかめ、更に強烈にひきつらせた。
「!いていていて! …な、何すんだよ、ユイ!?」
「この期に及んで、まだ言わせる気か?」
殺気を纏ったユイには容赦がない。
それを察したヴァルスは、ユイの性格を良く知るだけに、すっかり反論に詰まり、口を引き結んだ。
「ヴァルス、おやつは静かに…ね?」
セレンがダメ出しをし、“頂きます”…と呟いて、自らもミニケーキを、ゆっくりと頬張る。
…口に広がる甘い味。それが、これまでの疲労を溶かし、流してくれるようで、セレンは無意識に、もうひとつのケーキを摘まんでいた。
そんなセレンを見て、ユイの怒りは多少、軟化する。
ユイは、とどめにぎゅうとヴァルスの耳を潰すと、傍らで耳を押さえて飛び上がった不届き者には目もくれず、今度はレアンを真正面から見つめた。
「煩い連れが失礼をした」
「構わない。もう慣れたからな」
こちらもすっかりヴァルスに慣れたのか、レアンは平然とそう答える。
…そんな時、タイミング良く、ユキがおやつのお代わりを持参する。
慌てて飛び付くヴァルスの襟首を、今度という今度は、ぎゅむと押さえつけながら、ユイはそんなヴァルスを、まるで意に介さず続けた。
「さて、見せて貰おうか? レアン公爵…
セレンの父親が遺した、真実とやらをな」
「ああ。…だが、その前に、こちらからも幾つか訊ねたい」
「なんだ?」
ユイの下でヴァルスが無駄な抵抗を示し、じたじたと藻掻くも、ユイはそんな大の大人の動きを、上から片手で軽々と押さえつけたままに問う。
…そんな、常人には遥かに難しい力技を、この体格で平然と行うユイに、自然、レアンの表情が、改めて引き締まった。
「…セレンの父・アーサーが、書類として託して来たのは…
ユイ、貴方の戸籍だ」
『…え…!?』
ヴァルスとセレンが、同時に声をあげる。
その疑問符を声色に抱いたまま、セレンが独り言のように呟いた。
「──ユイの…戸籍…!?
な、何故…そんなものを… お父様が!?」
「!…せ、セレンの言う通りだぜ!」
辛くもユイの手から逃れた… 否、恐らくはユイの側が外したであろう手の抑圧から逃れたヴァルスも、こちらもまた、驚きを隠せずに、勢いの波に乗るように、強く声を張り上げた。
「──組織・Break Gunsに属する人間に、戸籍が存在するはずがない!
あの暗殺組織は、“だからこそ”周囲から勘繰られず、法に縛られない形で存在しているんだ!」
「……」
何故か、ヴァルスの怒声にも似た否の声を聞いても、ユイは何も語らず、押し黙ったままだった。
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