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†闇の花霞†
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★☆★☆★
「…あの頃の累世、本当に、凄く可愛かったわよね」
春の太陽を思わせる満面の笑みを浮かべて、ソファーに座っていた唯香が立ち上がり、テレビ近くに置かれていたデッキから、DVDを抜き取る。
対して、向かいのソファーに体を沈めるようにして雑誌に目を通していた累世は、この唯香の言葉を聞くと、手にした雑誌を傍らに置き、軽く溜め息をついて身を起こした。
「…唯香、それって今の俺の前で言うことじゃ…」
「えー? だって本当のことだもの、いいじゃない」
平然とそう言い放って浮かれる母親に、累世は更なる深い溜め息をつかずにはいられなくなる。
「…親馬鹿」
さらりと出た一言がこれなのだが、やはりというべきか、唯香がこれに軽い目くじらを立てる。
「あ! 失礼ね累世ったら。あたしだって欲目ばかりで言ってるんじゃないのよ? だって…」
“貴方の父親は、半端じゃない美形なんだから”と言いかけた唯香の台詞は、累世の眉が顰められたことによって抑えられた。
「先に言っておくが、惚気はもう聞き飽きてる。俺の父親って奴が、そこそこ整った顔立ちをしているらしいことも、何となく分かるしな」
「!惚気って… あのねぇ!」
「いいから。頼むからそういうのは一人で見てくれよ…
…恥ずかしいだろ」
累世は目のやり場に困って、赤くなった顔を伏せる。
それに唯香は不意に抱きつくと、累世の髪に手を埋めるようにして、その頭を撫でた。
「もしかしなくても照れてるの? 累世ってば、可愛い…!」
「!っ、なに馬鹿なこと言って…」
「そう照れることないじゃない。もう…あまりに可愛すぎて、これがあたしの息子だなんて思えないわ」
にこにこと笑みを浮かべたまま、唯香は累世の頭から手を滑らせる。
そんな無防備な母親に、累世は、まだ顔を赤らめたまま、軽く咳払いをした。
「…唯香、ここが家だからいいが、外でそんなこと言ったら、完全に誤解されるからな。
ましてや俺はこんな外見なんだし、嫌でも人の目につくんだから…気をつけてくれよ」
そう忠告した累世の容姿は、銀髪蒼眼。
これは他ならぬ両親譲りなのだが、黒髪黒眼が一般とされる周囲の者たちの累世を見る目は、完全に外国人に対してのそれだ。
そんな容姿を持った者が、傍目には同様の年齢に見える母親と歩く。
…これを異様でなくて、何だというのか。
「うん…分かってるよ累世」
唯香は累世から離れると、そう寂しげに微笑んだ。
自分の見た目が変わらないから。
それで累世を傷つけた。
それで累世が、自分に酷く遠慮をするようになったのも事実だ。
必要以上に気を配って、その話す言葉にも気を遣って。
母親が自分であるというだけで、累世は今までどれほどの負い目を背負って来たのだろう…
「…また何か余計なことを考えているな、唯香」
「!」
その当の累世に、不意に図星をつかれて、唯香は俯き加減になっていた顔をあげた。
そこには、僅かに咎めるような息子の顔がある。
──父親であるカミュに良く似た、累世の顔が。
「勘違いするな。俺は別に唯香を責めている訳じゃない…
でも、事がバレて傷つくのは、俺じゃなくて唯香の方だろう?
母親が、世間の好奇の目に曝されて、場合によっては何かの研究対象にすらなりかねない…
俺はそんなの御免だ。だから俺は…唯香を守りたいと思っている。…でも」
ここで累世は一息つくと、真剣な眼差しで唯香を見つめた。
「…唯香にも、その自覚を充分に持って欲しい。
…でなければ、俺は…」
そういったきり、累世は言葉に詰まって目を伏せる。
「…累世…」
唯香は、込み上げる感情を解放するかのように、強く、累世を抱きしめた。
…時の止まった母。
父親の姿を映し、成長する息子。
間違っているのだろうか、それは。
過ちなのだろうか… その全てが。
だとしたらそれは、
“何処から何処までが”…?
「…ごめんね、累世」
「…、謝るなよ。俺こそ悪かった…
でも、分かるだろう? 俺は…唯香のことが心配なんだ」
「うん、分かってる…有難う累世」
唯香は息子の優しさを、深く胸中で噛みしめていた。
…そんな中、緩やかに脳裏に浮かぶ、あの記憶。
“あの時”、まだ幼い累世は間違ってはいなかったのに。
周囲の冷たい視線が、累世に注がれるのが何よりも怖くて。
…明らかに過ちだと分かっている嘘を、つかせてしまった。
真に謝らなければならないのは、累世の方じゃない…
発端は自分。
非があるのも自分。
累世は…何も悪くない。
悪くなんか…ない。
「…唯香?」
それでもその考えは、記憶は表情に出ていたのか…
累世が、唯香の名前を呼ぶ。
…それでも唯香は、自らの過去の過ちを、その記憶の中から思い返していた。
「…あの頃の累世、本当に、凄く可愛かったわよね」
春の太陽を思わせる満面の笑みを浮かべて、ソファーに座っていた唯香が立ち上がり、テレビ近くに置かれていたデッキから、DVDを抜き取る。
対して、向かいのソファーに体を沈めるようにして雑誌に目を通していた累世は、この唯香の言葉を聞くと、手にした雑誌を傍らに置き、軽く溜め息をついて身を起こした。
「…唯香、それって今の俺の前で言うことじゃ…」
「えー? だって本当のことだもの、いいじゃない」
平然とそう言い放って浮かれる母親に、累世は更なる深い溜め息をつかずにはいられなくなる。
「…親馬鹿」
さらりと出た一言がこれなのだが、やはりというべきか、唯香がこれに軽い目くじらを立てる。
「あ! 失礼ね累世ったら。あたしだって欲目ばかりで言ってるんじゃないのよ? だって…」
“貴方の父親は、半端じゃない美形なんだから”と言いかけた唯香の台詞は、累世の眉が顰められたことによって抑えられた。
「先に言っておくが、惚気はもう聞き飽きてる。俺の父親って奴が、そこそこ整った顔立ちをしているらしいことも、何となく分かるしな」
「!惚気って… あのねぇ!」
「いいから。頼むからそういうのは一人で見てくれよ…
…恥ずかしいだろ」
累世は目のやり場に困って、赤くなった顔を伏せる。
それに唯香は不意に抱きつくと、累世の髪に手を埋めるようにして、その頭を撫でた。
「もしかしなくても照れてるの? 累世ってば、可愛い…!」
「!っ、なに馬鹿なこと言って…」
「そう照れることないじゃない。もう…あまりに可愛すぎて、これがあたしの息子だなんて思えないわ」
にこにこと笑みを浮かべたまま、唯香は累世の頭から手を滑らせる。
そんな無防備な母親に、累世は、まだ顔を赤らめたまま、軽く咳払いをした。
「…唯香、ここが家だからいいが、外でそんなこと言ったら、完全に誤解されるからな。
ましてや俺はこんな外見なんだし、嫌でも人の目につくんだから…気をつけてくれよ」
そう忠告した累世の容姿は、銀髪蒼眼。
これは他ならぬ両親譲りなのだが、黒髪黒眼が一般とされる周囲の者たちの累世を見る目は、完全に外国人に対してのそれだ。
そんな容姿を持った者が、傍目には同様の年齢に見える母親と歩く。
…これを異様でなくて、何だというのか。
「うん…分かってるよ累世」
唯香は累世から離れると、そう寂しげに微笑んだ。
自分の見た目が変わらないから。
それで累世を傷つけた。
それで累世が、自分に酷く遠慮をするようになったのも事実だ。
必要以上に気を配って、その話す言葉にも気を遣って。
母親が自分であるというだけで、累世は今までどれほどの負い目を背負って来たのだろう…
「…また何か余計なことを考えているな、唯香」
「!」
その当の累世に、不意に図星をつかれて、唯香は俯き加減になっていた顔をあげた。
そこには、僅かに咎めるような息子の顔がある。
──父親であるカミュに良く似た、累世の顔が。
「勘違いするな。俺は別に唯香を責めている訳じゃない…
でも、事がバレて傷つくのは、俺じゃなくて唯香の方だろう?
母親が、世間の好奇の目に曝されて、場合によっては何かの研究対象にすらなりかねない…
俺はそんなの御免だ。だから俺は…唯香を守りたいと思っている。…でも」
ここで累世は一息つくと、真剣な眼差しで唯香を見つめた。
「…唯香にも、その自覚を充分に持って欲しい。
…でなければ、俺は…」
そういったきり、累世は言葉に詰まって目を伏せる。
「…累世…」
唯香は、込み上げる感情を解放するかのように、強く、累世を抱きしめた。
…時の止まった母。
父親の姿を映し、成長する息子。
間違っているのだろうか、それは。
過ちなのだろうか… その全てが。
だとしたらそれは、
“何処から何処までが”…?
「…ごめんね、累世」
「…、謝るなよ。俺こそ悪かった…
でも、分かるだろう? 俺は…唯香のことが心配なんだ」
「うん、分かってる…有難う累世」
唯香は息子の優しさを、深く胸中で噛みしめていた。
…そんな中、緩やかに脳裏に浮かぶ、あの記憶。
“あの時”、まだ幼い累世は間違ってはいなかったのに。
周囲の冷たい視線が、累世に注がれるのが何よりも怖くて。
…明らかに過ちだと分かっている嘘を、つかせてしまった。
真に謝らなければならないのは、累世の方じゃない…
発端は自分。
非があるのも自分。
累世は…何も悪くない。
悪くなんか…ない。
「…唯香?」
それでもその考えは、記憶は表情に出ていたのか…
累世が、唯香の名前を呼ぶ。
…それでも唯香は、自らの過去の過ちを、その記憶の中から思い返していた。
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