†血族たちの秘密†

如月統哉

文字の大きさ
27 / 63
†闇の花霞†

しおりを挟む
★☆★☆★

「…あの頃の累世、本当に、凄く可愛かったわよね」

春の太陽を思わせる満面の笑みを浮かべて、ソファーに座っていた唯香が立ち上がり、テレビ近くに置かれていたデッキから、DVDを抜き取る。

対して、向かいのソファーに体を沈めるようにして雑誌に目を通していた累世は、この唯香の言葉を聞くと、手にした雑誌を傍らに置き、軽く溜め息をついて身を起こした。

「…唯香、それって今の俺の前で言うことじゃ…」
「えー? だって本当のことだもの、いいじゃない」

平然とそう言い放って浮かれる母親に、累世は更なる深い溜め息をつかずにはいられなくなる。

「…親馬鹿」

さらりと出た一言がこれなのだが、やはりというべきか、唯香がこれに軽い目くじらを立てる。

「あ! 失礼ね累世ったら。あたしだって欲目ばかりで言ってるんじゃないのよ? だって…」

“貴方の父親は、半端じゃない美形なんだから”と言いかけた唯香の台詞は、累世の眉が顰められたことによって抑えられた。

「先に言っておくが、惚気はもう聞き飽きてる。俺の父親って奴が、そこそこ整った顔立ちをしているらしいことも、何となく分かるしな」
「!惚気って… あのねぇ!」
「いいから。頼むからそういうのは一人で見てくれよ…
…恥ずかしいだろ」

累世は目のやり場に困って、赤くなった顔を伏せる。
それに唯香は不意に抱きつくと、累世の髪に手を埋めるようにして、その頭を撫でた。

「もしかしなくても照れてるの? 累世ってば、可愛い…!」
「!っ、なに馬鹿なこと言って…」
「そう照れることないじゃない。もう…あまりに可愛すぎて、これがあたしの息子だなんて思えないわ」

にこにこと笑みを浮かべたまま、唯香は累世の頭から手を滑らせる。
そんな無防備な母親に、累世は、まだ顔を赤らめたまま、軽く咳払いをした。

「…唯香、ここが家だからいいが、外でそんなこと言ったら、完全に誤解されるからな。
ましてや俺はこんな外見なんだし、嫌でも人の目につくんだから…気をつけてくれよ」

そう忠告した累世の容姿は、銀髪蒼眼。
これは他ならぬ両親譲りなのだが、黒髪黒眼が一般とされる周囲の者たちの累世を見る目は、完全に外国人に対してのそれだ。

そんな容姿を持った者が、傍目には同様の年齢に見える母親と歩く。
…これを異様でなくて、何だというのか。

「うん…分かってるよ累世」

唯香は累世から離れると、そう寂しげに微笑んだ。


自分の見た目が変わらないから。
それで累世を傷つけた。
それで累世が、自分に酷く遠慮をするようになったのも事実だ。


必要以上に気を配って、その話す言葉にも気を遣って。
母親が自分であるというだけで、累世は今までどれほどの負い目を背負って来たのだろう…


「…また何か余計なことを考えているな、唯香」
「!」

その当の累世に、不意に図星をつかれて、唯香は俯き加減になっていた顔をあげた。
そこには、僅かに咎めるような息子の顔がある。


──父親であるカミュに良く似た、累世の顔が。


「勘違いするな。俺は別に唯香を責めている訳じゃない…
でも、事がバレて傷つくのは、俺じゃなくて唯香の方だろう?
母親が、世間の好奇の目に曝されて、場合によっては何かの研究対象にすらなりかねない…
俺はそんなの御免だ。だから俺は…唯香を守りたいと思っている。…でも」

ここで累世は一息つくと、真剣な眼差しで唯香を見つめた。

「…唯香にも、その自覚を充分に持って欲しい。
…でなければ、俺は…」

そういったきり、累世は言葉に詰まって目を伏せる。

「…累世…」

唯香は、込み上げる感情を解放するかのように、強く、累世を抱きしめた。


…時の止まった母。
父親の姿を映し、成長する息子。


間違っているのだろうか、それは。
過ちなのだろうか… その全てが。


だとしたらそれは、
“何処から何処までが”…?


「…ごめんね、累世」
「…、謝るなよ。俺こそ悪かった…
でも、分かるだろう? 俺は…唯香のことが心配なんだ」
「うん、分かってる…有難う累世」

唯香は息子の優しさを、深く胸中で噛みしめていた。



…そんな中、緩やかに脳裏に浮かぶ、あの記憶。



“あの時”、まだ幼い累世は間違ってはいなかったのに。
周囲の冷たい視線が、累世に注がれるのが何よりも怖くて。



…明らかに過ちだと分かっている嘘を、つかせてしまった。



真に謝らなければならないのは、累世の方じゃない…


発端は自分。
非があるのも自分。
累世は…何も悪くない。
悪くなんか…ない。


「…唯香?」

それでもその考えは、記憶は表情に出ていたのか…
累世が、唯香の名前を呼ぶ。


…それでも唯香は、自らの過去の過ちを、その記憶の中から思い返していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...