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†翼の回帰†
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「!…」
唐突に何者かの強力な魔力を感じ取って、レイヴァンはその瞳を強い敵意に染め上げた。
…感じられるのは精の黒瞑界の一派、つまり味方側のものではない。
しかもその魔力の持ち主は、明らかにこちらへ向かって、的確に距離を詰めて来ている。
しかし、それ程の気配には覚えがない。
ジャドウであれば、先に対峙したということからも、その魔力には確実に見当がつくし、何よりも彼は、実力的にも対等かそれ以上と思われる、ゼルクに抑えられていたはずだ。
だが、だとすれば、この途方もない規模の魔力の持ち主は…
果たして誰なのだろうか?
「…、何にせよ、ここから早く離れた方がいいのは確かなようだ」
レイヴァンはそう結論づけると、玲奈の未練を自ら振り切るようにして扉へと手をかけた。
するとそんなレイヴァンに、たまりかねたらしい玲奈が、後ろから強くしがみついた。
これにレイヴァンは、当然、剣呑な瞳を背後に向ける。
「…何のつもりだ?」
「あ…あなたこそ、どういうつもりなの!?
そんな体で歩き回るなんて無茶よ!」
涙に潤んだ瞳で、玲奈はレイヴァンを見上げた。
しかしレイヴァンは、そんな玲奈に、氷に満ちた視線を落とす。
「いい加減にしろ。お前の我が儘には既に付き合っただろう」
「それは分かってる!」
玲奈は必死に声を荒げた。
「玲が、嫌なのにあたしに付き合ってくれたことも、早くここから離れたいことも…みんな、みんな分かってる!
でも、それとこれとは話が違うのよ!」
「…俺にとっては同じことだ。
分かったらその手を離せ。これ以上、俺の邪魔をするようなら、例えお前でも容赦はしない」
冷たく言い捨てて、レイヴァンは扉へと視線を戻した。
すると玲奈は意外にも、それで怯むどころか、ますますその両腕に力を込めてレイヴァンを引き留めようとする。
それにレイヴァンがさすがに苛立ちを覚えて、怒りに任せて再び振り返った時。
玲奈は、きっ、と顔を上げると、レイヴァンの怒りを上回る程の激しい怒りをまともに見せながらも、はっきりと自らの意志を口にした。
「この手を折るのも千切るのも、あなたの好きにすればいい!
ここで何もしないであなたに負けて、そのまま行かせて後悔するより、万に一つでもあなたを止められる可能性があるなら…
例えこの両腕がどうなろうとも、あたしはあなたを止める方を選ぶわ!」
「!…本気か…?」
レイヴァンの表情から、その雰囲気から、その全てから…
冷の感情が消失する。
…すると。
「──ったく、この融通皆無の魔力だけの堅物が…
よりにもよって女のコの方から、そうまで言わせるなんてなぁ」
「…!?」
その良く通る声に嫌というほど聞き覚えのあるレイヴァンは、瞬間、これまた果てしなく嫌な予感と、それを上回る一種の確信と共に、声の主を見やった。
…玲奈の背後、つまり部屋の中央にあたるその場所には、いつの間にか、ジャドウと戦っていたはずのゼルクが、軽く頭を押さえ、溜め息をつきながら立っていた。
「ゼルク!」
六魔将の長、つまり自分より格上の、先輩にもあたるゼルクの姿を見たレイヴァンの瞳は、強い驚きに見開かれた。
慌てて体をそちらに向けたレイヴァンに、ゼルクは渋い表情で軽く頭を掻き、次には一転して射抜くような視線を向けた。
そんなゼルクに、当然の如くレイヴァンはたじろぐ。
「…ぜ、ゼルク… ジャドウは…?」
「あぁ? …あー、あいつか。
一矢は報いといたから気にすんな」
あっけらかんとしたゼルクの答えに、レイヴァンは言うまでもなく、再び嫌な予感がする。
「一矢報いた…? 一体何を…」
「あまりにもしつこいもんでな、頭に来て右腕まるごと吹っ飛ばしてやったんだよ。
まあその分、こっちもただじゃ済まなかったけどな」
そう言うとゼルクは、忌々しげに右脇腹を指差した。
そこには血こそ止まっているものの、到底軽傷止まりではない傷が、はっきりと見て取れる。
「でもお前、あれ以上、あの場にいなくて正解だったぞ…
何しろあいつ、強いことも強いが、何より執拗なことこの上なくてな。
…そこそこ時間が許すなら、完全に潰してやるとこだったんだが」
言いながら手を下ろし、憂さ晴らしをするように軽く息をついたゼルクは、ふと、自分とレイヴァンの間で固まっている玲奈に気付いた。
…まあそれも道理だろう。
レイヴァンと二人だけで、出入り口を前にしていたはずが、突然、その背後から誰かが現れるだなどと、当然、予想だにしないだろうから。
「…無理もないが…そうまで固まることもないんじゃないか?」
「!」
突然にゼルクに話しかけられて、玲奈の体は目に見えて跳ねた。
それでも逃げたり怯えたりしなかったのは、それまでのレイヴァンの様子から、ゼルクが完全に彼の顔見知りであると分かっていたからだ。
唐突に何者かの強力な魔力を感じ取って、レイヴァンはその瞳を強い敵意に染め上げた。
…感じられるのは精の黒瞑界の一派、つまり味方側のものではない。
しかもその魔力の持ち主は、明らかにこちらへ向かって、的確に距離を詰めて来ている。
しかし、それ程の気配には覚えがない。
ジャドウであれば、先に対峙したということからも、その魔力には確実に見当がつくし、何よりも彼は、実力的にも対等かそれ以上と思われる、ゼルクに抑えられていたはずだ。
だが、だとすれば、この途方もない規模の魔力の持ち主は…
果たして誰なのだろうか?
「…、何にせよ、ここから早く離れた方がいいのは確かなようだ」
レイヴァンはそう結論づけると、玲奈の未練を自ら振り切るようにして扉へと手をかけた。
するとそんなレイヴァンに、たまりかねたらしい玲奈が、後ろから強くしがみついた。
これにレイヴァンは、当然、剣呑な瞳を背後に向ける。
「…何のつもりだ?」
「あ…あなたこそ、どういうつもりなの!?
そんな体で歩き回るなんて無茶よ!」
涙に潤んだ瞳で、玲奈はレイヴァンを見上げた。
しかしレイヴァンは、そんな玲奈に、氷に満ちた視線を落とす。
「いい加減にしろ。お前の我が儘には既に付き合っただろう」
「それは分かってる!」
玲奈は必死に声を荒げた。
「玲が、嫌なのにあたしに付き合ってくれたことも、早くここから離れたいことも…みんな、みんな分かってる!
でも、それとこれとは話が違うのよ!」
「…俺にとっては同じことだ。
分かったらその手を離せ。これ以上、俺の邪魔をするようなら、例えお前でも容赦はしない」
冷たく言い捨てて、レイヴァンは扉へと視線を戻した。
すると玲奈は意外にも、それで怯むどころか、ますますその両腕に力を込めてレイヴァンを引き留めようとする。
それにレイヴァンがさすがに苛立ちを覚えて、怒りに任せて再び振り返った時。
玲奈は、きっ、と顔を上げると、レイヴァンの怒りを上回る程の激しい怒りをまともに見せながらも、はっきりと自らの意志を口にした。
「この手を折るのも千切るのも、あなたの好きにすればいい!
ここで何もしないであなたに負けて、そのまま行かせて後悔するより、万に一つでもあなたを止められる可能性があるなら…
例えこの両腕がどうなろうとも、あたしはあなたを止める方を選ぶわ!」
「!…本気か…?」
レイヴァンの表情から、その雰囲気から、その全てから…
冷の感情が消失する。
…すると。
「──ったく、この融通皆無の魔力だけの堅物が…
よりにもよって女のコの方から、そうまで言わせるなんてなぁ」
「…!?」
その良く通る声に嫌というほど聞き覚えのあるレイヴァンは、瞬間、これまた果てしなく嫌な予感と、それを上回る一種の確信と共に、声の主を見やった。
…玲奈の背後、つまり部屋の中央にあたるその場所には、いつの間にか、ジャドウと戦っていたはずのゼルクが、軽く頭を押さえ、溜め息をつきながら立っていた。
「ゼルク!」
六魔将の長、つまり自分より格上の、先輩にもあたるゼルクの姿を見たレイヴァンの瞳は、強い驚きに見開かれた。
慌てて体をそちらに向けたレイヴァンに、ゼルクは渋い表情で軽く頭を掻き、次には一転して射抜くような視線を向けた。
そんなゼルクに、当然の如くレイヴァンはたじろぐ。
「…ぜ、ゼルク… ジャドウは…?」
「あぁ? …あー、あいつか。
一矢は報いといたから気にすんな」
あっけらかんとしたゼルクの答えに、レイヴァンは言うまでもなく、再び嫌な予感がする。
「一矢報いた…? 一体何を…」
「あまりにもしつこいもんでな、頭に来て右腕まるごと吹っ飛ばしてやったんだよ。
まあその分、こっちもただじゃ済まなかったけどな」
そう言うとゼルクは、忌々しげに右脇腹を指差した。
そこには血こそ止まっているものの、到底軽傷止まりではない傷が、はっきりと見て取れる。
「でもお前、あれ以上、あの場にいなくて正解だったぞ…
何しろあいつ、強いことも強いが、何より執拗なことこの上なくてな。
…そこそこ時間が許すなら、完全に潰してやるとこだったんだが」
言いながら手を下ろし、憂さ晴らしをするように軽く息をついたゼルクは、ふと、自分とレイヴァンの間で固まっている玲奈に気付いた。
…まあそれも道理だろう。
レイヴァンと二人だけで、出入り口を前にしていたはずが、突然、その背後から誰かが現れるだなどと、当然、予想だにしないだろうから。
「…無理もないが…そうまで固まることもないんじゃないか?」
「!」
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