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†翼の回帰†
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「心配すんな。俺は見ての通りのこいつの知り合いだ」
ちゃり…、と、例の服の鎖の音を立てて、ゼルクは肩を竦めてみせた。
そんなゼルクの様子に、玲奈の警戒は若干緩む。
「…玲の…知り合い?」
「“レイ”?」
すかさずゼルクが反応する。
「何、お前… 名前教えたのか?」
「…いや…」
レイヴァンは答えを濁らせた。
正確に言えば、教えたのではなく、少しばかり“洩らした”。
だがそんなことを迂闊にゼルクに話せば、言うまでもなく、これ幸いと茶化されるに決まっている。
それ故にレイヴァンは視線を逸らしたのだが、どっこい、ゼルクはさすがに六魔将の長。
レイヴァンのそんな様子から、あっさりと事の次第を見抜いたのか、次には口元に不敵な笑みを湛えると、薄い半眼でレイヴァンに絡んだ。
「…成る程な、そういうことか…
なら丁度いい。どうせあの深手じゃ当分は役には立たないだろうし、この子も見たところ、お前のことを気にしてくれてるみたいだから…
せっかくだから此処で養生させて貰え」
「!な… ゼルクっ!?」
よもや、ゼルク側からそんなことを言ってくるとは、思いもよらなかったレイヴァンが絶句する。
するとゼルクは、不敵な笑みを緩めると、その一方でその半眼をますます露わなものにした。
「反論は却下だ。大体、俺が何故あの時、お前を精の黒瞑界じゃなく、人間界に飛ばしたと思ってる?」
「!」
これにレイヴァンは瞬間、何かに気付き、彼には珍しく、激しく動揺した。
それを見たゼルクは、年齢不相応に大人びたレイヴァンの性質の一環を崩したことから、満足そうに、そしてからかうように笑う。
「…サヴァイス様にも言われてるんじゃ、さすがに何の情報もないままには帰れないだろ?」
「……」
「いい子に当たって良かったな」
くす、と、ゼルクは極上の人懐こい笑みを見せる。
…しかしこれに対してレイヴァンは、心中穏やかではない。
「…ゼルク」
「反論は却下っつったろ」
「そうじゃない」
レイヴァンはゼルクを通して、その後ろにある大きめな窓へと目を向けた。
「俺にそうまで養生しろと言うからには、あいつの面倒は見てくれるんだろうな?」
「はぁ? 誰の面倒を見ろって──」
それまでは無意識にか、腕を組んで棘なく笑んでいたゼルクだったが、つとレイヴァンの視線を辿り、その指摘先にある“者”を見て、途端に渋い顔をした。
「…居たのかよ、シャイン婆ぁ」
心底嫌そうにゼルクが唸る。
…そこにはいつの間にか、その窓枠に体を預ける形で、中の様子を妖艶な笑みと共に窺っている、金髪色白の美女が居たのだ。
…しかし。
その美女はゼルクの『婆(ババ)ぁ』発言が、よくよく頭に来たのか、次にはこめかみにぴきりと青筋を浮かべ、そのまま思い切り息を吸い込むと、その場の空気などはまるで意に介さず、勢いに任せて早口にまくし立てた。
「婆ぁとはご挨拶だね、ゼルク坊や!」
「うっせぇ! いい歳した男つかまえて、顔突き合わすたびいちいち坊や呼ばわりしてんじゃねぇよこの年増!」
「ひよっこ坊やは本当のことだろう!?」
「!こンのクソ婆ぁ…、どさくさまぎれに“ひよっこ”なんて余計なもんくっつけんな!」
果てしなく別な意味で激しく火花を散らしながらも、双方はまさに噛みつきかねない勢いで、怒りに任せて毒づく。
「…シャイン…って」
その名に聞き覚えのあるレイヴァンが、呆然となりながらも思わず声を洩らす。
するとゼルクがそれまでの応酬の精神的な疲れからか、ぜぇはぁと息を荒げながらも、これが止(トド)めとばかりに忌々しげに吐き捨てた。
「ああ…あいつはジャドウの連れ合い。
見ての通りのクソ婆ぁだ」
ゼルクは苦虫を噛み潰した…どころか更にそれをすり潰して、なおかつ諄さを増したような、苦々しい表情をまともに見せつつ、先を続ける。
「お前はまだジャドウの方しか見たことはないだろうが… あの婆ぁが今の闇魔界の双翼の一(イチ)、つまり、かのジャドウと対をなす存在だ」
「!それ程の実力が…彼女に?」
レイヴァンの当然の問いに、ゼルクは深い溜め息と共にうなだれる。
「ああ。魔力も性格も底意地も…
そのひねくれ具合も、他に類を見ない程に最強最悪だ」
「!っ、聞こえたよゼルク坊や!」
「…おまけにとんでもねぇ地獄耳だし」
はあ…とゼルクは更に深い溜め息をつく。
そしてじろりとシャインを見据えた。
「…旦那の右腕を吹っ飛ばされただけじゃ物足りないってか?」
「それはジャドウの油断だろう?」
シャインはふん、と鼻を鳴らしてみせる。
「こっちは久々にゼルク坊やを可愛がってやろうってのに、あの人の話を持ち出してくるなんて…ホント無粋極まりないねぇ。
そんなんじゃあ女にはモテないよ。もっと女心を勉強しないとね」
ちゃり…、と、例の服の鎖の音を立てて、ゼルクは肩を竦めてみせた。
そんなゼルクの様子に、玲奈の警戒は若干緩む。
「…玲の…知り合い?」
「“レイ”?」
すかさずゼルクが反応する。
「何、お前… 名前教えたのか?」
「…いや…」
レイヴァンは答えを濁らせた。
正確に言えば、教えたのではなく、少しばかり“洩らした”。
だがそんなことを迂闊にゼルクに話せば、言うまでもなく、これ幸いと茶化されるに決まっている。
それ故にレイヴァンは視線を逸らしたのだが、どっこい、ゼルクはさすがに六魔将の長。
レイヴァンのそんな様子から、あっさりと事の次第を見抜いたのか、次には口元に不敵な笑みを湛えると、薄い半眼でレイヴァンに絡んだ。
「…成る程な、そういうことか…
なら丁度いい。どうせあの深手じゃ当分は役には立たないだろうし、この子も見たところ、お前のことを気にしてくれてるみたいだから…
せっかくだから此処で養生させて貰え」
「!な… ゼルクっ!?」
よもや、ゼルク側からそんなことを言ってくるとは、思いもよらなかったレイヴァンが絶句する。
するとゼルクは、不敵な笑みを緩めると、その一方でその半眼をますます露わなものにした。
「反論は却下だ。大体、俺が何故あの時、お前を精の黒瞑界じゃなく、人間界に飛ばしたと思ってる?」
「!」
これにレイヴァンは瞬間、何かに気付き、彼には珍しく、激しく動揺した。
それを見たゼルクは、年齢不相応に大人びたレイヴァンの性質の一環を崩したことから、満足そうに、そしてからかうように笑う。
「…サヴァイス様にも言われてるんじゃ、さすがに何の情報もないままには帰れないだろ?」
「……」
「いい子に当たって良かったな」
くす、と、ゼルクは極上の人懐こい笑みを見せる。
…しかしこれに対してレイヴァンは、心中穏やかではない。
「…ゼルク」
「反論は却下っつったろ」
「そうじゃない」
レイヴァンはゼルクを通して、その後ろにある大きめな窓へと目を向けた。
「俺にそうまで養生しろと言うからには、あいつの面倒は見てくれるんだろうな?」
「はぁ? 誰の面倒を見ろって──」
それまでは無意識にか、腕を組んで棘なく笑んでいたゼルクだったが、つとレイヴァンの視線を辿り、その指摘先にある“者”を見て、途端に渋い顔をした。
「…居たのかよ、シャイン婆ぁ」
心底嫌そうにゼルクが唸る。
…そこにはいつの間にか、その窓枠に体を預ける形で、中の様子を妖艶な笑みと共に窺っている、金髪色白の美女が居たのだ。
…しかし。
その美女はゼルクの『婆(ババ)ぁ』発言が、よくよく頭に来たのか、次にはこめかみにぴきりと青筋を浮かべ、そのまま思い切り息を吸い込むと、その場の空気などはまるで意に介さず、勢いに任せて早口にまくし立てた。
「婆ぁとはご挨拶だね、ゼルク坊や!」
「うっせぇ! いい歳した男つかまえて、顔突き合わすたびいちいち坊や呼ばわりしてんじゃねぇよこの年増!」
「ひよっこ坊やは本当のことだろう!?」
「!こンのクソ婆ぁ…、どさくさまぎれに“ひよっこ”なんて余計なもんくっつけんな!」
果てしなく別な意味で激しく火花を散らしながらも、双方はまさに噛みつきかねない勢いで、怒りに任せて毒づく。
「…シャイン…って」
その名に聞き覚えのあるレイヴァンが、呆然となりながらも思わず声を洩らす。
するとゼルクがそれまでの応酬の精神的な疲れからか、ぜぇはぁと息を荒げながらも、これが止(トド)めとばかりに忌々しげに吐き捨てた。
「ああ…あいつはジャドウの連れ合い。
見ての通りのクソ婆ぁだ」
ゼルクは苦虫を噛み潰した…どころか更にそれをすり潰して、なおかつ諄さを増したような、苦々しい表情をまともに見せつつ、先を続ける。
「お前はまだジャドウの方しか見たことはないだろうが… あの婆ぁが今の闇魔界の双翼の一(イチ)、つまり、かのジャドウと対をなす存在だ」
「!それ程の実力が…彼女に?」
レイヴァンの当然の問いに、ゼルクは深い溜め息と共にうなだれる。
「ああ。魔力も性格も底意地も…
そのひねくれ具合も、他に類を見ない程に最強最悪だ」
「!っ、聞こえたよゼルク坊や!」
「…おまけにとんでもねぇ地獄耳だし」
はあ…とゼルクは更に深い溜め息をつく。
そしてじろりとシャインを見据えた。
「…旦那の右腕を吹っ飛ばされただけじゃ物足りないってか?」
「それはジャドウの油断だろう?」
シャインはふん、と鼻を鳴らしてみせる。
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