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†翼の回帰†
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「場所を変えますよ、シャイン=シレン…
貴女の相手は、我々がします」
「ふ…、小童(コワッパ)如きが。
ゼルク坊や抜きで、あたしの相手が務まるとでも思うのかい?」
「…と思うでしょう?」
ジェイドは何故かけろりとし、しかもそのまま意味ありげに笑う。
それにシャインが怪訝を覚えるより早く、フェンネルが自らが持つ、その風の魔力の一端を見せた。
──刹那の衝撃波が、シャインの金の髪の先を削り取る。
「!…っ」
術もなく断ち切られ、風に吹かれ舞う己の金髪を見たシャインの様子が、瞬間、それまでとは一変した。
その美しい表情は醜く歪み、まさに闇魔界の女帝といっても過言ではない程の、激しい憎しみと憤怒を露わにする。
その豹変を目の当たりにしたジェイドは、それでも臆することなく話を続けた。
「…何をそう勘違いしているのかは知りませんが、六魔将とは、精の黒瞑界きっての凄腕の実力者集団の称号…
現・長のゼルク以外を軽んじるのは貴女の勝手ですが、それは我々側が解釈すれば、一知半解以外の何物でもない」
「!…っ、煩い! そうまで言うならそのツラ貸しな! 二度とそんな口が利けないように、泣き叫ぶまで調教してやる!」
「…あーあ…、俺ぁ知らねぇぞ、こんなにサディスト婆ぁを怒らせやがって」
「だから元々は誰のせいですか…」
そのこめかみにうっすらと戦慄く血管さえ浮かべて、ジェイドが呟く。
そしてそのまま、彼は油断なく周囲を取り巻く鉱石の位置を、一瞬にして変えた。
瞬間、対極の位置にあった緑の鉱石二つが反応し、その直線上に存在したシャインの腕を、そこから発せられたレーザーのような閃光が、苦もなく掠める。
「…くっ!」
結果、シャインは歯を軋ませる形でその攻撃に耐える。
その隙を狙って、ジェイドは移動の魔力をタイミングよく発動させた。
「…ゼルク、こちらは任せて下さい。
代わりと言っては何ですが、その少女への対応は頼みましたよ。
レイヴァンと違って、貴方は口が巧いですからね。どうとでも言い逃れは可能でしょうから」
「…、どうしてこう既存六魔将の連中は、一言多い奴らばかりなんだ?」
ゼルクが、こちらも戦慄く血管を押さえると、それを合図にしたかのように、事を構えていた3人が、その場から姿を消す。
──後には、今のやり取りで目眩を覚えたレイヴァンと、すっかり閉口したゼルク…
そして呆然としたままの玲奈が残された。
★☆★☆★
「…で、えーと…
何から説明したらいいもんか…」
場の収拾を任されて、それ自体が苦手分野であるゼルクは、的確な言をひたすら無心に探すあまり、頬に伝う汗を意図的に拭うこともままならない。
それを見かねた玲奈がそっと、綺麗な作りの白いハンカチを差し出す。
それを感謝しながら受け取ったゼルクは、頬にその白いハンカチを軽く当てることで、焦りと共に汗を充分にそれに吸い取らせた。
…そしてテーブルにそれを静かに置けば、その視界にはレイヴァンと揃いの、高そうなお茶用のカップが入る。
中には、よい香りを周囲に漂わせる液体が入っている。
「…あ、あの、お口に合うかどうかは分かりませんが…もし、よろしければ…」
玲奈が辿々しく勧めてくる。
それにゼルクは、ちら、とカップの中身を一瞥した。
見かねたレイヴァンが間に入る。
「…ゼルク、飲んだらどうだ?
これは紅茶という、この世界の茶の一種らしい。俺も既に口にしたが、その味は悪くないどころか、かなり美味と言える代物だ」
「紅茶…か。確かになかなかに美味そうな香りだな。
分かった。ありがたく頂こう」
ゼルクは頷くと、そのカップを手に取って口を付けた。
ゆっくりと、紅茶を飲み下す。
…ゼルクの鼻に芳しい香りが抜け、舌に繊細な味わいが残り、そして喉には恍惚感にも近い、甘さを含んだ清しさが残る。
「!これは…美味いな」
「お気に召しましたか!?」
心底安堵したのか、玲奈が思わず身を乗り出した。
それにゼルクは、持ち前の調子を取り戻しながら答える。
「ああ、世辞抜きに美味いぜ」
「…よ、良かったあ…!」
へたへたと体の力が抜ける玲奈を、辛うじてその下にあった椅子が支える。
すると、先程の助言はどこへやら、渋い顔をしたレイヴァンが、人差し指でこつこつと目の前のテーブルを叩いた。
「…さて、どう話す? ゼルク」
「ああ…」
ゼルクは言葉を濁した。
そしてそのままカップを置くと、頭の後ろで手を組み、椅子の前足をわずかに浮かせる形で揺らす。
しばらくの間、ゆらゆらとその揺れに身を任せていたゼルクは、ふと、玲奈の方を向いた。
「──そういやもしかしなくても、まずは互いに名乗るのが先か?」
「!あ、はい…そうですね。えーと…」
玲奈は崩れかけた身を、引き締めるようにして一瞬にして起こすと、まっすぐにゼルクを見て話し掛けた。
貴女の相手は、我々がします」
「ふ…、小童(コワッパ)如きが。
ゼルク坊や抜きで、あたしの相手が務まるとでも思うのかい?」
「…と思うでしょう?」
ジェイドは何故かけろりとし、しかもそのまま意味ありげに笑う。
それにシャインが怪訝を覚えるより早く、フェンネルが自らが持つ、その風の魔力の一端を見せた。
──刹那の衝撃波が、シャインの金の髪の先を削り取る。
「!…っ」
術もなく断ち切られ、風に吹かれ舞う己の金髪を見たシャインの様子が、瞬間、それまでとは一変した。
その美しい表情は醜く歪み、まさに闇魔界の女帝といっても過言ではない程の、激しい憎しみと憤怒を露わにする。
その豹変を目の当たりにしたジェイドは、それでも臆することなく話を続けた。
「…何をそう勘違いしているのかは知りませんが、六魔将とは、精の黒瞑界きっての凄腕の実力者集団の称号…
現・長のゼルク以外を軽んじるのは貴女の勝手ですが、それは我々側が解釈すれば、一知半解以外の何物でもない」
「!…っ、煩い! そうまで言うならそのツラ貸しな! 二度とそんな口が利けないように、泣き叫ぶまで調教してやる!」
「…あーあ…、俺ぁ知らねぇぞ、こんなにサディスト婆ぁを怒らせやがって」
「だから元々は誰のせいですか…」
そのこめかみにうっすらと戦慄く血管さえ浮かべて、ジェイドが呟く。
そしてそのまま、彼は油断なく周囲を取り巻く鉱石の位置を、一瞬にして変えた。
瞬間、対極の位置にあった緑の鉱石二つが反応し、その直線上に存在したシャインの腕を、そこから発せられたレーザーのような閃光が、苦もなく掠める。
「…くっ!」
結果、シャインは歯を軋ませる形でその攻撃に耐える。
その隙を狙って、ジェイドは移動の魔力をタイミングよく発動させた。
「…ゼルク、こちらは任せて下さい。
代わりと言っては何ですが、その少女への対応は頼みましたよ。
レイヴァンと違って、貴方は口が巧いですからね。どうとでも言い逃れは可能でしょうから」
「…、どうしてこう既存六魔将の連中は、一言多い奴らばかりなんだ?」
ゼルクが、こちらも戦慄く血管を押さえると、それを合図にしたかのように、事を構えていた3人が、その場から姿を消す。
──後には、今のやり取りで目眩を覚えたレイヴァンと、すっかり閉口したゼルク…
そして呆然としたままの玲奈が残された。
★☆★☆★
「…で、えーと…
何から説明したらいいもんか…」
場の収拾を任されて、それ自体が苦手分野であるゼルクは、的確な言をひたすら無心に探すあまり、頬に伝う汗を意図的に拭うこともままならない。
それを見かねた玲奈がそっと、綺麗な作りの白いハンカチを差し出す。
それを感謝しながら受け取ったゼルクは、頬にその白いハンカチを軽く当てることで、焦りと共に汗を充分にそれに吸い取らせた。
…そしてテーブルにそれを静かに置けば、その視界にはレイヴァンと揃いの、高そうなお茶用のカップが入る。
中には、よい香りを周囲に漂わせる液体が入っている。
「…あ、あの、お口に合うかどうかは分かりませんが…もし、よろしければ…」
玲奈が辿々しく勧めてくる。
それにゼルクは、ちら、とカップの中身を一瞥した。
見かねたレイヴァンが間に入る。
「…ゼルク、飲んだらどうだ?
これは紅茶という、この世界の茶の一種らしい。俺も既に口にしたが、その味は悪くないどころか、かなり美味と言える代物だ」
「紅茶…か。確かになかなかに美味そうな香りだな。
分かった。ありがたく頂こう」
ゼルクは頷くと、そのカップを手に取って口を付けた。
ゆっくりと、紅茶を飲み下す。
…ゼルクの鼻に芳しい香りが抜け、舌に繊細な味わいが残り、そして喉には恍惚感にも近い、甘さを含んだ清しさが残る。
「!これは…美味いな」
「お気に召しましたか!?」
心底安堵したのか、玲奈が思わず身を乗り出した。
それにゼルクは、持ち前の調子を取り戻しながら答える。
「ああ、世辞抜きに美味いぜ」
「…よ、良かったあ…!」
へたへたと体の力が抜ける玲奈を、辛うじてその下にあった椅子が支える。
すると、先程の助言はどこへやら、渋い顔をしたレイヴァンが、人差し指でこつこつと目の前のテーブルを叩いた。
「…さて、どう話す? ゼルク」
「ああ…」
ゼルクは言葉を濁した。
そしてそのままカップを置くと、頭の後ろで手を組み、椅子の前足をわずかに浮かせる形で揺らす。
しばらくの間、ゆらゆらとその揺れに身を任せていたゼルクは、ふと、玲奈の方を向いた。
「──そういやもしかしなくても、まずは互いに名乗るのが先か?」
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