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†翼の回帰†
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「玲… いえ、彼には先に話しましたが、私の名前は神崎玲奈です」
「玲奈…ね、オッケー。いい名前だな。
俺はゼルク。ゼルク=ランドミリオンだ」
がたん、とひときわ大きな音を立てて、ゼルクは頭に当てた手を下ろすと同時、椅子をも固定させた。
「まあ言うなりゃ、こいつの先輩みたいなもんだな」
「後輩に多大なツケを回す先輩だけどな」
「…お前もその辺り、既に嫌んなるくらいあいつらに染まってんな…
しっかりひと言余計だっつーの」
ゼルクが、これ以上ない仏頂面で口を尖らせる。
しかしレイヴァンはそれを華麗に無視し、次いで話を進めた。
「…、ゼルクはいつもこうだからな、気にするな。先にゼルクが名乗ったのなら支障はないだろうが…」
なんとレイヴァンは、この言からするに、ゼルクが自身で名乗るまでは、自ら本名を話す気は、一切なかったらしい。
それを言い回しから察したゼルクが一転、レイヴァンの持ち前の聡明さに感心し、その瞳を向ける。
そんな中でレイヴァンは、静かにその口を開いた。
「俺の名は、レイヴァン=ゼファイルだ」
「…レイヴァン…?」
「ああ。だからあながちお前の呼びかけも間違いじゃない」
「…その通りだな」
いつの間にか紅茶を飲み干し、空になったカップを置きながら、ゼルクが立ち上がった。
「本当は玲奈に、俺から色々と話すつもりだったが…
お前の反応を見て気が変わった」
「…何だと?」
その意味ありげな口調に嫌な予感を覚えたレイヴァンが、ゼルクの言葉に食いつく。
「何も俺がわざわざ口を割らんでも、よく考えたらお前がいるんだよな。
…レイヴァン、喜べ。帰還命令はしばらく出さないでおいてやる」
「!な…っ」
「…例の命令も兼ねて、この機会に充分、人間とのコミュニケーションを測るといいさ」
「!」
ぴきっ、と、レイヴァンのこめかみ近くに青筋が浮く。
それを察したゼルクは、レイヴァンからの反撃が来る前に、逃げの一手を打った。
「じゃあ、またなレイヴァン!
玲奈、茶ぁ美味かったぜ、ご馳走様!」
そう口早に言い、2人に笑み混じりで挨拶したゼルクは、すぐさま魔力を用いることでその部屋から姿を消した。
…結果、当然というべきか、レイヴァンが完全に憤慨する。
「あいつ…! ジェイドに何て言われたか忘れたのか?
全く…、今度という今度は六魔将全員に、きっちり絞り上げて貰わないとな…!」
★☆★☆★
「!っくしっ」
…抑える間もなく、そう盛大にくしゃみをしたのは、あれからまっすぐに精の黒瞑界に帰還したゼルク。
そんなゼルクを、サヴァイスはさも楽しげに、そして微笑ましく眺めた。
「お前が早々に帰還するとは…
明日、雪どころか槍が降ってもおかしくは無かろうな」
「…槍って何ですか槍って」
くしゃみの影響で、些か涙目になった目を人差し指で拭いながら、ゼルクが返す。
するとその傍らにいたミハイルが、鋭くゼルクの脇腹の傷に目をやった。
「それがあのジャドウとのやり取りだからこそ、大目に見られていることの皮肉だろう?」
「…、よく人間界で遊び呆けて来なかったって言いたい訳か?」
「分かっていて聞き返すか?」
「あのな…そっちがそう言うからの嫌味に決まってんだろうが」
ひくひくと引きつる口元を宥めながらも、それでもゼルクは発言していたが、その最中、不意にシャインのあの言葉が思い出されて、ゼルクはすっかり大むくれで口を噤んだ。
(“これの何処がそう見えるってんだクソ婆ぁが”…)
…あの時はそう切り返したはずが、端から見れば、なるほど確かにそう見えているのかも知れない。
口は悪いが、とりあえずは信頼し、また、信用してくれているものだと思いたい… 一応は。
「──その当のレイヴァンの様子だが…」
不意に考えを断ち切られて、ゼルクは主の方へと向き直った。
「お前の目から見ては、どうであった?」
「…えーと…」
ゼルクはそれまでのレイヴァンの様子を、脳内で反復し、また、その科白のひとつひとつを反芻した。
それらをトータルし、導き出される結論。
それはゼルクの口元を自然に緩ませた。
「…まあ、悪かないですね。
最初が最初ですから、さすがにまだ迷いや戸惑いは隠せないようですが…
あの様子じゃ、別に放っておいてもいいんじゃないかと。
何よりあの偏屈の塊には、いい刺激になりますからね」
「偏屈…か。違いないな」
ミハイルが文句なしに賛同する。
…そんな2人を眼前にしながら、精の黒瞑界の君主は満足そうに笑んでいた。
──…手を離れた蒼い翼。
回帰の際には何を得、
何を喪失させて来るのか。
「人間に関わり、情を理解し…そしてその強さと儚さを知り、再びこの世界に還れ…
次代六魔将の長よ…!」
そんなサヴァイスの言は、静かな空間に、より深く染み通った。
─完─
「玲奈…ね、オッケー。いい名前だな。
俺はゼルク。ゼルク=ランドミリオンだ」
がたん、とひときわ大きな音を立てて、ゼルクは頭に当てた手を下ろすと同時、椅子をも固定させた。
「まあ言うなりゃ、こいつの先輩みたいなもんだな」
「後輩に多大なツケを回す先輩だけどな」
「…お前もその辺り、既に嫌んなるくらいあいつらに染まってんな…
しっかりひと言余計だっつーの」
ゼルクが、これ以上ない仏頂面で口を尖らせる。
しかしレイヴァンはそれを華麗に無視し、次いで話を進めた。
「…、ゼルクはいつもこうだからな、気にするな。先にゼルクが名乗ったのなら支障はないだろうが…」
なんとレイヴァンは、この言からするに、ゼルクが自身で名乗るまでは、自ら本名を話す気は、一切なかったらしい。
それを言い回しから察したゼルクが一転、レイヴァンの持ち前の聡明さに感心し、その瞳を向ける。
そんな中でレイヴァンは、静かにその口を開いた。
「俺の名は、レイヴァン=ゼファイルだ」
「…レイヴァン…?」
「ああ。だからあながちお前の呼びかけも間違いじゃない」
「…その通りだな」
いつの間にか紅茶を飲み干し、空になったカップを置きながら、ゼルクが立ち上がった。
「本当は玲奈に、俺から色々と話すつもりだったが…
お前の反応を見て気が変わった」
「…何だと?」
その意味ありげな口調に嫌な予感を覚えたレイヴァンが、ゼルクの言葉に食いつく。
「何も俺がわざわざ口を割らんでも、よく考えたらお前がいるんだよな。
…レイヴァン、喜べ。帰還命令はしばらく出さないでおいてやる」
「!な…っ」
「…例の命令も兼ねて、この機会に充分、人間とのコミュニケーションを測るといいさ」
「!」
ぴきっ、と、レイヴァンのこめかみ近くに青筋が浮く。
それを察したゼルクは、レイヴァンからの反撃が来る前に、逃げの一手を打った。
「じゃあ、またなレイヴァン!
玲奈、茶ぁ美味かったぜ、ご馳走様!」
そう口早に言い、2人に笑み混じりで挨拶したゼルクは、すぐさま魔力を用いることでその部屋から姿を消した。
…結果、当然というべきか、レイヴァンが完全に憤慨する。
「あいつ…! ジェイドに何て言われたか忘れたのか?
全く…、今度という今度は六魔将全員に、きっちり絞り上げて貰わないとな…!」
★☆★☆★
「!っくしっ」
…抑える間もなく、そう盛大にくしゃみをしたのは、あれからまっすぐに精の黒瞑界に帰還したゼルク。
そんなゼルクを、サヴァイスはさも楽しげに、そして微笑ましく眺めた。
「お前が早々に帰還するとは…
明日、雪どころか槍が降ってもおかしくは無かろうな」
「…槍って何ですか槍って」
くしゃみの影響で、些か涙目になった目を人差し指で拭いながら、ゼルクが返す。
するとその傍らにいたミハイルが、鋭くゼルクの脇腹の傷に目をやった。
「それがあのジャドウとのやり取りだからこそ、大目に見られていることの皮肉だろう?」
「…、よく人間界で遊び呆けて来なかったって言いたい訳か?」
「分かっていて聞き返すか?」
「あのな…そっちがそう言うからの嫌味に決まってんだろうが」
ひくひくと引きつる口元を宥めながらも、それでもゼルクは発言していたが、その最中、不意にシャインのあの言葉が思い出されて、ゼルクはすっかり大むくれで口を噤んだ。
(“これの何処がそう見えるってんだクソ婆ぁが”…)
…あの時はそう切り返したはずが、端から見れば、なるほど確かにそう見えているのかも知れない。
口は悪いが、とりあえずは信頼し、また、信用してくれているものだと思いたい… 一応は。
「──その当のレイヴァンの様子だが…」
不意に考えを断ち切られて、ゼルクは主の方へと向き直った。
「お前の目から見ては、どうであった?」
「…えーと…」
ゼルクはそれまでのレイヴァンの様子を、脳内で反復し、また、その科白のひとつひとつを反芻した。
それらをトータルし、導き出される結論。
それはゼルクの口元を自然に緩ませた。
「…まあ、悪かないですね。
最初が最初ですから、さすがにまだ迷いや戸惑いは隠せないようですが…
あの様子じゃ、別に放っておいてもいいんじゃないかと。
何よりあの偏屈の塊には、いい刺激になりますからね」
「偏屈…か。違いないな」
ミハイルが文句なしに賛同する。
…そんな2人を眼前にしながら、精の黒瞑界の君主は満足そうに笑んでいた。
──…手を離れた蒼い翼。
回帰の際には何を得、
何を喪失させて来るのか。
「人間に関わり、情を理解し…そしてその強さと儚さを知り、再びこの世界に還れ…
次代六魔将の長よ…!」
そんなサヴァイスの言は、静かな空間に、より深く染み通った。
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