DRAGON FOURTH

如月統哉

文字の大きさ
16 / 21
第一部【蠢く敵】

宿敵を前にした者は

しおりを挟む
「半分は賭けに過ぎない。皇子が起きていれば、対峙することが可能となり、そして寝ていれば…そのまま殺せばいいだけの事だからな」

いかにも暗殺者らしい、悪びれない淡々とした口調に、ライムが自然、声を荒げた。

「!じょ、冗談じゃないわよっ! あたしたちにしてもシグマにしても、貴方の気まぐれで殺されたりしてたまるもんですか!」
「煩い娘だな。…それ程までに殺されたいか?」

ルーファスが視線を尖らせる。それにシグマは、ほとんど反射的に制止をかけた。

「──よせ、ルーファス! お前の相手はそいつじゃない! お前の相手は、この俺だろう!?」
「ふっ…皇子が俺の相手だと? それは無理だな」

ルーファスがせせら笑う。
だがシグマは、そう聞いてもまるで怯むことなく、ルーファスを油断なくその視点に捉え続けた。

「ならば訊くが…どういう基準で、無理だと思うんだ?」
「知れたこと。…経験と実力の差だ」
「ふん…所詮、貴様の読みはその程度だ。だが──それをあくまで俺との差だと言うのなら、俺がそれを覆してやろう。
今すぐにでもな!」

シグマは手にしていた剣を、鞘からすらりと引き抜いた。
これを受けて、ルーファスも無言のまま、剣を手にする。
一瞬のうちに、シグマはルーファスに切りかかった。

…剣と剣がぶつかる音だけが、その部屋という名の空間に浸透するように響き渡る。
攻撃の先手を取ったのは確かにシグマの方だったが、反して防御に回ったはずのルーファスが、いつの間にか剣圧を増してきている。
ふとルーファスは、変わらずの余裕に満ちた表情で呟いた。

「ほう…剣の腕は、さすがに豪語するだけの事はある。だが…お前は何の為に戦っている? シグマ皇子」
「!何を…」

刹那、シグマの剣が虚い、惑い…そして躊躇いを見せる。
リックはそれに気付いたようで、瞬間、その紅眼をわずかに細めた。

ルーファスは低いが、よく通る声で、シグマがほんのわずか見せた惑いを、それを反映させた言葉と変え、当のシグマの耳に滑り込ませる。

「このままでは、皇子は父皇帝の二の舞だ。──その能力は、以前とは確かに桁違いだ。…だが俺から見れば、当時の奴の実力と、今のお前の実力が、然程変わっているとは思えん」
「知った事かっ!」

シグマはすぐさま否定することで言葉を潰す。

「そうか…ならば俺が何故、わざわざ皇子を生かしておいたか──考えたことはないのか?」
「!お前が…俺を生かしておいた理由?」

想定外でもある、まさしく意外な事を聞いたシグマの動きが、確実に鈍る。
するとルーファスは事前にそれを見越していたのか、囁くように低く、そして幼子に聞かせるように、そっと語りかけた。

「そうだ。俺が皇子を生かしておいた、その最大の理由だ…」
「!シグマっ! ──それ以上、奴の言葉に惑わされるな!」

我知らず、ルーファスの言に引き込まれそうになっていたシグマに、リックが喝を入れるかの如く、鋭く言い放った。
リックはそのまま手にしていた槍で、双方の剣の動きを、槍で止め揃える形で落ち着ける。

「リック!?」

戦いを遮られた事で、さすがにシグマが驚いてリックを見やる。
しかし当のリックは、どこか苛立ち混じりに苛々と叫んだ。

「…冷静なお前らしくもないぜ、シグマ。…いいか、奴から余計な事を聞くな! それがお前の剣先を鈍らせてる、最大の原因なんだぞ! それに何故気付かないんだ!」
「!俺…は…」

シグマが呆然と言葉を失った。

リックは、ルーファスの言葉に捉われたシグマの自我を呼び戻すべく、懸命に声を張り上げる。

「思い出せよ! こいつは──お前の父親の仇なんだろう!?」
「そうよ、シグマ! 感傷に浸ってる暇なんてないでしょ!? そのままだと、間違いなく問答無用で殺られちゃうわよ!」

ライムもリックを後押しする形で、シグマに向かって必死に叫ぶ。
瞬間、この二人の声で、今までシグマの頭にかかっていた、靄のような迷いが晴れた。

「──っ!」

シグマは手にしていた剣に、それ自体が壊れそうな程の強い力を込めると、それを己の感情のままに、勢い良く薙ぎ払った。

…それは嫌な手応えと共に、ルーファスの右腕を強めにかすめる。

「!?くっ…、貴様っ!」

まさかこのタイミングで、シグマが反撃して来るとは思わなかったルーファスの表情が、たちまち険しくなる。
それをシグマは冷静に一瞥し、きっぱりと言葉を発した。

「俺を支配しようとするからだ!」
「えっ…、し、支配?」

そこまでは判断がつかなかったらしいライムが、突然、ぎょっとして尋ね返す。

「ああ。…ルーファスは俺の過去を逆手にとって、感情に侵入し、そこから支配しようとしたんだ。…魔術師が精神支配を試みる際に、よく使う手だな」
「ふん。…さすがに同類は詳しいな」

リックが満足気に笑い、槍の先を下へと向ける。
しかしそのリックの発言に、ルーファスは忌々しげな表情をまともに曝け出し、その瞳の奥に、今まで見せなかった、焦燥的な鋭さを垣間見せた。

「!同類…だと? まさか…!」

シグマはわずかに、しかしはっきりと頷いてみせる。

…脳内に、父親が殺されてから今までの日々が甦る。
それは辛く、きつく、時には全てを投げ出したい程の試練であったが。
それでも、耐えられたのは…!


「──ああ。俺はお前同様、剣と魔法を極め、“魔法剣士”になった。全ては“お前を殺すために”な」
「そうか。だがそれでも、今の皇子では、俺には敵うまい。
ここで殺すのは容易い…が、そうすると俺の楽しみが減ってしまうのでな。…今は生かしておいてやる」
「!何だと…俺をゲームの駒にでもしたつもりか!」

シグマが怒りを覚え、その心中を怒声と変えてルーファスにぶつける。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

ある女性の願いごと

篠月珪霞
ファンタジー
祖父の家に遊びに来た琴音は、蔵にあった巻物によって異世界に飛ばされてしまう。 同じような境遇にあった女性に、ひとまず保護されるが…。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...