†我の血族†

如月統哉

文字の大きさ
13 / 214
†迫り来る闇†

互いを思いやる

しおりを挟む
「…ふん。出来ないのであれば、約束など取り付けるべきではないし、出来るのであれば、つべこべ言わずに実行するのが賢明だ。それは分かっているんだろう?」
「…ええ、よーっく分かってますとも」

半眼で唯香が呻く。
続けざまにサラダの野菜を恨みがましく突き刺している唯香には、もはやテーブルマナーもへったくれもない。

「…で、カミュ」
「ついでのように人を呼ぶな」

間を置かずに、カミュが窘める。しかし唯香は、フォークに突き刺した野菜もそのままに、前方だけを見て話を進めた。

「今は結構、大丈夫そうだけど… 本当にその状態で、血は足りてるの?」
「…、貧血をおこしたばかりの奴が、いらぬ心配をするな」

カミュは、そのまま話を切り上げ、終わらせるつもりで外方を向いた。
…が、やはりというべきか、その返事では全く納得のできない唯香が食ってかかる。

「駄目だよ! また具合が悪くなったら大変でしょ!?」
「お前には、それと全く同じ言葉を返してやる。…人のことより、まずは自分の体を心配しろ」
「!…っ、だけど…」
「能書きはいい。…血を直接取られるぶん、お前の方が健康へのリスクは高いはずだ。…ならば、せめて俺が血を吸わない時に養生するしかないだろう?」
「…分かった」

それなりに納得したらしい唯香は、何故か次には、食べるために動かしていた手を止め、フォークを置いた。
その様子を見逃すはずのないカミュが、意外そうに尋ねる。

「どうした?」
「別に…何でもない」
「なら、何故食べるのを止める…」

どこか苛立ったようなカミュの口調に、唯香はびくりと身を竦ませた。

「…怒らないで聞いて。あたしには、カミュの気持ちはよく解るの。本当に、あたしの体を気遣って、そう言ってくれてるのは…すごく良く解る。
でも…カミュ、あたしはそれと同じくらいに、貴方の体調が心配なの」
「だから、俺のことは気に病む必要はないと──」
「分かってる。だから、無理に血を吸ってとは言わない。
だけど、体調がおかしくなったら、その時はすぐに言って。
でないと…安心して食事も出来ないから…」

そこまで話して俯いた唯香に、カミュは労るような目で、彼女を見た。

「ああ…、分かった」

唯香の気持ちがよく分かり、カミュはそこまで返事をするのが精一杯だった。
カミュの承諾の返事を聞いた唯香は、心から安堵し、再びフォークを手に取り、食事を始めた。

そんな唯香の健気な様子を見ながら、カミュは我知らず、自分の言動を振り返っていた。


…自分が心配する、それ以上に、相手も自分のことを心配している。
ヒトではないはずの自分の為に。
なのに、自分はそれを拒絶していた。
相手に、必要以上には関われないと、勝手に判断すらしていた…!

…それでも、唯香は自分を心配してくれている。
自分がどれだけ、他人に壁を作ろうとも、みな、それを乗り越えて介入してくる。
唯香、将臣、そしてフェンネルにカイネル…
全員がそうだ。
しかし、中でも親身になって、自らの赤裸々な感情をぶつけてまで、自分のことを気にかけてくれたのは…
他でもない唯香だけだ。


「……」

カミュの表情に、今までにはない種類の戸惑いが浮かんだ。


ここまで自分を気にかけてくれる少女に、この世界ではまるで非力な自分は、一体何をしてあげられるのだろう?

それに応えてやるのなら、単に話し相手になるだけでは駄目だ。
彼女を取り巻く、全てのものから護ってやらなければ。

…将臣もそうだ。
記憶のない、不安定な状態の自分を受け入れ、この場への滞在を許してくれた。

今なら分かる。
…今のこの環境を壊す者は、誰一人として許さない。
だからこそ自分は、人間嫌いのフェンネルや、始めは反発する素振りを見せていたカイネルに、皇子である権限を駆使し、命令してでも、この場を守ろうとしたのだろう。

…そう、今ならそれがよく解る。
あの時はさほど意識しなかったはずのこと…
“自分が、何を護ろうとしたのか”が。


「…唯香」

カミュが呟いた。その口元には、親しみを込めた笑みがある。
唯香はそれに気づかず、きょとんとした顔でカミュを見た。

「なに? カミュ」
「…何でもない。たくさん食べろよ」
「うん」

大きく頷いた唯香を、カミュは優しい光を目に湛えながら見つめていた。


…後に、この時に垣間見せた感情が、自らの弱点になるとも知らずに…



→TO BE CONTINUED…
NEXT:†失われた魔力†
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...