†我の血族†

如月統哉

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†血の盟約†

真実、それ故に

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カミュはそこで、やり場のない感情を打ち捨てるように、わずかに目を伏せた。

『…、その結果、俺はお前を求め、奪い…、そしてその体に、俺の血を引く者をひとり、残した』
「!まさか…」
『…そう。お前の子は…元々、双子などではなく、ひとりは俺の子、そしてもうひとりが…』
「!さっきまでのカミュの… あの人の子供なのね!?」

唯香が息巻くと、カミュは瞳を上げて頷いた。

『ああ。…だが、俺と主人格が同一人物であるが故、あの子たちは双子としてお前の中で育った…
少しややこしいが、真相はそんなところだ』
「…そうだったんだ…」

唯香が、その蒼の双眸を不安そうに伏せると、それを辛そうに見たカミュは、何事かを決心したように、そっと唯香の側から離れた。

その反応が、いつになく寂しげで、孤高で…

唯香は何故か、ひどい胸騒ぎを覚えて、引き戻すように、カミュの背へと叫んでいた。

「…カミュ!」
『心配するな、唯香。…俺はこれから父上と話してみる。
それによって、お前に子を返してくれれば良し、そうでなければ…』
「…我に戦いを仕掛ける気か?」

それまでは静かに傍観していたサヴァイスが、徐々に魔力を高め始めながら問う。
彼の体からは、美しい紫色の魔力が、陽炎のような形で、はっきりと立ち上って見えている。
その魔力の規模は、かつて自分が手も足も出なかった、あのルファイアと同等…、いや、それ以上だ。

『…さすがに吸血鬼皇帝の二つ名は…伊達じゃない…!』

カミュは、父親が魔力を見せたことから、無意識のうちに、自らの体をも魔力で覆っていた。

…父と子、二つの燦然とした紫の輝きが、そこにはあった。

『父上、お願いだ。俺はもう二度と出てこられなくなっても…、このまま消滅させられても構わない…!
だから、子どもを…せめて俺の子だけでも、唯香に返してやってくれ』

…カミュがこう言ったのには訳があった。

本来なら、子は二人とも手に入れられるにこしたことはないのだが…
まがりなりにも、あの双子はこの世界の…自分の後継の皇子にあたる。
しかも、六魔将最強と謡われた、時をも操る能力を持ったレイヴァンの血と、ここ、精の黒瞑界の皇家の、直系の血を共に引く、まさしく血統書つきのサラブレッドだ。

…将来的にも、自分や、かのレイヴァン以上の力を持つかも知れない逸材を…
父親が、この世界の皇帝が…
そう簡単に手放すわけがない。

カミュの一連の言葉は、これらの考えを暗示していた。
だからこそ、せめて一人だけでも…
…せめて、自分の子だけでも、彼女の手元に戻してやりたかったのだ。
…だが。

「…渡してどうする? 月並みにも、子を人間界で育てるとでも言うつもりか?」
『…唯香は元々、この世界に住んでいた訳じゃない。人間界には、唯香の人間としての生活がある。…出来れば向こうに戻してやりたい』
「!カミュ…」

唯香は驚いて立ち上がると、カミュの側へと駆け寄ろうとした。

…しかし、サヴァイスがそれを遮った。

先程、カミュが唯香に加えた攻撃よりも、なお鋭く、なお重い攻撃が、瞬間、唯香を襲った。

先程のカミュの攻撃は、強い電流を流されたような感じだったが、今度のサヴァイスの攻撃は、まるで雷に直接打たれたようだ。
耐えきれずに、唯香は声を限りに叫んだ。

「きゃあぁぁあぁっ!」
『唯香っ!』

カミュが唯香の側に駆け寄り、支え、父親の魔力を緩和しようと試みる。
攻撃は継続性のものらしく、唯香はカミュに体を預けながらも、きつく目を閉じ、脂汗を浮かべている。
…こうまでされて、さすがにカミュは黙ってはいなかった。

『…ち、父上! 貴方という人は…!』
「…我を失望させるな、もうひとりの息子よ…
忘れた訳ではあるまい。その娘はお前と同じ、ヴァンパイア・ハーフだ」
『何が…言いたい?』

カミュは油断なく父親に目を向けた。

「…全ては、力がまだ発現していなかったが為に出来たことだ」
『…!?』

「…人間共からすれば、我らは異端者だ。唯香や将臣が今まで人間共に溶け込めていたのは、唯香は力を使えず、将臣はそれを知った上で、魔力を抑えていたからこそ…
だが、この子らは更なる血を引くヴァンパイア・クォーター。そんな我が子を、カミュ…、お前はあの薄汚い世界で育てるというのか?」

『!…』

…唯香を支えるカミュの顔色が、わずかに青ざめた。
父親の言うことは、理路整然としていて、こちらの付け入る隙を、まるで与えない。

しかも、まだ魔力をうまくコントロール出来ない赤子が、人間界でその魔力を暴走させた際、人間がどういう反応をするかも、言葉によって悟らせようとしている。

今は人間として振る舞っている唯香や将臣ですらも、その魔力を人々の前で見せた時…
彼らの目は負の感情に覆われ、不気味な者、得体の知れぬ者…自分たちとは違う者を、疎み、忌み嫌い、ついには全力で排除しようとするだろう。

…そして、人間とは所詮そんなものだ。
我が儘で脆弱で、ひどく愚かな生き物。

…それでも。

カミュには確固たる信念があった。

…人間は、そんな者たちばかりではない。
自らの欲を優先し、気に入らない者は、自らの理解の枠から疎外する…、そんな我が儘で自分勝手な者たちが、その全てではない。
…人間にも、自分たちを理解し、受け入れてくれる者は…、確実にいる。
何故なら…

『…、それなら、俺の母上はどうなる?』
「…何?」

それまでは、一度として頑なな態度を崩さなかったはずのサヴァイスが、この時初めて、多少の動揺を見せた。
それを見て取ったカミュは、この機を逃さず、すぐさま言葉による追撃をかける。

『俺の母・ライザは、紛れもなく人間…、そう、“人間”だ。
だが貴方は、そんな母上を…人間と知りながらも、そう理解していながらも…、それでも愛したんだろう!?』
「……」

…サヴァイスは黙りこくったまま、一向に答えようとしない。
だが、その端正な表情は引き締まり、その美しい紫の瞳も、それに比例するように険しくなっていく。

…誰にも触れられない、彼の心の奥底に、ひっそりと閉じこめるように秘めていた“感情”…
それに何の断りもなく、無遠慮に触れられたことで…、逆鱗に触れたにも近い、深い怒りを含んだその瞳が、ますます濃い紫になっていくのを、カミュは歯噛みしながらも見つめていた。

…程なくして、サヴァイスが呟く。

「…カミュ…」

ただ呟いているだけだというのに、その声は、暗く、静かで…
まるで、冷たい墓の下からでも聞こえてくるかのような、底知れぬ不気味さがあった。

それに、カミュは途方もない恐怖を抱きそうになる自分を、何とか抑えながらも、辛うじて答えを返す。

『…何だ? 父上…』

答えながらも、一方ではその喉が…、からからに干上がっていくのが分かる。

…返答が怖い。
父親の…次の反応が、何より恐ろしい…!

「…お前は、ライザと人間共が“同等”だと言うか…?」
『ああ。母上は、特殊な力を持ってはいるが、その体は紛れもなく人間のそれだ』
「…ふ…、戯れ言を…」

サヴァイスは、カミュの言葉を、冷笑することによって失墜させた。

「ライザは別だ。その息子であるはずのお前が、母であり、我の妻でもある、この世界の皇妃を…
あのような下卑た人間共と同じに見るな」
『!…その体の作りが、光を求めるはずの人間であっても…
それでも貴方は、母上を闇に引き込むと?
…その身を、いや、その心すらも…魔に染めるというのか!?』
「……」

サヴァイスは、息子に激しく糾弾されても、何ら慌てることもなく、ただ苛立ちを含んだ瞳を、カミュに向け続けた。

そこには、重苦しいまでの、一触即発の空気が流れる。
…だが、その時。

「!…、この魔力は…、レイヴァン…!」

レイヴァンの強力な魔力の接近に気付いたサヴァイスが、空間の入り口に目を走らせる。
と、次の瞬間、その入り口が、凄まじい爆発音と共に大破した。

『!?』

カミュが驚いてそちらを向くと、そこには蒼色の強大な魔力をその手に持て余す、レイヴァンの姿があった。
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