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†白夜の渦†
…生ある限り…、否が応にも…巻き込まれる…
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──果てのない、ひたすらの闇が支配する世界…
そこに仄かに浮かび上がる明かりだけが、揺らめくように動くものを捉える。
…そんな、ヒトが本能で恐れる闇の世界に、意図して足を踏み入れた者がいた。
この、精の黒瞑界の皇子である、カミュ=ブラインの血を濃く受け継ぎ、人間界で育ち、その影響を強く受けた彼の息子…
神崎累世だ。
その累世は、自らの傍らに立つひとりの連れ…
今や、自らの崇拝者と言っても過言ではない程の破格の扱いをする、この世界の皇族を守護する立場の、六魔将と呼ばれる実力者集団のひとりに属するフェンネルに、改めて声をかけていた。
「…ここが…?」
「はい、ルイセ様。
ここが、貴方様がお生まれになった世界…
精の黒瞑界です」
「……」
累世はきつく唇を噛みしめると、伏せ目がちに周囲を見やった。
…人間界から来た者からすれば、闇が全てを支配する、静かで陰鬱な世界にしか見えない。
哀愁などはない。
ただ、そのようにしか、受け取れなかった。
「…、面白味のない世界だな」
「人間界には、余計なものが多すぎるのです」
「同感だな」
累世は肯定すると、自らが先程から気になっていた、一際目を引く、城のような建造物に目をやった。
ひっそりとその場に佇むその大きな建造物は、見る者に必要以上の畏怖を与える。
「あれは…?」
「…この、精の黒瞑界の皇族の方々がお住まいになる城です」
「そこに、兄が… ライセが居ると言うんだな?」
「はい」
淡々と答えたフェンネルは、累世に先を促した。
「ライセ様は、恐らくは既に、ルイセ様の気配を察知しております。
いつまでもこの場に留まることに、他意はありません。
…参りましょう、ルイセ様」
「…ああ」
こうなればもはや後には引けないことから、頷いてはみたものの、累世は明らかに困惑していた。
…体よく口車に乗せられたのは分かっている。
だが、今まで会ったこともない、存在すら知らなかった兄と、何を話せばいいのか…
どう語りかければいいのか、それが分からない。
すると、そんな累世の考えを読んだらしいフェンネルは、差し出がましいことは承知の上で呟いた。
「…ルイセ様が、ライセ様に会うことを躊躇う気持ちはよく分かります」
「…フェンネル、お前の言いたいことは分かるつもりだ。
兄に会わないことには、何も始まらないことも、何も解決しないことも…
本当は理解している」
「ならば…」
一刻も早く、と言いかけたフェンネルを遮って、累世は先を続けた。
「…だが、その一方で、兄に会うのを…
ライセに会うのを恐れている自分がいることも、はっきりと分かる…!
ライセに会ってしまったら、もう…今までの生活には戻れない。
そうなってしまったら、俺は…」
「…ルイセ様」
「俺は、俺でいられなくなるかも知れない。
育った世界で関わった、全ての者を失うかも知れない。
…俺にはそれが…何より怖い」
累世は、彼にしては珍しく、弱味にも近い本音を吐露していた。
そしてその原因を、累世は自分で分かっていた。
…そう。
こうまで兄であるライセとの面会を恐れるのは──
…あの、父親が原因だ。
「それでも、貴方様は兄上に会わねばなりません」
フェンネルは、俯いた累世の上から言葉を浴びせた。
…非難しているわけではなかった。
何故なら、他でもない…
「それが真実なのですから」
そこに仄かに浮かび上がる明かりだけが、揺らめくように動くものを捉える。
…そんな、ヒトが本能で恐れる闇の世界に、意図して足を踏み入れた者がいた。
この、精の黒瞑界の皇子である、カミュ=ブラインの血を濃く受け継ぎ、人間界で育ち、その影響を強く受けた彼の息子…
神崎累世だ。
その累世は、自らの傍らに立つひとりの連れ…
今や、自らの崇拝者と言っても過言ではない程の破格の扱いをする、この世界の皇族を守護する立場の、六魔将と呼ばれる実力者集団のひとりに属するフェンネルに、改めて声をかけていた。
「…ここが…?」
「はい、ルイセ様。
ここが、貴方様がお生まれになった世界…
精の黒瞑界です」
「……」
累世はきつく唇を噛みしめると、伏せ目がちに周囲を見やった。
…人間界から来た者からすれば、闇が全てを支配する、静かで陰鬱な世界にしか見えない。
哀愁などはない。
ただ、そのようにしか、受け取れなかった。
「…、面白味のない世界だな」
「人間界には、余計なものが多すぎるのです」
「同感だな」
累世は肯定すると、自らが先程から気になっていた、一際目を引く、城のような建造物に目をやった。
ひっそりとその場に佇むその大きな建造物は、見る者に必要以上の畏怖を与える。
「あれは…?」
「…この、精の黒瞑界の皇族の方々がお住まいになる城です」
「そこに、兄が… ライセが居ると言うんだな?」
「はい」
淡々と答えたフェンネルは、累世に先を促した。
「ライセ様は、恐らくは既に、ルイセ様の気配を察知しております。
いつまでもこの場に留まることに、他意はありません。
…参りましょう、ルイセ様」
「…ああ」
こうなればもはや後には引けないことから、頷いてはみたものの、累世は明らかに困惑していた。
…体よく口車に乗せられたのは分かっている。
だが、今まで会ったこともない、存在すら知らなかった兄と、何を話せばいいのか…
どう語りかければいいのか、それが分からない。
すると、そんな累世の考えを読んだらしいフェンネルは、差し出がましいことは承知の上で呟いた。
「…ルイセ様が、ライセ様に会うことを躊躇う気持ちはよく分かります」
「…フェンネル、お前の言いたいことは分かるつもりだ。
兄に会わないことには、何も始まらないことも、何も解決しないことも…
本当は理解している」
「ならば…」
一刻も早く、と言いかけたフェンネルを遮って、累世は先を続けた。
「…だが、その一方で、兄に会うのを…
ライセに会うのを恐れている自分がいることも、はっきりと分かる…!
ライセに会ってしまったら、もう…今までの生活には戻れない。
そうなってしまったら、俺は…」
「…ルイセ様」
「俺は、俺でいられなくなるかも知れない。
育った世界で関わった、全ての者を失うかも知れない。
…俺にはそれが…何より怖い」
累世は、彼にしては珍しく、弱味にも近い本音を吐露していた。
そしてその原因を、累世は自分で分かっていた。
…そう。
こうまで兄であるライセとの面会を恐れるのは──
…あの、父親が原因だ。
「それでも、貴方様は兄上に会わねばなりません」
フェンネルは、俯いた累世の上から言葉を浴びせた。
…非難しているわけではなかった。
何故なら、他でもない…
「それが真実なのですから」
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