†我の血族†

如月統哉

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†白夜の渦†

衝撃の事実

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そう思った時には、それが口をついて出ていた。

「あなたが俺を呼んだ理由は何だ?」
「……」

問いかける累世を、無言のまま一瞥したサヴァイスは、玉座へと歩みを戻すと、そこに再び腰を落ち着かせた。
しかし、自らが今、一番気になる問いに対する答えが返って来なかったことで、累世の声が、自然と大きくなる。

「黙っていたのでは分からないだろう!
そもそも俺は、来たくてここに来た訳じゃないんだ! あなた自身の口から、そうまで俺に拘る、納得のいく理由を聞かせて貰わないことには──」
「…来たか、カミュ」

サヴァイスが不意に呟いた、その静かな一言に、累世の体が凍りついた。


…“カミュ”…!?


父親か…!?

その言葉を認識した心臓が、破れそうなまでに激しく脈打ち、跳ねる。

累世がゆっくりと振り返ると、いつの間にかその背後には、不機嫌そうな表情を露にした、自分の父親…
カミュがいた。

カミュは、移動に際して落ちたらしい、邪魔な前髪を無造作に掻きあげると、その紫の瞳で強く累世を見据え、苛立ちを含んだ溜め息混じりに呟いた。

「…何故、こいつがここにいる…?」

その、相変わらずの存在そのものを否定するような物言いに、すっかり腹を立てた累世は、その全ての怒りをサヴァイスにぶつけた。

「!…っ…、もう…いい加減にしてくれ!
同じ言葉を繰り返すようだが、俺はただ、ライセに…兄に会いに来ただけなんだ!」

累世は怒りと共に、身を切るような思いで、自らの心境を吐露していた。

「双子の兄と…、ライセと決別したというのに…
それなのに…
俺は今更、こいつとなど会いたくもないし、血縁者となんか係わりたくもないんだ!
それが分かったら、俺を今すぐ人間界へ帰してくれ!」
「ルイセ!」

累世の怒声が止むか止まぬかのうちに、カミュが制止を意味する、鋭い声をあげた。

…父親であるカミュに、まともに名前で制止された累世の体は…
その声に機敏に反応し、びくりと竦んだ。

「…え…!?」

累世は驚愕した。
17年もの間、会ったことのなかった父親。
人間界で会った時にも、彼は自分の名を一度たりとも呼ぼうとはしなかった。

…累世が父親にまともに名を呼ばれたのは、これが初めてだったからだ。

しかし、どこか期待と困惑の入り混じった表情を見せる累世を、カミュは冷たく窘めた。

「身の程をわきまえろと言っておいたはずだな。
お前如き若輩が、父上に刃向かうな」
「!…今更、父親面して俺に指図するな!」

累世は、自らの怒りのままに、すぐさま切り返した。
すると、反抗的な息子のその態度に、カミュの瞳に潜む光が、細く鋭く尖るのを目の当たりにしたサヴァイスは、一触即発のその空気を読み取り、静かにカミュを抑えた。

「止さぬか、カミュ」
「!…父上…」

威厳のある父親に窘められ、カミュは不承不承ではあるが、苛立ちを抑えた。
それに追随をかけようとする累世さえも、サヴァイスは容易に抑え込み、次には二人がまるで予測していなかった真実を告げる。


「…カミュ…、自らの本当の息子を、そう邪険に扱うものではない」


…!?

サヴァイスの言葉に、カミュと累世はその瞳を大きく見開いた。
しかし、さすがにそこは父親、カミュの方が、累世よりも立ち直りは早かった。

…掠れた口調で、譫言のように呟く。

「…ち…、父上…、何を戯れ言をっ…!
…こいつは…、ルイセはライセとは異なり、副人格の息子のはず…
絶対に、俺の子ではあり得ません!」

いつになく狼狽える息子の様を、表情を変えることもなく見据えたサヴァイスは、カミュの言動こそが異端であることを指摘するかのように、静かに呟いた。

「…何を慌てることがある? カミュよ…
お前は知っているであろう。…お前が唯香をその腕に抱き、奪ったのは、副人格よりも後のこと…
例え今は魔力が失われていたとしても、どちらがお前の子であるのかを」
「!…」

カミュは、驚きで絶句しつつも、酷く困惑した。

…そうだ。
魔力の能力的に見れば、間違いなくライセこそが自らの子だ。
だからこそ、今まで疑う余地もなく、自分の子であると認識し、自覚し…育てて来たのだ。


しかし、子らが生を受けた順番でいえばそれは…
それ自体が、否…、その事実こそが、“明らかに違う”のだ。

…ライセではなく、その弟のルイセ。
今まで、忌まわしいあの副人格の息子だとばかり思い込み、突き放し、拒絶し、侮蔑して…

全てにおいて見下していたはずの、下賤な人間に染まり浸った彼こそが、実は自らの息子…!

「…まさか…そんな…」

では、今まで自分は何をしていた?
…気付けば、自らに縋り頼る息子に、負の感情しかぶつけていない…!


目の前の、真実、自分の息子である少年に。


「…副人格? それに、こいつが本当の父親…?
一体、何の話だ?」

一番の当事者でありながら、何も聞かされていなかった累世の眉根が寄せられる。
するとサヴァイスは、そんな累世に、今までの事の顛末を、かいつまんで話して聞かせた。


…この世界の皇子であるカミュが、記憶を無くした上で唯香と出会ったこと。

その際、カミュには違う人格が現れており、二人が二人とも、互いの素性を知らなかったこと。

そして強敵・ルファイアとの戦いの後に、カミュの本来の人格…
主人格が蘇ったこと。

…更に、副人格が…
そして主人格が、ほとんど間を置くこともなく、唯香を我が物としたこと…

そして、17年前の…
例の一件での決別まで、その全てを包み隠すこともなく。


サヴァイスは淡々と語り続けた。


それに比例して、累世の顔色は青ざめていく。
…絶望に、悲しみに彩られてゆく。

その体を、わずかに震わせて
心すらも全て失い、引き裂かれるように

…それを、口にする。

「…嘘だ…」

…祖父の言うことが真実なら…
ライセは、副人格の方の父親が、唯香を心から愛したが故の結晶とも言えるべき存在だ。

だが、自分は…
唯香の心が、副人格の父親に囚われたまま…
偽りの愛、戯れの愛で、母と主人格の父親の間に出来た、到底望まれはしなかった子ども…!

…そう、まるで光と影のような。

「…俺…は…」

必要とされていない。
必要とされなかった。

兄と違って、誰も望みも、必要ともしない。
ただ、父親が欲望のままに母親を支配した時の、偶然の産物…!

「…っ、…う…っ」

累世は、意図せず漏れる涙と泣き声を、無理やり抑えた。
…腕で顔を隠すように、目の辺りを覆う。

自らが手出しできない、過去のことであるだけに…
余計に悲しくて、悔しくて仕方がなかった。

「…、もう…嫌だ…
…俺はもう…こんなことには…耐えられない…」
「……」
「…頼む…、俺を…、人間界へ…帰して…!」

…累世は、腕を振り切ることで涙をも振り払い、わずかに赤くなった、潤んだ瞳をサヴァイスへと向けた。

「…ルイセはこう言っているが…
どうする、カミュ」
「…、あの世界に未練があると言うのなら、人間界そのものを消し去るのが最良かと…」

カミュは冷静さを取り戻し、動揺することもなく答えた。
しかし当然、この答えに納得のいかない累世が、すかさず噛みつく。

「!ふざけるな! あの地には唯香もいる…
なのに消し去るなんて、そんなこと…簡単に認めてたまるか!」
「お前は何故そうも意味もなく粋がる… 唯香はここにいる。
それで文句はないだろう」

意外なカミュの呟きに、瞬間、累世の体が強張った。

「…な…、に…?」
「…聞こえなかったか?
唯香はこの世界にいる。…もっとも、今はお前のことを忘れているだろうがな」
「!貴様っ…」

累世は、先程までの赤さを通り越し、血走りを見せ始めた目をカミュへと向けた。

「唯香に何をした!?」
「…その前に、お前はよほど学習能力がないようだな」
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