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†白夜の渦†
互いの悟り
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「…、ヴァルディアスは…俺に力をくれた」
「…な…に?」
ライセが、その蒼の瞳に怒りを交えて問い返す。
しかし累世は、それには構わずに先を続けた。
「その力が教えてくれた… 守ることこそが自らの弱さに繋がるのだと。
守るものがあるから、時には何かを犠牲にしなければならなくなる。
…そう…、自分に直接、関係がなくてもだ」
「……」
「ならば、その何かを無くしてしまえばいい。
始めから無いものとして考え、相応に扱い…
壊してしまえばいい」
「……」
累世の言い分を黙ったまま聞いていたライセは、累世が闇属性にあたる、いわゆる【負の言葉】を吐くごとに、その額の薔薇が、より黒く輝くことに気付いていた。
しかし、それが作用させているのだということが分かっていても、この言い分は…到底聞き流せるものではない。
「…ふん、ヴァルディアスの狂信者が。そんな子供騙しの理屈が通用するか」
今にも唾棄せんばかりの苛立ちを露に、ライセが呟く。
それに累世は、ぴくりと反応した。
「やはりどうも、俺たちは根底から相入れないようになっているらしいな? “兄上”」
「…皮肉のつもりか? だとすれば、やはりお前は出来損ないだ」
「何だと?」
今までにはない、きついしっぺ返しに、今度は累世が剣呑な瞳を向ける。
ともすれば本当に火花でも散りそうなその視線のぶつかり合いに、ライセは引くこともなく睨み返した。
「聞こえなかったか? お前は出来損ないだと言ったんだ。…お前は魔にも人間にもなりきれていない、ただの中途半端な失敗作だ」
「…ライセ…!」
累世が憎悪を交え、微かに歯を軋ませる。
それにライセは、累世と会ったばかりの時の…
いや、それ以上の侮蔑を含んだ眼力を見せた。
…闇そのものに睨まれるような恐怖に、魔力による強力な呪印で支配されているはずの累世が、反射的に怯む。
「!くっ…」
「…以前のお前は、鼻につくほど人間くさく、そして酷く脆弱だった…
こんな奴が弟だなどと…俺と同じ血を引いているなどと、認めたくなかった。
…だが、何故だろうな。今現在の…仮初の力を得た、その悪辣な姿などよりも、俺は…
以前の…脆弱で、何の力も持たない、人間寄りな考えを持つお前の方が…
よりお前らしいのではないかと思える」
「!…ライ…セ…」
累世が、何かを思い出しかけたように、目を見開いてライセを凝視する。
その瞳からは、先程までの強烈な憎悪は、まるで感じ取れなかった。
…しかしその時、当然のことながら、傍観していたヴァルディアスが動いた。
「…、お前たち双子は、真に面白い玩具だ…
だが、まだ物足りない。この程度ではまだ…!」
低く、冷たく呟きながらも、ヴァルディアスは、累世にかけた呪印の魔力を更に強めた。
途端に累世が反応し、両手で頭を抱え込みながら絶叫する。
「!うぁ…っ、ぐ…あ、ぅ…うぁあぁあぁっ!」
…その声は、今にも喉が破れそうなまでに濁り…
そして、それを上回って悲痛なものだった。
累世は気が狂ったかのように激しく頭を振り、痛みそのものを抑えるかの如く、頭に指を立たせるようにして激痛に耐えていた。
それを冷たく見下しながら、ヴァルディアスがより冷酷に告げる。
「余計なことは思い出さなくていい。…ルイセ皇子、お前はただ、兄皇子・ライセ=ブラインを殺めることだけを考えればいい…」
「!あ…、兄皇…子を…殺…す…?」
「そうだ。…それだけの力を、俺は既に与えている…
なのに、何故殺めない? 何故…お前は抗おうとする…!」
「…俺…は、…別に…、抗…って…なんか…」
「…まだ言うか…!」
言い捨てたヴァルディアスは、さしたる前置きもなく、更に魔力の規模を引き上げた。
その魔力に上限はないのか、魔力が跳ね上がったことに比例して、累世の額に巣くう呪印の、闇の輝きが増す。
しかし、今度は…累世は声にはならなかった。
…悶え、苦しみ、そしてただひたすらに歯を食いしばり…
頭を、頭蓋骨が割れんばかりに強く、強く…押さえ続けていた。
「…ルイセ皇子よ、身の程は理解できたか?」
ヴァルディアスの言葉に反応して、累世の額の刻印が…
黒く、燦然と輝いた。
「…、ああ…」
根強く残る累世の意志をようやく屈服させたらしい刻印は、ふと、その輝きを抑えた。
…その一方で、すっかり息の荒くなった累世を、気遣うことも休ませることもなく、ヴァルディアスが更にライセと戦うように仕向ける。
「そうか。ならば取って来るがいい…
兄皇子の、命をな…!」
「…言われなくても分かっている」
累世はそう答えると…
次の瞬間、信じられないような速さで、ライセの側に姿を見せた。
「!な…んだと…!?」
ライセがそれに気付くのと、累世がそんな兄の右脇腹を、強力な魔力を込めた左手で抉るのとは…全く同時だった。
「!ぐっ…」
ライセは、なす術もなくその場へ倒れ込んだ。
…それ程、その攻撃は、ほんの一瞬の出来事だったのだ。
「…ぅ…うっ…」
地を自らの血で染め上げたライセは、徐々に目の前が暗くなっていくのを感じていた。
その傍らで、すっかり呪印に侵された累世が、そんな兄を見下しながら呟く。
「…これでいいか…?」
「ああ…、上出来だ」
ヴァルディアスは密かにほくそ笑むと、ふと気付いたように累世を促した。
「ルイセ皇子…、いや、“ルイセ”。
ライセ皇子は仕留めた。ここで一度、闇魔界へ戻ることとしよう。
術で体力を消耗しているお前は、少し休んでおくべきだ」
「…ああ。お前の言う通りにしよう」
…何の躊躇いもなく頷いた累世を、ヴァルディアスは魔力を用いて、自らの体と共に、闇魔界へと移動させた。
→TO BE CONTINUED…
NEXT:†静寂の罠†
「…な…に?」
ライセが、その蒼の瞳に怒りを交えて問い返す。
しかし累世は、それには構わずに先を続けた。
「その力が教えてくれた… 守ることこそが自らの弱さに繋がるのだと。
守るものがあるから、時には何かを犠牲にしなければならなくなる。
…そう…、自分に直接、関係がなくてもだ」
「……」
「ならば、その何かを無くしてしまえばいい。
始めから無いものとして考え、相応に扱い…
壊してしまえばいい」
「……」
累世の言い分を黙ったまま聞いていたライセは、累世が闇属性にあたる、いわゆる【負の言葉】を吐くごとに、その額の薔薇が、より黒く輝くことに気付いていた。
しかし、それが作用させているのだということが分かっていても、この言い分は…到底聞き流せるものではない。
「…ふん、ヴァルディアスの狂信者が。そんな子供騙しの理屈が通用するか」
今にも唾棄せんばかりの苛立ちを露に、ライセが呟く。
それに累世は、ぴくりと反応した。
「やはりどうも、俺たちは根底から相入れないようになっているらしいな? “兄上”」
「…皮肉のつもりか? だとすれば、やはりお前は出来損ないだ」
「何だと?」
今までにはない、きついしっぺ返しに、今度は累世が剣呑な瞳を向ける。
ともすれば本当に火花でも散りそうなその視線のぶつかり合いに、ライセは引くこともなく睨み返した。
「聞こえなかったか? お前は出来損ないだと言ったんだ。…お前は魔にも人間にもなりきれていない、ただの中途半端な失敗作だ」
「…ライセ…!」
累世が憎悪を交え、微かに歯を軋ませる。
それにライセは、累世と会ったばかりの時の…
いや、それ以上の侮蔑を含んだ眼力を見せた。
…闇そのものに睨まれるような恐怖に、魔力による強力な呪印で支配されているはずの累世が、反射的に怯む。
「!くっ…」
「…以前のお前は、鼻につくほど人間くさく、そして酷く脆弱だった…
こんな奴が弟だなどと…俺と同じ血を引いているなどと、認めたくなかった。
…だが、何故だろうな。今現在の…仮初の力を得た、その悪辣な姿などよりも、俺は…
以前の…脆弱で、何の力も持たない、人間寄りな考えを持つお前の方が…
よりお前らしいのではないかと思える」
「!…ライ…セ…」
累世が、何かを思い出しかけたように、目を見開いてライセを凝視する。
その瞳からは、先程までの強烈な憎悪は、まるで感じ取れなかった。
…しかしその時、当然のことながら、傍観していたヴァルディアスが動いた。
「…、お前たち双子は、真に面白い玩具だ…
だが、まだ物足りない。この程度ではまだ…!」
低く、冷たく呟きながらも、ヴァルディアスは、累世にかけた呪印の魔力を更に強めた。
途端に累世が反応し、両手で頭を抱え込みながら絶叫する。
「!うぁ…っ、ぐ…あ、ぅ…うぁあぁあぁっ!」
…その声は、今にも喉が破れそうなまでに濁り…
そして、それを上回って悲痛なものだった。
累世は気が狂ったかのように激しく頭を振り、痛みそのものを抑えるかの如く、頭に指を立たせるようにして激痛に耐えていた。
それを冷たく見下しながら、ヴァルディアスがより冷酷に告げる。
「余計なことは思い出さなくていい。…ルイセ皇子、お前はただ、兄皇子・ライセ=ブラインを殺めることだけを考えればいい…」
「!あ…、兄皇…子を…殺…す…?」
「そうだ。…それだけの力を、俺は既に与えている…
なのに、何故殺めない? 何故…お前は抗おうとする…!」
「…俺…は、…別に…、抗…って…なんか…」
「…まだ言うか…!」
言い捨てたヴァルディアスは、さしたる前置きもなく、更に魔力の規模を引き上げた。
その魔力に上限はないのか、魔力が跳ね上がったことに比例して、累世の額に巣くう呪印の、闇の輝きが増す。
しかし、今度は…累世は声にはならなかった。
…悶え、苦しみ、そしてただひたすらに歯を食いしばり…
頭を、頭蓋骨が割れんばかりに強く、強く…押さえ続けていた。
「…ルイセ皇子よ、身の程は理解できたか?」
ヴァルディアスの言葉に反応して、累世の額の刻印が…
黒く、燦然と輝いた。
「…、ああ…」
根強く残る累世の意志をようやく屈服させたらしい刻印は、ふと、その輝きを抑えた。
…その一方で、すっかり息の荒くなった累世を、気遣うことも休ませることもなく、ヴァルディアスが更にライセと戦うように仕向ける。
「そうか。ならば取って来るがいい…
兄皇子の、命をな…!」
「…言われなくても分かっている」
累世はそう答えると…
次の瞬間、信じられないような速さで、ライセの側に姿を見せた。
「!な…んだと…!?」
ライセがそれに気付くのと、累世がそんな兄の右脇腹を、強力な魔力を込めた左手で抉るのとは…全く同時だった。
「!ぐっ…」
ライセは、なす術もなくその場へ倒れ込んだ。
…それ程、その攻撃は、ほんの一瞬の出来事だったのだ。
「…ぅ…うっ…」
地を自らの血で染め上げたライセは、徐々に目の前が暗くなっていくのを感じていた。
その傍らで、すっかり呪印に侵された累世が、そんな兄を見下しながら呟く。
「…これでいいか…?」
「ああ…、上出来だ」
ヴァルディアスは密かにほくそ笑むと、ふと気付いたように累世を促した。
「ルイセ皇子…、いや、“ルイセ”。
ライセ皇子は仕留めた。ここで一度、闇魔界へ戻ることとしよう。
術で体力を消耗しているお前は、少し休んでおくべきだ」
「…ああ。お前の言う通りにしよう」
…何の躊躇いもなく頷いた累世を、ヴァルディアスは魔力を用いて、自らの体と共に、闇魔界へと移動させた。
→TO BE CONTINUED…
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