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†静寂の罠†
罠に潜む疑問と謎
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「…邪魔をするのなら、貴様から潰すぞ」
将臣が、孤高な獣さながらに目を鋭くする。
あからさまに叩きつけられる、その…強い殺気のこもった敵意に、ルファイアはふと、その笑みを潜めた。
こちらも、舐めてかかれる相手ではないことは、最初から承知していた。
続けてルファイアは、鋭利な刃と化した将臣の魔力を、自らの魔力でかき消した。
間髪入れず、将臣は宙を掻くように手首を振る。…その手から、先程よりも更に細く鋭く、更に強固な魔力の、複数の刃が出現し、ルファイアを強襲した。
この容赦のない二段攻撃に、さすがにルファイアが、僅かながらも後退する。
「!くっ…」
ルファイアがその刃を、ヴァルディアスのそれに似た魔力による障壁で防ごうとするその隙を見計らって、続けて将臣は、一瞬にしてルファイアの左の懐に入り込んだ。
「!…貴様っ…!」
ルファイアは左手に魔力を集中させ、将臣に攻撃を仕掛けようとする。
しかし将臣はその動きを先読みし、自らの左手にも、ルファイアの手にした魔力と同等の威力の魔力を集中させた。
──瞬間、凄まじい威力の衝撃と共に、両者の魔力がぶつかり合う。
「!…っ」
それによって、中央にいた将臣とルファイアが、互いの後方に弾き飛ばされる。
しかし、将臣は空中で難なく体勢を整えた。
その片足が地に着いたと同時、その反動を利用して、着いた方の足のみで後ろへと飛ぶ。
そのまま、彼は自らの魔力を凝縮した、強力な蒼の魔力弾を、数発放った。
そんな将臣の戦闘能力に、心底感嘆したルファイアは、今回ばかりは素直に敵を褒め称えた。
「!…、さすがだな…、神崎将臣!」
「!? なに…?」
ルファイアが自らの名を知っていたこと…
そしてその名を呼んだことで、将臣は目に見えて動揺した。
…人間離れした速度で動いていたはずの、その動きが…止まる。
「…貴様…、何故、俺の名を…!?」
将臣が、驚きを隠せずに問うと、ルファイアは隠し立てすることもなく、簡潔に答えた。
「…お前の母・玲奈から聞いた」
「!な…、何だと…!?」
将臣の魔力弾を、同様の威力の魔力をぶつけることで相殺したルファイアは、予想外の答えを聞き、茫然とする将臣に、更なる追い打ちをかける。
「…その様子では、レイヴァンからは何も聞いていないようだな」
「!親父が…、レイヴァンが、一体何を知っていると…!?」
想定外の、母に関することを聞かされて、相手に問う立場であるはずの将臣の声は、自然、荒くなる。
そんな様を、さも楽しそうに見やったヴァルディアスは、そばにいる唯香にも聞かせるために、意図的に声を大にした。
「お前の母である神崎玲奈は、我々の手の内にある。…この意味が分かるな?」
“…つまり、人質は唯香だけではないということだ”。
ヴァルディアスの科白は、それを直に示している。
それに気付いた時、将臣は、彼には珍しく臍を噛んでいた。
…将臣は迷っていた。
妹と母を人質に取られていては、こちらからは妙な動きは出来ない。
動きを見せた途端に、母ないし妹を殺されるやも知れないことを思えば…
…動くことなど、出来はしない…!
そんな将臣の、自らの中での葛藤は、唯香の縋るような声によって、現実に引き戻された。
「…お…、お母さん…、生きているの?
生きてて…あなたたちの世界に…いるの…!?」
「ああ」
ヴァルディアスが、唯香を拘束していた手を離しながら、笑む。
彼が予想していた通り、唯香は逃げなかった。
…逃げられる訳もなかった。
唯香は、先程まであれほど拒んでいたヴァルディアスに縋り、必死に彼に向かって言葉を紡いだ。
「!…それが本当なら、お願い…お母さんに会わせて!」
「──駄目だ、母上!」
瞬間、ライセの、強い制止を意味する声が飛び…
唯香は、びくりと身を竦ませた。
「…ライセ…?」
制止の意味が分からず、驚きと戸惑いを浮かべて竦み、怖ず怖ずと自分を見る母に、ライセは、会ってから初めて声を荒げた。
「例え闇魔界に、本当におばあ様がいたのだとしても…
現段階では、それが母上…あなたを釣るための餌でしかないと、何故理解出来ないのですか!?」
「!…あたしを…!?」
あまりの度重なるショックに、唯香が棒立ちになる。
その様子を、その美しい蒼銀の瞳で見ていたヴァルディアスは、そんな唯香を包み込むように捕らえた。
「…戯れ言になど、耳を貸すな…
お前は、母に会いたいのだろう?」
まるで催眠術に誘導されるような、甘くも優しい耳元での囁きに、唯香の心が激しく揺らいだ。
「…お母さん…」
唯香は、雲に残った雨の残滓のごとく、ぽつりと呟いた。
その呟きは、事情を知らない者が聞けば、ただの感傷でしかなかったが…
事情を知る者が聞けば、それは…!
「…は…、母上…」
ライセにとっては、自らが未だ見ぬはずの、祖母に焦がれる母の心境は…
かつての己のそれと比較しても、その置かれた環境の違いからか、充分に理解できるものではなかった。
そして、この場でそれを理解できる者といえば…ただひとり。
「…唯香…」
その兄である将臣が、妹の心情を察し、その延長に潜む…【とある事象】を危惧する。
…その危惧とは、まさにこれから現実となるであろう事実に他ならない。
「母に会いたければ、俺と共に来い」
「!えっ…」
唯香が、唖然とヴァルディアスを見ると、これに腹を立てたらしいライセが、すかさず手に魔力を集め、翳した。
「我々が統治するこの地で、そのような道理が通ると思うか、貴様!」
一切臆することもなく、闇の卷族の持つ瞳を突き射るように自らに向けたライセに、ヴァルディアスは不敵に笑った。
「…勇ましいな。だが、今は皇子の相手をしている暇はない」
「!何だと…」
「カミュ皇子や吸血鬼皇帝が、我らの動きに気付き、手を打つ前に、この世界から退く必要があるからな」
低く喉を鳴らして、それでもなお美しくヴァルディアスが笑む。
…魔の化身という言葉がより相応しい言動を取っていながらも、その姿は神よりも天使よりも、見る者を強く惹きつける。
「…あなたについて行けば…、お母さんに会えるのね?」
不意に唯香が低く呟く。それに度肝を抜かれたのは、言うまでもなくライセだった。
彼は、母親が事の次第を読み取っていない怒りから、彼には不似合いなほど苛々と叫んだ。
「母上! 何を愚かなことを…!」
「愚かでも何でもいい! あたしは、お母さんに会いたい…
会って、いろいろ話したいの!」
「母上っ!」
ライセは、母の言い分を聞きながらも、その一方では、何とかして母の考えを改めさせようと必死だった。
「あなたは何も分かっていない! …ヴァルディアスがおばあ様の存在を持ち出してまで、あなたを傍に留めようとしている、その理由を…」
…ライセの、唯香によく似たその瞳が…
対なる瞳を責めるかのように、わずかに細まり、尖る。
「…あなたは…当事者でありながら、まるで理解していない!」
「!…ライセ…」
息子に、子としての感情をまともにぶつけられ、唯香はさすがに申し訳なさそうに…
いたたまれずに、視線を逸らした。
すると、そのほんの一瞬の隙をついて、ヴァルディアスが唯香を捕らえたまま、突然、魔力を用いて姿を消した。
「!ヴァルディアスっ」
将臣がとっさに魔力弾を放つが、時、既に遅し──
次には、傍らで攻撃に備えていたルファイアが、さも楽しげに、好戦的に自らの魔力を弄ぶ。
「足掻くのは得意と見えるな。…事実を呑み込めないとも思えないが…、既に手遅れだ。諦めろ」
「そう簡単に割り切れる感情なら──」
ライセが、先程までの強い怒りを、まるで逆方向になぞり向けたかのように、ぞっとするような冷たい声で呟いた。
「とうに擦れて無くなっている…!」
…この返答には、ルファイアも思わず本腰を入れずにはおけなかった。
「!…成る程、さすがにあのカミュの子だ。ならば、相応に相手をするとしよう…!」
将臣が、孤高な獣さながらに目を鋭くする。
あからさまに叩きつけられる、その…強い殺気のこもった敵意に、ルファイアはふと、その笑みを潜めた。
こちらも、舐めてかかれる相手ではないことは、最初から承知していた。
続けてルファイアは、鋭利な刃と化した将臣の魔力を、自らの魔力でかき消した。
間髪入れず、将臣は宙を掻くように手首を振る。…その手から、先程よりも更に細く鋭く、更に強固な魔力の、複数の刃が出現し、ルファイアを強襲した。
この容赦のない二段攻撃に、さすがにルファイアが、僅かながらも後退する。
「!くっ…」
ルファイアがその刃を、ヴァルディアスのそれに似た魔力による障壁で防ごうとするその隙を見計らって、続けて将臣は、一瞬にしてルファイアの左の懐に入り込んだ。
「!…貴様っ…!」
ルファイアは左手に魔力を集中させ、将臣に攻撃を仕掛けようとする。
しかし将臣はその動きを先読みし、自らの左手にも、ルファイアの手にした魔力と同等の威力の魔力を集中させた。
──瞬間、凄まじい威力の衝撃と共に、両者の魔力がぶつかり合う。
「!…っ」
それによって、中央にいた将臣とルファイアが、互いの後方に弾き飛ばされる。
しかし、将臣は空中で難なく体勢を整えた。
その片足が地に着いたと同時、その反動を利用して、着いた方の足のみで後ろへと飛ぶ。
そのまま、彼は自らの魔力を凝縮した、強力な蒼の魔力弾を、数発放った。
そんな将臣の戦闘能力に、心底感嘆したルファイアは、今回ばかりは素直に敵を褒め称えた。
「!…、さすがだな…、神崎将臣!」
「!? なに…?」
ルファイアが自らの名を知っていたこと…
そしてその名を呼んだことで、将臣は目に見えて動揺した。
…人間離れした速度で動いていたはずの、その動きが…止まる。
「…貴様…、何故、俺の名を…!?」
将臣が、驚きを隠せずに問うと、ルファイアは隠し立てすることもなく、簡潔に答えた。
「…お前の母・玲奈から聞いた」
「!な…、何だと…!?」
将臣の魔力弾を、同様の威力の魔力をぶつけることで相殺したルファイアは、予想外の答えを聞き、茫然とする将臣に、更なる追い打ちをかける。
「…その様子では、レイヴァンからは何も聞いていないようだな」
「!親父が…、レイヴァンが、一体何を知っていると…!?」
想定外の、母に関することを聞かされて、相手に問う立場であるはずの将臣の声は、自然、荒くなる。
そんな様を、さも楽しそうに見やったヴァルディアスは、そばにいる唯香にも聞かせるために、意図的に声を大にした。
「お前の母である神崎玲奈は、我々の手の内にある。…この意味が分かるな?」
“…つまり、人質は唯香だけではないということだ”。
ヴァルディアスの科白は、それを直に示している。
それに気付いた時、将臣は、彼には珍しく臍を噛んでいた。
…将臣は迷っていた。
妹と母を人質に取られていては、こちらからは妙な動きは出来ない。
動きを見せた途端に、母ないし妹を殺されるやも知れないことを思えば…
…動くことなど、出来はしない…!
そんな将臣の、自らの中での葛藤は、唯香の縋るような声によって、現実に引き戻された。
「…お…、お母さん…、生きているの?
生きてて…あなたたちの世界に…いるの…!?」
「ああ」
ヴァルディアスが、唯香を拘束していた手を離しながら、笑む。
彼が予想していた通り、唯香は逃げなかった。
…逃げられる訳もなかった。
唯香は、先程まであれほど拒んでいたヴァルディアスに縋り、必死に彼に向かって言葉を紡いだ。
「!…それが本当なら、お願い…お母さんに会わせて!」
「──駄目だ、母上!」
瞬間、ライセの、強い制止を意味する声が飛び…
唯香は、びくりと身を竦ませた。
「…ライセ…?」
制止の意味が分からず、驚きと戸惑いを浮かべて竦み、怖ず怖ずと自分を見る母に、ライセは、会ってから初めて声を荒げた。
「例え闇魔界に、本当におばあ様がいたのだとしても…
現段階では、それが母上…あなたを釣るための餌でしかないと、何故理解出来ないのですか!?」
「!…あたしを…!?」
あまりの度重なるショックに、唯香が棒立ちになる。
その様子を、その美しい蒼銀の瞳で見ていたヴァルディアスは、そんな唯香を包み込むように捕らえた。
「…戯れ言になど、耳を貸すな…
お前は、母に会いたいのだろう?」
まるで催眠術に誘導されるような、甘くも優しい耳元での囁きに、唯香の心が激しく揺らいだ。
「…お母さん…」
唯香は、雲に残った雨の残滓のごとく、ぽつりと呟いた。
その呟きは、事情を知らない者が聞けば、ただの感傷でしかなかったが…
事情を知る者が聞けば、それは…!
「…は…、母上…」
ライセにとっては、自らが未だ見ぬはずの、祖母に焦がれる母の心境は…
かつての己のそれと比較しても、その置かれた環境の違いからか、充分に理解できるものではなかった。
そして、この場でそれを理解できる者といえば…ただひとり。
「…唯香…」
その兄である将臣が、妹の心情を察し、その延長に潜む…【とある事象】を危惧する。
…その危惧とは、まさにこれから現実となるであろう事実に他ならない。
「母に会いたければ、俺と共に来い」
「!えっ…」
唯香が、唖然とヴァルディアスを見ると、これに腹を立てたらしいライセが、すかさず手に魔力を集め、翳した。
「我々が統治するこの地で、そのような道理が通ると思うか、貴様!」
一切臆することもなく、闇の卷族の持つ瞳を突き射るように自らに向けたライセに、ヴァルディアスは不敵に笑った。
「…勇ましいな。だが、今は皇子の相手をしている暇はない」
「!何だと…」
「カミュ皇子や吸血鬼皇帝が、我らの動きに気付き、手を打つ前に、この世界から退く必要があるからな」
低く喉を鳴らして、それでもなお美しくヴァルディアスが笑む。
…魔の化身という言葉がより相応しい言動を取っていながらも、その姿は神よりも天使よりも、見る者を強く惹きつける。
「…あなたについて行けば…、お母さんに会えるのね?」
不意に唯香が低く呟く。それに度肝を抜かれたのは、言うまでもなくライセだった。
彼は、母親が事の次第を読み取っていない怒りから、彼には不似合いなほど苛々と叫んだ。
「母上! 何を愚かなことを…!」
「愚かでも何でもいい! あたしは、お母さんに会いたい…
会って、いろいろ話したいの!」
「母上っ!」
ライセは、母の言い分を聞きながらも、その一方では、何とかして母の考えを改めさせようと必死だった。
「あなたは何も分かっていない! …ヴァルディアスがおばあ様の存在を持ち出してまで、あなたを傍に留めようとしている、その理由を…」
…ライセの、唯香によく似たその瞳が…
対なる瞳を責めるかのように、わずかに細まり、尖る。
「…あなたは…当事者でありながら、まるで理解していない!」
「!…ライセ…」
息子に、子としての感情をまともにぶつけられ、唯香はさすがに申し訳なさそうに…
いたたまれずに、視線を逸らした。
すると、そのほんの一瞬の隙をついて、ヴァルディアスが唯香を捕らえたまま、突然、魔力を用いて姿を消した。
「!ヴァルディアスっ」
将臣がとっさに魔力弾を放つが、時、既に遅し──
次には、傍らで攻撃に備えていたルファイアが、さも楽しげに、好戦的に自らの魔力を弄ぶ。
「足掻くのは得意と見えるな。…事実を呑み込めないとも思えないが…、既に手遅れだ。諦めろ」
「そう簡単に割り切れる感情なら──」
ライセが、先程までの強い怒りを、まるで逆方向になぞり向けたかのように、ぞっとするような冷たい声で呟いた。
「とうに擦れて無くなっている…!」
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