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†終焉の足音†
氷解の原点
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★☆★☆★
…その一方で、凛から話を聞いていたライセも、累世に酷似した表情を見せていた。
凛の話を聞くにつれ、今まで弟に向けていた己の感情が、完全に嫉妬であると悟ったからだ。
…凛は、累世と懇意だというだけのことはあり、実に色々な話を知っていた。
中でもライセの興味を強く惹いたのは、父親・カミュの存在を知った時の、累世の反応だった。
…この世界に来る時、累世の放った一言は、ライセに今の関係の何たるかを気付かせた。
望みもしない家庭訪問──
血を分けた者と会うのにも関わらず…“望みもしない”。
そこには確かに、精の黒瞑界と人間界という、二つの世界の隔たりがある。
…以前にも、考え、迷ったはずだ。
“もし、自分と累世の立場が逆であったら”…と。
母の愛情を受け、周囲には信頼できる友人もいる。
だが、皇族としては認知されず、魔力も使えず、こちらが忌み蔑む、人間そのものの存在──
それを、更に血を分けた者からも否定され、見下されたら…
「…、“ルイセ”は、違った形の俺自身であったかも知れない」
…双子であるだけに。双子であるが故に。
その運命はもしかしたら、すり変わっていたかも知れないのだ。
「ルイセには…悪いことをしたな…」
目を伏せて、いたたまれない表情と共に哀愁を漂わせるライセに、凛は黙ったまま、目を閉じ、首を振った。
それに気付いたライセは問う。
「…凛?」
凛は目を開くと、まっすぐにライセを見る。
その極上の宝石のような緋眼には、自らの意思に対しての迷いは全く見られない。
「累世も多分、貴方と同じことを考えていると思うわ」
「ルイセが…?」
「ええ」
凛はライセを気遣ってか、その口元に、聖女さながらの慈愛の笑みを見せた。
「累世としても、貴方と分かり合えないのは不本意だと思うわよ」
「…そうだといいが」
「累世も気付いてないみたいだけど…
貴方たち、双子だというだけのことはあって、考え方とかが割と似てるの。
だからきっと、累世も同じ考えでいるわ」
「…そうか」
凛の、励ましにも近い言葉によって、ライセが僅かながら安堵したその時…
不意に、空間の外が騒がしくなった。
「何だ…?」
ライセがそれに反応し、事態を確認するため、自らのいる空間の入り口を開いた途端。
それに飛び込むようにして、顔色のすぐれない、華奢な少女を伴って、たった今まで話にあがっていた当の累世が、その、ライセに良く似た姿を見せた。
そんな累世の突然の出現に、ライセは驚き、母親である唯香譲りの、美しい深海を閉じ込めたような蒼の双眸を見開いて、弟を見つめる。
「ルイセ…!?」
片や累世の方も、ライセと最後に顔を合わせたのは、闇魔界の皇帝・ヴァルディアスに操られていた時…
しかも、不本意とはいえ、その際に手酷く傷つけてしまっていたことから、累世は傀儡から解放された時から、言動にこそ出さなかったものの、兄であるライセの身を酷く案じ、気に病んでいた。
そんなライセが、全く無傷な状態で、目の前にいる。
ライセの無事を確認し、結果、どこか安堵したかのように、累世は胸を撫で下ろした。
…心境がそのまま、言葉となって口を出る。
「ライセ! 良かった…、無事だったのか…!」
「…? その口調…
それに、額の呪印が消えていることからしても、経過は知らないが、どうやらヴァルディアスの呪縛からは解放されているようだな」
「!…あ、ああ、それは何とか…」
累世は面目ないといった顔で、ほんの一時、目を伏せたが、またすぐに正面からライセを見据えた。
「ライセ、俺の考えが浅かったが為、結果的に操られてしまって…お前に攻撃を仕掛けたのは分かっている。…それでお前に忌み嫌われても仕方がないとも思っている。
でも、悪いが…今はそれどころじゃないんだ…!」
「…、話してみろ」
逸る累世に対して、ライセは以前に攻撃されたことを咎めるでもなく、一言、そう告げた。
頷いた累世は、内心でそれに感謝しながらも、今までの自分側の事情を、かいつまんで説明する。
…累世が話し終えた時、ライセはしばらく考え込んでいた。
蒼の瞳を、測るようにヴェイルスに向ける。
──累世に向けた、祖父の言葉の意味が分かった気がした。
その心を読んだかのように、累世がすぐさまライセに尋ねた。
「…ライセ、あの人の言った意味…
分かるか?」
「…ああ」
頷きながらもライセは、果たしてそれを口にしても良いものかどうか、迷っていた。
…経過の説明からも分かるが、累世は相当にヴェイルスに感情移入している。
そんな状態で、この事実を宣告したところで──
ルイセは受け入れるだろうか?
すると、そんなライセの葛藤を打ち消すかのように、その傍らにいた凛が、頷いた。
今までライセにしか目が行っていなかったことと、精の黒瞑界特有の薄暗さから、ライセと共にいたのがまさか凛だとは思わなかった累世が、驚愕する。
「!え…、まさか、凛…!?
お前、どうしてこの世界にいる…!?
しかも…」
何でライセと、と言いかけた累世を、そのライセ本人が遮った。
「こちらの事情は後で話してやる。まずは、そいつをどうにかするのが先だろう」
「!あ、ああ…」
…目標物以外、目に入らないところなどは、まさしく母親である唯香の性格を受け継いでいるのだが…
累世はそれに気付くこともなく、釈然としない様子で頷いた。
すると、今だ苦しみの残るヴェイルスを見て、凛が口を挟む。
…その一方で、凛から話を聞いていたライセも、累世に酷似した表情を見せていた。
凛の話を聞くにつれ、今まで弟に向けていた己の感情が、完全に嫉妬であると悟ったからだ。
…凛は、累世と懇意だというだけのことはあり、実に色々な話を知っていた。
中でもライセの興味を強く惹いたのは、父親・カミュの存在を知った時の、累世の反応だった。
…この世界に来る時、累世の放った一言は、ライセに今の関係の何たるかを気付かせた。
望みもしない家庭訪問──
血を分けた者と会うのにも関わらず…“望みもしない”。
そこには確かに、精の黒瞑界と人間界という、二つの世界の隔たりがある。
…以前にも、考え、迷ったはずだ。
“もし、自分と累世の立場が逆であったら”…と。
母の愛情を受け、周囲には信頼できる友人もいる。
だが、皇族としては認知されず、魔力も使えず、こちらが忌み蔑む、人間そのものの存在──
それを、更に血を分けた者からも否定され、見下されたら…
「…、“ルイセ”は、違った形の俺自身であったかも知れない」
…双子であるだけに。双子であるが故に。
その運命はもしかしたら、すり変わっていたかも知れないのだ。
「ルイセには…悪いことをしたな…」
目を伏せて、いたたまれない表情と共に哀愁を漂わせるライセに、凛は黙ったまま、目を閉じ、首を振った。
それに気付いたライセは問う。
「…凛?」
凛は目を開くと、まっすぐにライセを見る。
その極上の宝石のような緋眼には、自らの意思に対しての迷いは全く見られない。
「累世も多分、貴方と同じことを考えていると思うわ」
「ルイセが…?」
「ええ」
凛はライセを気遣ってか、その口元に、聖女さながらの慈愛の笑みを見せた。
「累世としても、貴方と分かり合えないのは不本意だと思うわよ」
「…そうだといいが」
「累世も気付いてないみたいだけど…
貴方たち、双子だというだけのことはあって、考え方とかが割と似てるの。
だからきっと、累世も同じ考えでいるわ」
「…そうか」
凛の、励ましにも近い言葉によって、ライセが僅かながら安堵したその時…
不意に、空間の外が騒がしくなった。
「何だ…?」
ライセがそれに反応し、事態を確認するため、自らのいる空間の入り口を開いた途端。
それに飛び込むようにして、顔色のすぐれない、華奢な少女を伴って、たった今まで話にあがっていた当の累世が、その、ライセに良く似た姿を見せた。
そんな累世の突然の出現に、ライセは驚き、母親である唯香譲りの、美しい深海を閉じ込めたような蒼の双眸を見開いて、弟を見つめる。
「ルイセ…!?」
片や累世の方も、ライセと最後に顔を合わせたのは、闇魔界の皇帝・ヴァルディアスに操られていた時…
しかも、不本意とはいえ、その際に手酷く傷つけてしまっていたことから、累世は傀儡から解放された時から、言動にこそ出さなかったものの、兄であるライセの身を酷く案じ、気に病んでいた。
そんなライセが、全く無傷な状態で、目の前にいる。
ライセの無事を確認し、結果、どこか安堵したかのように、累世は胸を撫で下ろした。
…心境がそのまま、言葉となって口を出る。
「ライセ! 良かった…、無事だったのか…!」
「…? その口調…
それに、額の呪印が消えていることからしても、経過は知らないが、どうやらヴァルディアスの呪縛からは解放されているようだな」
「!…あ、ああ、それは何とか…」
累世は面目ないといった顔で、ほんの一時、目を伏せたが、またすぐに正面からライセを見据えた。
「ライセ、俺の考えが浅かったが為、結果的に操られてしまって…お前に攻撃を仕掛けたのは分かっている。…それでお前に忌み嫌われても仕方がないとも思っている。
でも、悪いが…今はそれどころじゃないんだ…!」
「…、話してみろ」
逸る累世に対して、ライセは以前に攻撃されたことを咎めるでもなく、一言、そう告げた。
頷いた累世は、内心でそれに感謝しながらも、今までの自分側の事情を、かいつまんで説明する。
…累世が話し終えた時、ライセはしばらく考え込んでいた。
蒼の瞳を、測るようにヴェイルスに向ける。
──累世に向けた、祖父の言葉の意味が分かった気がした。
その心を読んだかのように、累世がすぐさまライセに尋ねた。
「…ライセ、あの人の言った意味…
分かるか?」
「…ああ」
頷きながらもライセは、果たしてそれを口にしても良いものかどうか、迷っていた。
…経過の説明からも分かるが、累世は相当にヴェイルスに感情移入している。
そんな状態で、この事実を宣告したところで──
ルイセは受け入れるだろうか?
すると、そんなライセの葛藤を打ち消すかのように、その傍らにいた凛が、頷いた。
今までライセにしか目が行っていなかったことと、精の黒瞑界特有の薄暗さから、ライセと共にいたのがまさか凛だとは思わなかった累世が、驚愕する。
「!え…、まさか、凛…!?
お前、どうしてこの世界にいる…!?
しかも…」
何でライセと、と言いかけた累世を、そのライセ本人が遮った。
「こちらの事情は後で話してやる。まずは、そいつをどうにかするのが先だろう」
「!あ、ああ…」
…目標物以外、目に入らないところなどは、まさしく母親である唯香の性格を受け継いでいるのだが…
累世はそれに気付くこともなく、釈然としない様子で頷いた。
すると、今だ苦しみの残るヴェイルスを見て、凛が口を挟む。
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