†我の血族†

如月統哉

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†闇の継承†

各々の立ち位置

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★☆★☆★

──ヴァルディアスの体を中心に、渦を巻くように、強力な魔力が集中する。
その魔力は、明らかに外部から取り込んだものだ。
なのにやけにしっくり来るのは、それが元々彼自身のものであったからなのだろう。

ヴェイルスとは面識もなく、またその情報すらも知らないカミュは、この魔力が何処からの、何からのものであるのか、その見当がつかなかった。

…そんな中で、事情を知るヴァルディアスが、不敵に笑む。

「引き金を引いたのが己であると…皇子は分かっているか?」
「それはこけ脅しのつもりなのか?」

カミュはすぐさま切り返す。
だが内心では、ただでさえ厄介なヴァルディアスの魔力が想定外に増えたことから、対策を練るべく、時間稼ぎも含めて、言葉による翻弄を画策していた。

しかし、それを見越したらしいヴァルディアスが、これ以上ないほどに綺麗に笑む。

「知らぬからこそ…そうしていられるのだろう」
「…、力に比例して饒舌さも増したようだな」

カミュは再び魔力を高め始めた。


もはや小手先の様子見など必要ない。
こうなれば全力で殺めるだけだ。

例え相手が何を企んでいようとも…
“ただ、殺すだけだ”。


カミュの瞳がより鋭くなり、棘を増す。

…この時のカミュは、息子の悲しみを知らなかった。
累世の深い嘆きを…知ることも無かった。
累世の気にかけたヴェイルスの存在が、当のヴァルディアスの内にあることなど…
思いもつかなかった。

…だから、彼と対峙することに、敵対することに…
戸惑いも、躊躇いもしなかった。

カミュの魔力が陽炎のように揺らめいて、ヴァルディアスの蒼銀の瞳に映る。
蒼銀に映る紫は、悲しいくらいに美しかった。

たちのぼる陽炎は色濃く体を覆う。
その力は以前のカミュの魔力とは桁違いだったはずだった。
…それでも、カミュはヴァルディアスに勝てる気がしないままでいた。

いつから自分を見失い、いつまでそれを引きずるのだろう。
それが弱さの原因だと分かっていながら。
それを捨てれば、強くなれると知りながら──

捨てきれないのは自分だから。
それが元で起きた事象は、全て自分の罪だから…

乗り掛かった船に乗れない。
乗りきれないのは…

それでもまだ、何処かに葛藤が残っているから。





★☆★☆★

「…レイセ、離して…」

レイセに縋られたまま、少しずつ自我を取り戻し始めた唯香が呟く。
瞬間、レイセは咎めるように唯香を引き離した。

「母上…どうしてそんなに僕を嫌うの?
僕も貴女の息子なのに」
「…、別に…嫌ってなんかいない」

唯香が首を横に振り、抑揚のない口調で続ける。

「でも、あたしはカミュの側に行きたいだけ。
今はただ…カミュの近くに居たいだけなの」
「生まれたばかりの僕を、差し置いても?」
「…、貴方はもう既に、あたしの手から離れているじゃない…」


その、危険思想。
子どものものとは思えない。


「……」

レイセの顔が翳った。
しかし…それは悲しみからではなく、底知れぬ憎しみからだった。
瞳が鋭くなり、それでいて無表情に唯香を見る。
その息子の様に、唯香は慄みあがった。

レイセは構わず、口を開く。

「…、カミュ皇子に逢いたいなら会わせてあげるよ…
ただし、“死体として”だけどね」
「…え…!?」

唯香の歪んだ表情を、レイセは冷めた薄笑いの目で見つめた。

「…カミュ皇子の処理は父上にお任せしようと思っていたけど…
気が変わったよ。彼をこの手で殺さないと気が済まなくなった」
「!どうして…」

レイセは瞬きをすることで笑みを止める。

「…分からないの? じゃあ分からないままでいい。
いずれは分かるだろうから」

はっきりと言い捨てたレイセは、不意にその手に魔力を収束させた。
それに唯香が気付いたと同時、レイセの手が眩い蒼銀に輝いた。

──その恐るべき威力の魔力は、レイセの意志によって、隣の空間めがけて放たれる。

「!…」

その光の眩しさに、唯香は思わず片目を閉じた。

その反射すらも上回る速さで空間そのものに直撃した魔力は、その構成を無に帰す規模の大爆発を起こす。
その勢いに呑まれて、唯香の体はそのまま後方に吹き飛ばされた。

「!っ…」

悲鳴をあげかけた唯香の肩を、いつの間にか背後に回り込んで押さえたレイセは、爆風の威力に、まるで表情も変えることなく前方を見やる。


…ぽっかりと無惨に開いた大穴の先に、金と銀の者が、強大な魔力を纏って対峙しているのが見えた──
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