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†歪んだ光†
攻めの変化
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「カイネルが甘いだと?
甘いのは貴様の方だ、ルファイア…
お前は実弟の犠牲の上に生きている。そして、それを導いたのも他ならぬお前──
カイネルは身を呈して仲間を救った。
お前は仲間を見捨てて生にしがみついている。
だとすれば、果たして真に甘いのは… 一体どちらだ?」
「!…っ」
ルファイアが臍を噛む。
一方のカイネルは、よほどライセの反応が意外だったのだろう…
絶句し、頬に一筋の汗を流したまま、驚いたようにライセを見つめている。
そんなカイネルに、ライセは静かに、しかし極めて挑戦的に笑んだ。
「六魔将が甘い… 結構なことだ。
仲間を見捨てる者など、将の名には相応しくない」
「…ライセ…様」
「ルファイア… お前は能力以前に、既にその一点で六魔将に敗北している。
それが解らないお前に勝ち目はない」
「…!」
ルファイアが獣じみた怒りの瞳を露にする。
眼前の相手… それに重ねたように映るのは、自らが拘り、求め、その高貴さを蹂躙し、地に這わせたいとまで願った、真の強者。
──“カミュ=ブライン”。
「……」
外見は確かに違う。似ているだけだ。
だが、その内面の類似。精神の類似。
それは最もカミュに等しく、ひいては強者に等しい。
…余す所のない指摘。
冷静かつ的確な判断力。
それはかつてのライセに無く、今のライセに在るもの。
「……」
ルファイアは厳しい表情で黙り込んだ。
だがそれは、決してライセの言に屈したからではない。
仮にライセの言が、全ての理に則っていたとしても…
それでも、自分の考えは違う。
弱者は弱者。そして六魔将も、徒党ではない個々で相対した場合、何ら恐れる必要はない。
…だが、“解る”。
それでも、ほんの一瞬でも、ライセに心で圧された自分がいることが。
そして、そんなライセに多大なる影響を与えたであろう、その父親であるカミュを、間接的に怖れた事実(コト)が…!
「…、そうだな、それでこそだ…」
ルファイアは一転、鼻を軽く鳴らすと、くつくつと低く笑んだ。
それは酷く満足気であり、また、それを上回って自嘲に満ちていた。
「さすがはカミュ皇子の息子…か。
よもやここまで大化けするとはな…
これだから、精の黒瞑界の者共は面白い。
可笑しい程に…こちらの期待通りの成長を遂げてくれる」
「…予想で全てを理解しようなどとは思わないことだな」
ライセがそれまでにないほど冷酷に呟く。
「貴様がこちらを測るのならば、こちらはそれ以上の成長を遂げてみせる。
貴様の数値のみで、この世界を推し測ろうなどとは、傲り昂るにも程がある…!」
そう告げながら、ライセはルファイアから一時も視線を離すことなく右手を構える。
…そこに、傍目にも分かる程に強力な紫の魔力が集中する。
「お前は力でしか物事を見ていない」
「…何を言うかと思えば下らないことを。
“力”。それがあれば充分だろう?
まだ未熟な皇子には、解らなくても無理はないがな」
くっ、と喉を鳴らして笑むルファイア。
これにカイネルの堪忍袋の緒が切れた。
「!てめぇな、その考えが…」
「落ち着けカイネル、奴の挑発に乗るな」
ライセはその右手に魔力を留めたまま、残った左手でカイネルを制す。
これにカイネルは、やはり焦燥と興奮を入り混ぜた反応を見せた。
「ライセ様、分かってますよ。分かっちゃいるけど…!」
ぎりっ、と歯を軋ませるカイネルに、ライセは落ち着き払って静かに答えた。
「分かっているなら、奴のやり方に倣うだけだ…
簡単なことだろう?」
「!ライセ…様」
カイネルが唖然とライセを見る。
それにライセは、軽く頷いた。
「奴は少し前の俺と、考え方が極めて類似している。
…偏見と独断と、無知の塊だ。
こういった相手に分からせるには、実際にそれを知らしめるしか方法はない」
「成る程。…つまり“目には目を”で?」
「ああ。ただし正攻法でだ。
でなければ我々は奴と同じに成り下がる」
「冗談… 正攻法で行きますよ。
それがライセ様の希望でもあり、あいつの願いでもあるはずですからね」
…“あの、誇り高い【傀儡】の、ね”。
その言をカイネルは意図的に飲み込んだ。
…そして、眼前の相手を改めて見やる。
──炎を自在に操る、闇魔界の強者。
シレン4兄弟のうちがひとり・ルファイア=シレン。
分かっている。
彼といい勝負が出来るのは、見方内では、カミュ皇子かレイヴァン…
そして、サヴァイス皇帝だけだ。
…いくら六魔将のうちのひとりとはいえ、一介の戦力でしかない自分の手に余るであろうことは、今までのことからも充分に理解出来る…
だが。
それはライセ皇子も同じはずだ。
なのに、動じない。それは何故か。
…“今は、動じる理由がないからだ”。
「あいつは何かと俺を未成熟だと捉えがちだが、それならそれなりに利点はある…」
今度はライセが喉を鳴らす番だった。
…それも、満足げに。
「まだ成長段階であるこの体は、成人のそれよりも、遥かに幼く、体重も軽い… ということはだ」
「!まさか、ライセ様…」
カイネルが何かに気付くと同時、ライセは右手の魔力をルファイアに翳していた。
その手首を掴んで止めたルファイアが、苛立ちと軽い憎しみに目を尖らせる。
「…、速さで勝るつもりか…? この俺に?」
「成熟した者は、体重も体格もそれなりに出来上がる。
だが、俺にはその規制は今のところ無い。
これを今、利用しないでどうする?」
そう挑戦的に笑うライセを、ルファイアは忌々しげに手首ごと投げた。
するとライセは投げ出された空中で体勢を整え、すかさず右手の魔力を放つ。
「!…ライセ皇子」
ルファイアはその魔力の方ではなく、ライセを見つめたまま、無意識に攻撃を手で受け止め、かき消した。
…同時にその手には、たった今掴んだばかりの、当のライセの体の重さが残る。
(思いの外、軽い…か。成る程な)
…瞬間。
ルファイアはその笑みを愉悦に歪めた。
甘いのは貴様の方だ、ルファイア…
お前は実弟の犠牲の上に生きている。そして、それを導いたのも他ならぬお前──
カイネルは身を呈して仲間を救った。
お前は仲間を見捨てて生にしがみついている。
だとすれば、果たして真に甘いのは… 一体どちらだ?」
「!…っ」
ルファイアが臍を噛む。
一方のカイネルは、よほどライセの反応が意外だったのだろう…
絶句し、頬に一筋の汗を流したまま、驚いたようにライセを見つめている。
そんなカイネルに、ライセは静かに、しかし極めて挑戦的に笑んだ。
「六魔将が甘い… 結構なことだ。
仲間を見捨てる者など、将の名には相応しくない」
「…ライセ…様」
「ルファイア… お前は能力以前に、既にその一点で六魔将に敗北している。
それが解らないお前に勝ち目はない」
「…!」
ルファイアが獣じみた怒りの瞳を露にする。
眼前の相手… それに重ねたように映るのは、自らが拘り、求め、その高貴さを蹂躙し、地に這わせたいとまで願った、真の強者。
──“カミュ=ブライン”。
「……」
外見は確かに違う。似ているだけだ。
だが、その内面の類似。精神の類似。
それは最もカミュに等しく、ひいては強者に等しい。
…余す所のない指摘。
冷静かつ的確な判断力。
それはかつてのライセに無く、今のライセに在るもの。
「……」
ルファイアは厳しい表情で黙り込んだ。
だがそれは、決してライセの言に屈したからではない。
仮にライセの言が、全ての理に則っていたとしても…
それでも、自分の考えは違う。
弱者は弱者。そして六魔将も、徒党ではない個々で相対した場合、何ら恐れる必要はない。
…だが、“解る”。
それでも、ほんの一瞬でも、ライセに心で圧された自分がいることが。
そして、そんなライセに多大なる影響を与えたであろう、その父親であるカミュを、間接的に怖れた事実(コト)が…!
「…、そうだな、それでこそだ…」
ルファイアは一転、鼻を軽く鳴らすと、くつくつと低く笑んだ。
それは酷く満足気であり、また、それを上回って自嘲に満ちていた。
「さすがはカミュ皇子の息子…か。
よもやここまで大化けするとはな…
これだから、精の黒瞑界の者共は面白い。
可笑しい程に…こちらの期待通りの成長を遂げてくれる」
「…予想で全てを理解しようなどとは思わないことだな」
ライセがそれまでにないほど冷酷に呟く。
「貴様がこちらを測るのならば、こちらはそれ以上の成長を遂げてみせる。
貴様の数値のみで、この世界を推し測ろうなどとは、傲り昂るにも程がある…!」
そう告げながら、ライセはルファイアから一時も視線を離すことなく右手を構える。
…そこに、傍目にも分かる程に強力な紫の魔力が集中する。
「お前は力でしか物事を見ていない」
「…何を言うかと思えば下らないことを。
“力”。それがあれば充分だろう?
まだ未熟な皇子には、解らなくても無理はないがな」
くっ、と喉を鳴らして笑むルファイア。
これにカイネルの堪忍袋の緒が切れた。
「!てめぇな、その考えが…」
「落ち着けカイネル、奴の挑発に乗るな」
ライセはその右手に魔力を留めたまま、残った左手でカイネルを制す。
これにカイネルは、やはり焦燥と興奮を入り混ぜた反応を見せた。
「ライセ様、分かってますよ。分かっちゃいるけど…!」
ぎりっ、と歯を軋ませるカイネルに、ライセは落ち着き払って静かに答えた。
「分かっているなら、奴のやり方に倣うだけだ…
簡単なことだろう?」
「!ライセ…様」
カイネルが唖然とライセを見る。
それにライセは、軽く頷いた。
「奴は少し前の俺と、考え方が極めて類似している。
…偏見と独断と、無知の塊だ。
こういった相手に分からせるには、実際にそれを知らしめるしか方法はない」
「成る程。…つまり“目には目を”で?」
「ああ。ただし正攻法でだ。
でなければ我々は奴と同じに成り下がる」
「冗談… 正攻法で行きますよ。
それがライセ様の希望でもあり、あいつの願いでもあるはずですからね」
…“あの、誇り高い【傀儡】の、ね”。
その言をカイネルは意図的に飲み込んだ。
…そして、眼前の相手を改めて見やる。
──炎を自在に操る、闇魔界の強者。
シレン4兄弟のうちがひとり・ルファイア=シレン。
分かっている。
彼といい勝負が出来るのは、見方内では、カミュ皇子かレイヴァン…
そして、サヴァイス皇帝だけだ。
…いくら六魔将のうちのひとりとはいえ、一介の戦力でしかない自分の手に余るであろうことは、今までのことからも充分に理解出来る…
だが。
それはライセ皇子も同じはずだ。
なのに、動じない。それは何故か。
…“今は、動じる理由がないからだ”。
「あいつは何かと俺を未成熟だと捉えがちだが、それならそれなりに利点はある…」
今度はライセが喉を鳴らす番だった。
…それも、満足げに。
「まだ成長段階であるこの体は、成人のそれよりも、遥かに幼く、体重も軽い… ということはだ」
「!まさか、ライセ様…」
カイネルが何かに気付くと同時、ライセは右手の魔力をルファイアに翳していた。
その手首を掴んで止めたルファイアが、苛立ちと軽い憎しみに目を尖らせる。
「…、速さで勝るつもりか…? この俺に?」
「成熟した者は、体重も体格もそれなりに出来上がる。
だが、俺にはその規制は今のところ無い。
これを今、利用しないでどうする?」
そう挑戦的に笑うライセを、ルファイアは忌々しげに手首ごと投げた。
するとライセは投げ出された空中で体勢を整え、すかさず右手の魔力を放つ。
「!…ライセ皇子」
ルファイアはその魔力の方ではなく、ライセを見つめたまま、無意識に攻撃を手で受け止め、かき消した。
…同時にその手には、たった今掴んだばかりの、当のライセの体の重さが残る。
(思いの外、軽い…か。成る程な)
…瞬間。
ルファイアはその笑みを愉悦に歪めた。
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