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10話

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ざわめきが静寂に変わる。その変化を待っていたかのように、校長は部外者が周辺にいないことを確認すると壇上に登り始めた。白髪を後ろで一つに束ねた老婦人がマイクを取る。慣れた手つきでスイッチを入れて話し始めたのは興味深い内容だった。

「わざわざ残ってもらって悪いね。私の長話なんて聞きたくないだろうし、私もしたくない。だから要点を絞って話すつもりだ。だけど分からないことがあったら遠慮なく言ってもらって構わないよ」

 親しみやすい、飄々ひょうひょうとした口調で話すのが校長の癖らしい。背筋を伸ばした姿勢で校長は話を続ける。

 「話というのは君たちの学年がとある研究の対象となったという内容だ」

 その言葉を皮切りに、体育館は再びざわめきに満たされる。俺自身も戸惑いを感じていた。研究対象だと?  一体何をさせるつもりなんだ?  まさかとは思うけど、映画みたいに命の奪い合いとかそんなんじゃないだろうな。俺の気持ちを代弁するように、一人の生徒から声が上がった。

 「校長先生、研究とはどのような内容なのでしょうか?  その危なかったりだとか……」

 ざわめきは静寂に取って代わられる。全員が耳を澄ましていた。

 「ん?  何か勘違いをしているようだけど危険なことは一つもないよ。そもそも危険が伴う内容なら私が許可してない。行われるのはただの介入研究。ええっと研究名は……」

 校長先生は研究名を忘れたらしく、ポケットから丸められたメモ用紙を壇上で広げ、

 「『クラスメイトによって異なる、学力や人格形成等への影響について』だそうだ」

 だそうだ、じゃない。どこだ?  何の役に立つのか分からない研究をやろうとしているところは。さてはこの学校、謝礼金としてまとまった額を受け取ったな!?


俺たちの危険に配慮してくれたことはありがたかったが、何か影響があるのだろうか。

 「まぁ、なんだ。小難しい研究テーマだが、いつもと違うのはクラス分けの基準だけだよ。二年生だけは今年一組を筆頭に様々な分野で優秀な者が集まるようクラス分けの方をさせてもらった。多種多様な分野の実績を考慮して、優秀な者から一組、二組、三組とね」

 それは……ちょっとおかしくないか。俺は首をひねる。校長先生の話通りなら、自慢ではないが昨年テストで一位をキープし続けた俺は一組ではないとしても、さすがに五組に配属されることはないだろう。明らかに説明と俺の立ち位置は矛盾している。ふと壇上に目をやると、校長と視線がかちあう。その口元が一瞬だがふっと笑みを浮かべた。

 何だ?  何を企んでいるんだ?

 固まっていると、遠くから凛とした女子生徒の声が響いた。生徒会長だ。
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