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16話
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平穏な時間はあっという間に過ぎる。ふと顔を上げて自習ブースの壁に設置されている時計を見れば、時刻はすでに八時をまわっていた。
「もうこんな時間か。集中しているとあっという間だな」
「すごいね、龍。今月の週末課題として設定されているところ、もう全部終わってるんだ」
横から夏樹が俺の方を覗き込みながら驚いている。週末課題というのはその名の通り、週末にやって月曜日に提出を求められる課題のことで量としては遠回しに遊びに行くなと言われている気がするほどの量だ。
「ギリギリまでやらないで、追われるのは好きじゃないだけだよ」
あとは大体週末に梓に助けてくれと泣きつかれるせいでやる時間がなくなるという理由もあったが。ゆったりと教材を片付けながら、夏樹の方を見る。その手にはパンダのシャン君に加えて、茶色のクマが増えていた。ご丁寧にシルクのような布でできたドレスまで着ている。俺の休日の格好よりもすごい。
「チャッピーだよ」
俺の視線に気づいた夏樹がクマの名前を教えてくれる。正直全然興味ないから、別に教えてくれなくてもいいんだけどな……
「龍。ちょっと早いかもしれないけど、そろそろ梓ちゃんを起こしに行ったら? 昨日はギリギリアウトみたいだったから、今日は少し早めに起してあげた方がいいんじゃない?」
俺がのんびりしているのを見て、夏樹は心配になったらしい。だが、その必要は今日に限ってはないのだ。
「朝スマホを開いたら、梓からこんなメッセージが来てたから今日はそんなに急ぐつもりはないよ」
スマホの画面を操作して、夏樹にそのメッセージを見せる。夏樹はシャン君とチャッピーを両手に握りしめたまま、俺のスマホに顔を近づけた。
「なになに……『明日はヘンゼルとグレーテル作戦をやっちゃうから大丈夫! 起こさなくていいよ!』か。本当に起こさないつもり?」
「まさか」
梓の起こさなくて大丈夫なんて、怒らないから正直に言ってごらんぐらい信用してない。あれ言う人、だいたい正直に話すと結局怒るからな。
「というかヘンゼルとグレーテル作戦ってなんなの? 家から学校までの道にお菓子を並べるとか?」
「それを梓が順に拾い食いしながら学校に来たら俺は泣くぞ。ひとまずわけ分からないことをやって、何かやらかすのが目に見えてるから二十分前になっても教室にいなかったら起しに行くつもりだよ」
鍵束をくるくると指先で回しながら答える。別に梓のことを信用していないわけではないが、その言葉を百パーセント鵜呑みにしていいかどうかも分かっている。少なくとも三パーセントは信用しているつもりだ。
「もうこんな時間か。集中しているとあっという間だな」
「すごいね、龍。今月の週末課題として設定されているところ、もう全部終わってるんだ」
横から夏樹が俺の方を覗き込みながら驚いている。週末課題というのはその名の通り、週末にやって月曜日に提出を求められる課題のことで量としては遠回しに遊びに行くなと言われている気がするほどの量だ。
「ギリギリまでやらないで、追われるのは好きじゃないだけだよ」
あとは大体週末に梓に助けてくれと泣きつかれるせいでやる時間がなくなるという理由もあったが。ゆったりと教材を片付けながら、夏樹の方を見る。その手にはパンダのシャン君に加えて、茶色のクマが増えていた。ご丁寧にシルクのような布でできたドレスまで着ている。俺の休日の格好よりもすごい。
「チャッピーだよ」
俺の視線に気づいた夏樹がクマの名前を教えてくれる。正直全然興味ないから、別に教えてくれなくてもいいんだけどな……
「龍。ちょっと早いかもしれないけど、そろそろ梓ちゃんを起こしに行ったら? 昨日はギリギリアウトみたいだったから、今日は少し早めに起してあげた方がいいんじゃない?」
俺がのんびりしているのを見て、夏樹は心配になったらしい。だが、その必要は今日に限ってはないのだ。
「朝スマホを開いたら、梓からこんなメッセージが来てたから今日はそんなに急ぐつもりはないよ」
スマホの画面を操作して、夏樹にそのメッセージを見せる。夏樹はシャン君とチャッピーを両手に握りしめたまま、俺のスマホに顔を近づけた。
「なになに……『明日はヘンゼルとグレーテル作戦をやっちゃうから大丈夫! 起こさなくていいよ!』か。本当に起こさないつもり?」
「まさか」
梓の起こさなくて大丈夫なんて、怒らないから正直に言ってごらんぐらい信用してない。あれ言う人、だいたい正直に話すと結局怒るからな。
「というかヘンゼルとグレーテル作戦ってなんなの? 家から学校までの道にお菓子を並べるとか?」
「それを梓が順に拾い食いしながら学校に来たら俺は泣くぞ。ひとまずわけ分からないことをやって、何かやらかすのが目に見えてるから二十分前になっても教室にいなかったら起しに行くつもりだよ」
鍵束をくるくると指先で回しながら答える。別に梓のことを信用していないわけではないが、その言葉を百パーセント鵜呑みにしていいかどうかも分かっている。少なくとも三パーセントは信用しているつもりだ。
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