俺TUEEEEしたかった悪役令嬢

morimiyaco

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乙女ゲームってやった事ないのよ

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 ゲームは好きだったよ。ファンタジーが好きだったからDQやFFとか初代からずっとやってたし、って歳がバレるね。
 まあ、オープンワールドとかレイドとか、最新のRPGにはついていけてなかったけど。

 だから自分が、剣と魔法のファンタジーの世界に転生したのを知った時はなんて幸せなんだ、と小躍りした。
 前世では、仕事仕事で旅行もほとんど出来ずに死んだから今世では、ゲームのように世界を見てまわりたいと思って、レベルも上げたし魔法も剣も勉強も頑張った。
 



 それがさ、なんでよりによって『乙女ゲーム』の世界なのかな?
 私は色々な男性に愛想良くしたりするのや、逆ハーレムとかが生理的に苦手で、ゾワゾワきちゃう質で、一度もその手のゲームをやったことがなかったのよ。この、なんとかというゲームの事も知らなきゃ、自分の立ち位置とかも知らない。
 それをいきなり悪役令嬢とか言われてもね。

 先程から、『悪役令嬢の癖になんで虐めてこない』とか『婚約破棄されて処刑されろ』だとか、意味の分からない文句をつけてきているこの自称ヒロインは、この世界が自分中心で動いていると本気で信じているらしい。
 確かにゲームの世界線なのかも知れないけれど、現実世界なのかヴァーチャルなのかの区別もつかないのか。
 転生してきたのだから、この世界で少なくとも16年は生きてきたはずだろう。この世界はNPCじゃない。生きている相手が台本通りに進むと、なぜ思うのか。



 「アーシャどうしたの?中々来ないから」

 学園長室から出てきたのは、この国の王太子殿下で最上級生のラルフだ。
 今日の午後、二人揃って学園長から呼び出しを受けていた。だから授業が終わる頃を見計らって学園長室を訪ねていったら、待ち構えていたこの自称ヒロインに捕まったのだけれど。

 「ラルフ様」

 自称ヒロインが、名前呼びをすると、王太子殿下に駆け寄る。その変わり身の速さがいっそ清々しい。

 「君に名前呼びを許可した覚えはないけど」

 王太子殿下がきつい声で一刀両断する。

 「婚約者の前だからって気にしないでいいんですよぉ」
 「君とは親しくもないし、殆ど話したことも無い。勘違いさせるような事は言うな」
 「ラルフ様ったら照れちゃってぇ」
 「気持ち悪いこと言うな。お前は言葉が通じない猿か」

 あ、ついにラルフの言葉遣いが崩れた。これは相当怒ってるなぁ。
 それにしてもびっくりした。この二人が名前呼びする仲なのだとしたら、こちらも色々行動しなきゃいけないところだった。

 「アーシャ?」
 「そうそう酷いんですよ、アリシアさんったら私の事、平民上がりとか言って虐めてくるんです」

 なんというか…名前も知らないのだが、この自称ヒロインは平民上がりなんだね。だからこの無作法さなのか。
 思わずついた溜息に、ラルフの目の色が変わる。

 「……」
 「この女性に、先程絡まれましたの。名前も教えられていませんのでどちらの家のご令嬢かは分からないのですけれども、突然『婚約破棄されて処刑されろ』などと言わてしまって。ラルフは、こちらのご令嬢と知り合いなのかしら?」
 「酷いです!そんな事言っていません。アリシアさんはラルフ様に私の悪口を言って私を陥れるつもりなのね!」

 と自称ヒロインは被せるように叫んで泣き出した。
 なんだこの子。本当に言葉が通じない。

 「アリシア様に虐められたと言うが、いつ虐められたのかい?」

 王太子殿下の後ろから面白そうに学園長が顔を出した。学園長と言っても、継承権を放棄した現王弟殿下だ。

 「ルドルフ様」

 自称ヒロインが、泣き真似をしながらも王弟殿下の顔を見てロックインしたのが目に見えてわかった。
 あーあれか、学園長も攻略対象者ってやつなのか。

 「いつもです!授業の合間とかに呼び出されたり、教科書を破かれたり、本当に酷いんです」
 「学園内でかい?」
 「そうです」

 と言いながら、自称ヒロインはオヨヨと泣きながらジリジリと2人に距離を詰める。器用だな。
 ただ、寄った分だけ男性陣が離れていくのが笑えるんだけど

 「それはアリシア様には無理だな」
 「それはアーシャじゃないよ」

 2人にキッパリと宣言されて、自称ヒロインがムッとする。

 「なんでですか!虐めをするようなその人を信じるのですか?」


 なんでかって?当然じゃない。

 「私は飛び級で2年も前に、卒業しているからですよ」

 私は冒険者になって世界を飛び回りたかったから魔法も剣も一生懸命覚えたし、時間の無駄に思えた学校もさっさと飛び級した。

 「なっ。でも本当に!アリシアさんに意地悪されているんです!!」

 なぜ私が、意地悪をしなきゃいけないのか。
 嫉妬?馬鹿な。
 私は『王太子』などとは婚約したくなかったというのに。
 彼自身に問題がある訳じゃないけれど、世界中を自由に巡るには、王太子妃という立場は邪魔にしかならない。他に相応しい人がいると言われたら喜んで差し出したと思うわよ。

 「それに、私は昼間は王城で王妃教育を受けていますから学園に来たのは卒業してから今日が初めてになります。証人でしたら、大勢の王城の人達がなってくださると思いますわ」
 
 「王城に居ない日に来たじゃない!」

 自称ヒロインが金切り声をあげる。

 「それも無理だな」

 だんだんと王太子殿下の声がキツくなっていく。




 
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