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嵌められたのは私
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「あれ?姉上も殿下も何してるの」
義弟のスチュアートが、廊下の向こうからやってきた。
「スチュワート!」
すかさず呼び捨てで呼びかける自称ヒロイン。あまりに彼女の方が素早かったので、私が声をかける間もなかったわ。
ちなみにワじゃなくて、アだけどね。
その顔を見て、義弟がゲゲッと嫌そうな顔をする。
「この女が、アーシャが自分を虐めてるだなんだと妄言を吐いてるんだ」
「言葉の通じない令嬢でね」
ラルフと学園長が吐き捨てる。この女って…。これ、自称ヒロインさんが言うには乙女ゲームのはずだよね。
ここまで攻略対象者に嫌悪されているヒロインってどうなの?
「は?姉上が?有り得ないでしょ。ていうか君に名前呼びを許した覚えないんだけど」
スチュアートは自称ヒロインから庇うように私の前に出た。
「で、なにがあったの?」
「いきなり絡まれて『婚約破棄されて処刑されろ』って言われたのだけど。こちらの方と知り合いなの?スチュアート」
と、王太子殿下に伝えたように説明する。
「は?見目のいい男ばかりに擦り寄る有名なビッチ令嬢と知り合いなわけないよ。だいたいお前みたいなやつが、素晴らしい姉上の悪口を言うな!ふざけた事抜かすなよ」
「ビッチ令嬢…」
本名じゃないよね?すごい二つ名ね。
「え、スチュワートはアリシアさんに虐げられているはずでしょ!」
「姉上が僕を虐げるわけないだろ。そして名前で呼ぶな、何度言えば分かるんだ、阿婆擦れ」
その通りよ。
いつかは冒険者になって家を出ていこうとは決めていたものの、なんだかんだ言っても私は一人っ子だったから家のことは心配していて。そんな時にタイミング良く家に来てくれた大事な義弟なのよ。感謝こそすれ、なんで虐める必要があるのか。
スチュアートが来てくれて、どれだけ安心したことか。
そんな義弟を喜びこそすれ、邪険に扱うわけが無い。
「だいたい、アーシャは今は王城に住んでいる。王妃教育がなくても、侍女も護衛も王家の影も必ずついているし、常に人の目に晒されてる。お前が言うように、学園に来たという報告を受けたことは1度もない」
ラルフが追い討ちをかけるように言う。
確かにね、逃げないように常に誰かは見張っているわね。なんなら今だって、護衛と影付いてるわよ。
本来誰よりも強い自信があるから護衛なんかいらないんだけどね。ヒロインさんからは見えない位置に。
「ええー、なんなの。なんでみんながヒロインの私じゃなくて悪役令嬢の味方してるのよ。知らないとか言ってたくせにあんたがなにかしたんでしょ」
自称ヒロインがキイイと地団駄を踏む。
現実に地団駄って…ドン引きだわ。
それになにかと言われても、乙女ゲームだった事さえ知らなかったのだけど。そんな私に何が出来たというのかしら?
なんだか逆に自称ヒロインが哀れに思えてきた。元はとっても可愛らしい顔立ちなのにねえ、残念というか。
彼女の言う通りだとしたら、ラルフと自称ヒロインが恋愛をする世界線もあったのかもしれないのよね。
「そうねえ。私は別に、ラルフが別れたいなら別れたって…」
「別れるわけないだろ、何考えてるの」
小さく呟いたら、怒った声のラルフに後ろからひょいと抱き抱えられた。
あ、これはヤバイ。思った以上に激怒してる。
「そこのクソ女。なんで俺がお前の味方をしなきゃならないんだよ。俺はなあ、俺から逃げようとするこのアーシャを手に入れるために、何年も何年も追いかけたんだよ。この愛しいアーシャを捕まえるのにどれだけ苦労したのかわかるか」
でもだって、決められた人生が嫌だったし。一度しかない人生、次こそは悔いのない様にしたいじゃない。
縛りの多い王妃より、冒険者になって世界を旅したかったのよ。
「それに破棄など絶対にない。俺はアーシャを愛しているし、俺達は既に結婚して関係も持っているんだよ」
「え」
「彼女は婚約者ではなくて既に王太子妃だ」
学園長が、あっさりとバラす。
本来みんなへの公表はラルフの卒業と同時の予定だったのだけれどね。
「あ、妻です」
そうなのよ。
婚約さえもすっ飛ばして、もう夫になっているのよ。
結婚式はまだだけれども、
二度と逃がさないって、あの時の目は怖かったな。
ヤンデレなんて比じゃないよ。
ラルフの発言に、理解が追いつかないのか、自称ヒロインはキョロキョロ見渡す。
「そういう事だね、つまり君は、王族である王太子妃に向かって、嘘や暴言を吐いてたって事だよ。いやあ、人の話を聞かない風紀を乱す生徒がいるから、と王太子夫妻に相談しようと思ったんだけど、ちょうどよく問題を起こしてくれたおかげで君を退学に出来るよ。まあ、退学どころか行先は牢屋だけどね」
学園長がにこにこ顔で、自称ヒロインに告げる。
うわあ、さすが王族。笑顔で言うことがえげつない。
「王太子妃?」
自称ヒロインがラルフにお姫様抱っこされたままの私を呆然と見つめる。
「不本意ながら、王太子殿下に嵌められてしまったので」
ギャーギャー叫びながら、学園長の呼んだ憲兵に引っ立てられる自称ヒロイン(最後まで身分も名前も分からなかった)をラルフの腕の中から見送りながら、ここはRPGじゃなくて恋愛ゲームだったのね、と思っていた。
そうと知らずに、魔法もレベルもカンストしててごめん。
義弟のスチュアートが、廊下の向こうからやってきた。
「スチュワート!」
すかさず呼び捨てで呼びかける自称ヒロイン。あまりに彼女の方が素早かったので、私が声をかける間もなかったわ。
ちなみにワじゃなくて、アだけどね。
その顔を見て、義弟がゲゲッと嫌そうな顔をする。
「この女が、アーシャが自分を虐めてるだなんだと妄言を吐いてるんだ」
「言葉の通じない令嬢でね」
ラルフと学園長が吐き捨てる。この女って…。これ、自称ヒロインさんが言うには乙女ゲームのはずだよね。
ここまで攻略対象者に嫌悪されているヒロインってどうなの?
「は?姉上が?有り得ないでしょ。ていうか君に名前呼びを許した覚えないんだけど」
スチュアートは自称ヒロインから庇うように私の前に出た。
「で、なにがあったの?」
「いきなり絡まれて『婚約破棄されて処刑されろ』って言われたのだけど。こちらの方と知り合いなの?スチュアート」
と、王太子殿下に伝えたように説明する。
「は?見目のいい男ばかりに擦り寄る有名なビッチ令嬢と知り合いなわけないよ。だいたいお前みたいなやつが、素晴らしい姉上の悪口を言うな!ふざけた事抜かすなよ」
「ビッチ令嬢…」
本名じゃないよね?すごい二つ名ね。
「え、スチュワートはアリシアさんに虐げられているはずでしょ!」
「姉上が僕を虐げるわけないだろ。そして名前で呼ぶな、何度言えば分かるんだ、阿婆擦れ」
その通りよ。
いつかは冒険者になって家を出ていこうとは決めていたものの、なんだかんだ言っても私は一人っ子だったから家のことは心配していて。そんな時にタイミング良く家に来てくれた大事な義弟なのよ。感謝こそすれ、なんで虐める必要があるのか。
スチュアートが来てくれて、どれだけ安心したことか。
そんな義弟を喜びこそすれ、邪険に扱うわけが無い。
「だいたい、アーシャは今は王城に住んでいる。王妃教育がなくても、侍女も護衛も王家の影も必ずついているし、常に人の目に晒されてる。お前が言うように、学園に来たという報告を受けたことは1度もない」
ラルフが追い討ちをかけるように言う。
確かにね、逃げないように常に誰かは見張っているわね。なんなら今だって、護衛と影付いてるわよ。
本来誰よりも強い自信があるから護衛なんかいらないんだけどね。ヒロインさんからは見えない位置に。
「ええー、なんなの。なんでみんながヒロインの私じゃなくて悪役令嬢の味方してるのよ。知らないとか言ってたくせにあんたがなにかしたんでしょ」
自称ヒロインがキイイと地団駄を踏む。
現実に地団駄って…ドン引きだわ。
それになにかと言われても、乙女ゲームだった事さえ知らなかったのだけど。そんな私に何が出来たというのかしら?
なんだか逆に自称ヒロインが哀れに思えてきた。元はとっても可愛らしい顔立ちなのにねえ、残念というか。
彼女の言う通りだとしたら、ラルフと自称ヒロインが恋愛をする世界線もあったのかもしれないのよね。
「そうねえ。私は別に、ラルフが別れたいなら別れたって…」
「別れるわけないだろ、何考えてるの」
小さく呟いたら、怒った声のラルフに後ろからひょいと抱き抱えられた。
あ、これはヤバイ。思った以上に激怒してる。
「そこのクソ女。なんで俺がお前の味方をしなきゃならないんだよ。俺はなあ、俺から逃げようとするこのアーシャを手に入れるために、何年も何年も追いかけたんだよ。この愛しいアーシャを捕まえるのにどれだけ苦労したのかわかるか」
でもだって、決められた人生が嫌だったし。一度しかない人生、次こそは悔いのない様にしたいじゃない。
縛りの多い王妃より、冒険者になって世界を旅したかったのよ。
「それに破棄など絶対にない。俺はアーシャを愛しているし、俺達は既に結婚して関係も持っているんだよ」
「え」
「彼女は婚約者ではなくて既に王太子妃だ」
学園長が、あっさりとバラす。
本来みんなへの公表はラルフの卒業と同時の予定だったのだけれどね。
「あ、妻です」
そうなのよ。
婚約さえもすっ飛ばして、もう夫になっているのよ。
結婚式はまだだけれども、
二度と逃がさないって、あの時の目は怖かったな。
ヤンデレなんて比じゃないよ。
ラルフの発言に、理解が追いつかないのか、自称ヒロインはキョロキョロ見渡す。
「そういう事だね、つまり君は、王族である王太子妃に向かって、嘘や暴言を吐いてたって事だよ。いやあ、人の話を聞かない風紀を乱す生徒がいるから、と王太子夫妻に相談しようと思ったんだけど、ちょうどよく問題を起こしてくれたおかげで君を退学に出来るよ。まあ、退学どころか行先は牢屋だけどね」
学園長がにこにこ顔で、自称ヒロインに告げる。
うわあ、さすが王族。笑顔で言うことがえげつない。
「王太子妃?」
自称ヒロインがラルフにお姫様抱っこされたままの私を呆然と見つめる。
「不本意ながら、王太子殿下に嵌められてしまったので」
ギャーギャー叫びながら、学園長の呼んだ憲兵に引っ立てられる自称ヒロイン(最後まで身分も名前も分からなかった)をラルフの腕の中から見送りながら、ここはRPGじゃなくて恋愛ゲームだったのね、と思っていた。
そうと知らずに、魔法もレベルもカンストしててごめん。
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