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名を呼ばれる意味
評価の再確認が行われた翌日、学院の空気は微妙に変わっていた。
誰も大声では何も言わない。けれど、視線の向きが違う。
以前は、俺を測るように見ていた目が多かった。
今は――確認する目が増えている。
「……レオン」
廊下で、教師に呼び止められた。
実技担当の老魔法士だ。
「昨日の件だが」
一瞬、身構える。
「記録を見直した」
教師は淡々と言った。
「お前の制御は、学年上位だ」
その一言で、胸の奥がじんとした。
「派手さはない」
「だが、あれは“使える”魔法だ」
評価は、点数として修正された。
最低点だったものが、上位に近い位置へ。
ざまあ、というほどの爽快感はない。
でも――否定は、確実に覆った。
教室に戻ると、空気が一段、静かになる。
誰も何も言わない。
だが、席についた瞬間、前から声がした。
「……悪かった」
カイルだった。
金色の耳が、力なく垂れている。
「俺が、焦った」
「家に、叱られた」
自業自得だ。
でも、その言葉には、嘘はなかった。
「もう、やらない」
俺は少し考えてから、頷いた。
「分かった」
許したわけじゃない。
でも、引きずる理由もなかった。
それで、十分だった。
放課後、アルトが走ってきた。
「れおん!」
「きいた!」
「もどったって!」
語彙は相変わらず少ないのに、全部伝わる。
「うん」
「すごいな」
誇らしそうに言われて、少し照れる。
「すごくない」
「でも、えらい」
即答だった。
その言葉の方が、ずっと胸に残った。
その日の夕方、俺は再び呼び出された。
今度は、王子だ。
人気のない回廊で、彼は言った。
「公爵から、礼状が届いた」
「手続きが迅速だった、と」
政治的な言い回し。
でも、その裏にある意味は分かる。
――公爵家は、黙っていない。
「君は、守られている」
王子はそう言った。
「だが、それだけではない」
「君自身も、立っている」
それは、初めて“個人”として向けられた評価だった。
「覚えておけ」
「この国では、黙って耐える者ほど、都合よく使われる」
視線が鋭くなる。
「声を上げる資格は、すでにある」
その夜、公爵は俺を前に、珍しく長く話した。
「私は、お前を盾にするつもりはない」
静かな声。
「だが、刃を向けられれば、叩き折る」
「それが、家の役目だ」
俺は、はっきり頷いた。
「……ありがとう」
その言葉に、公爵は一瞬だけ目を細めた。
「感謝されることではない」
「誇れ」
その一言が、胸の奥に落ちた。
――誇り。
初めて、その言葉が自分の中に根を下ろした気がした。
俺は、人族だ。
でも、それだけじゃない。
名前がある。
立場がある。
守られ、同時に立っている。
学院の高い塔を見上げながら、思う。
この場所で、俺はちゃんと育っている。
ゆっくりでも。
確実に。
誰も大声では何も言わない。けれど、視線の向きが違う。
以前は、俺を測るように見ていた目が多かった。
今は――確認する目が増えている。
「……レオン」
廊下で、教師に呼び止められた。
実技担当の老魔法士だ。
「昨日の件だが」
一瞬、身構える。
「記録を見直した」
教師は淡々と言った。
「お前の制御は、学年上位だ」
その一言で、胸の奥がじんとした。
「派手さはない」
「だが、あれは“使える”魔法だ」
評価は、点数として修正された。
最低点だったものが、上位に近い位置へ。
ざまあ、というほどの爽快感はない。
でも――否定は、確実に覆った。
教室に戻ると、空気が一段、静かになる。
誰も何も言わない。
だが、席についた瞬間、前から声がした。
「……悪かった」
カイルだった。
金色の耳が、力なく垂れている。
「俺が、焦った」
「家に、叱られた」
自業自得だ。
でも、その言葉には、嘘はなかった。
「もう、やらない」
俺は少し考えてから、頷いた。
「分かった」
許したわけじゃない。
でも、引きずる理由もなかった。
それで、十分だった。
放課後、アルトが走ってきた。
「れおん!」
「きいた!」
「もどったって!」
語彙は相変わらず少ないのに、全部伝わる。
「うん」
「すごいな」
誇らしそうに言われて、少し照れる。
「すごくない」
「でも、えらい」
即答だった。
その言葉の方が、ずっと胸に残った。
その日の夕方、俺は再び呼び出された。
今度は、王子だ。
人気のない回廊で、彼は言った。
「公爵から、礼状が届いた」
「手続きが迅速だった、と」
政治的な言い回し。
でも、その裏にある意味は分かる。
――公爵家は、黙っていない。
「君は、守られている」
王子はそう言った。
「だが、それだけではない」
「君自身も、立っている」
それは、初めて“個人”として向けられた評価だった。
「覚えておけ」
「この国では、黙って耐える者ほど、都合よく使われる」
視線が鋭くなる。
「声を上げる資格は、すでにある」
その夜、公爵は俺を前に、珍しく長く話した。
「私は、お前を盾にするつもりはない」
静かな声。
「だが、刃を向けられれば、叩き折る」
「それが、家の役目だ」
俺は、はっきり頷いた。
「……ありがとう」
その言葉に、公爵は一瞬だけ目を細めた。
「感謝されることではない」
「誇れ」
その一言が、胸の奥に落ちた。
――誇り。
初めて、その言葉が自分の中に根を下ろした気がした。
俺は、人族だ。
でも、それだけじゃない。
名前がある。
立場がある。
守られ、同時に立っている。
学院の高い塔を見上げながら、思う。
この場所で、俺はちゃんと育っている。
ゆっくりでも。
確実に。
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