人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん

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静かな裁定

裁定は、怒号も、剣も、魔法も使われなかった。

だからこそ――
誰も、逃げられなかった。

老獅子の貴族が、円卓の中央に立つ。

「結界改修妨害の件」

「結論を、出す」

誰も、口を挟まない。

ヴァルドだけが、腕を組み、虚勢を張っていた。
「レオンの提示した記録は」

「捏造ではない」

「魔力の癖、流れ、残滓」

「複数の監査官が、確認した」

王都から派遣された監査官も、うなずく。

「事実です」

「改竄の痕跡は、ありません」

ヴァルドの尾が、ぴくりと動いた。

「だが!」

「命令書はない!」

「私は、何も指示していない!」

老獅子は、ゆっくりと視線を向ける。

「その通りだ」

一瞬、ヴァルドの目に希望が灯る。

「だから」

「罪に問われるのは」

「直接、手を下した者ではない」

「……なに?」

「“責任を管理すべき立場にいながら”」

「意図的に曖昧な指示を出し」

「失敗した場合、他者に責を負わせる構造を作った者だ」
静かすぎる言葉。

でも、重い。

「ヴァルド・ハイレイン」

名を呼ばれた瞬間。

場の空気が、完全に変わった。

「貴殿は」

「辺境結界管理権の一部を、即時剥奪」

「派閥の再編成を命じる」

「……そんな権限が!」

「ある」

即答。
「今、ここに」

ヴァルドは、言葉を失った。

「なお」

老獅子は、俺を見る。

「レオン」

「そなたの処遇だが」

俺は、背筋を伸ばす。

「妨害を受けながらも」

「結界は、完全に安定している」

「よって」

「失敗は、存在しない」
はっきりと。

「成功だ」

――落ちた。

完全に。

誰も、もう「人族だから」とは言えない。

裁定後。

ヴァルドは、誰とも目を合わせず、去っていった。

追撃は、ない。

それが、最大の屈辱だった。

会議室を出たあと。
アルトが、俺の隣に立つ。

「……終わったな」

「うん」

「でも」

「ここからだね」

アルトは、少しだけ笑った。

「伴侶として」

「一言、言っていいか」

「え?」

彼は、皆に聞こえる声で言った。

「レオンは」
「守られる存在じゃない」

「俺と並び」

「辺境を支える一人だ」

「これ以上」

「軽んじる者がいるなら」

「それは、グランフェルト家への侮辱と見なす」

静まり返る。

そして。

誰も、反論しなかった。

その夜。
部屋に戻ると、どっと疲れが出た。

「……つかれた」

俺がベッドに座ると、アルトが隣に来る。

「よくやった」

「本当に」

肩を抱かれる。

力は強いのに、扱いは優しい。

「ねえ、アルト」

「ん?」

「ぼく」
「ちゃんと、並べてる?」

アルトは、即答しなかった。

その代わり。

額に、そっと額を寄せる。

「……追い越されそうで」

「正直、焦ってる」

思わず、笑ってしまう。

「それなら」

「一緒に、歩こう」

「追い越さないし」

「置いていかない」
アルトの尾が、満足そうに揺れた。

この日。

辺境の権力図が、静かに変わった。

怒鳴らず。
血も流さず。

――ただ、理屈と結果で。
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