人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん

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未来の話をしよう

夜は、静かだった。

嵐のあとみたいに、
辺境の空気が澄んでいる。

灯りを落とした部屋で、俺は窓辺に座っていた。
外では、虫の声が一定のリズムで鳴いている。

「……考え事?」

アルトが、背後から声をかける。

「うん」

「難しいやつ?」

少し迷ってから、首を振った。

「難しくない」

「ただ」

「初めて考えたこと」

アルトは、隣に腰を下ろした。

距離は近いけど、触れない。
最近は、この“間”が心地いい。

「何を?」

俺は、窓の外を見たまま言う。

「……この先」

「何年か、経ったあと」

「ぼくたち、どうなってるのかなって」

アルトは、すぐに答えなかった。

急がせないところが、彼らしい。

「……辺境にいる」

「結界は、たぶん」

「まだ俺たちが見てる」

「忙しい」

「でも」

少し、声がやわらぐ。

「今より、余裕はある」

「……うん」

それから、少し間を置いて。

「……子ども、とか」

ぽつりと、言った。

一瞬。

完全な沈黙。

次の瞬間。

「……え」

アルトが、固まった。

耳も、尾も、完全に停止。

「ご、ごめん!」

「変な意味じゃなくて!」

「獣人社会だと、番になると普通だって聞いたし!」

「でも人族だし、魔法的に可能かどうかも――」

言葉が、暴走しかけたところで。

「……待て」

アルトが、俺の手を取る。

ぎゅっと。

「否定してない」

「……ほんと?」

「ほんと」

深く、息を吐く。

「ただ」

「心の準備が」

「一瞬、追いつかなかった」

耳が、じわじわ動き出す。

「……正直」

「考えたこと、ある」

今度は、俺が固まる番だった。

「え」

「番契約すると」

「未来の話は、避けられない」

「子を持つ番も、多い」

「人族との例は少ないけど」

「魔法的に、不可能じゃない」

「……」

胸が、あったかくなる。

「でも」

アルトは、俺を見る。

真剣で、優しい目。

「今すぐじゃない」

「レオンが」

「“選びたい”と思った時でいい」

「義務じゃない」

「責任でもない」

「……未来の選択肢の一つだ」

その言葉が、胸に沁みた。

「ありがとう」

「ぼく」

「怖かったんだ」

「話したら」

「重いって、思われるかと」

アルトは、小さく笑った。

「重い話を」

「一緒に考えられる相手を」

「番って、呼ぶんだ」

その夜。

同じベッドで、同じ毛布。

触れ合う距離だけど、静か。

「ねえ、アルト」

「ん?」

「ぼく」

「この世界に来て」

「ずっと、異物だった」

「でも」

少し、声が震える。

「今は」

「帰る場所が、ある」

アルトは、答えの代わりに、
俺の額に、そっと口づけた。

「帰ってこい」

「いつでも」

灯りを消す。

闇の中でも、
隣にいるのが、わかる。

この世界で。

この立場で。

この相手と。

――未来を考える夜は、
もう、怖くなかった。

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