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第一章 四葉のクローバー
町のボス
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それは、絶体絶命の窮地だった。
この町の裏社会を取り仕切るボスの目の前に連れてこられたジャンヌの後ろには、殴られて気を失った挙句縛り上げられたリゼットとエリクが横たわっていた。
その部屋はジャンヌの部屋とは正反対の散らかった部屋で、そこら中に金品が転がったりぶら下がったりしていた。二人の男に羽交い絞めされたジャンヌは、衣服をところどころ破られていた。もうこの格好ではみっともなくて町は歩けない。
「錬術とは、こういう時に役に立たないもんだな、なあ、ジャンヌよ」
ボスはそう言うと、ジャンヌの顎に手をやって、クイっと持ち上げた。ジャンヌはその手を振り払うと、歯をくいしばって耐えた。
「少なくとも、あんたのその汚い面見ているよりはマシよ。あたしはこの町を出るんだ。誰にも邪魔はさせない」
すると、ボスは大きな声で高笑いをした。
「馬鹿な小娘め! この町で今まで生きてこられたのは誰のおかげだと思っている? 両親を幼いころに亡くしたお前をここまで育ててやったのは誰だ?」
ジャンヌは、その言葉に臆することはなかった。この町の裏社会から足を洗う。そう誓った限りはどんな脅しにも屈することはできなかったからだ。
「私をここまで育ててくれたのは、この町だ! あんたがやってきたのは私の上前を撥ねることだけじゃないか。そんなやつに育てられた覚えはないよ」
ジャンヌがそう吐き捨てると、ボスは怒り心頭して立ち上がった。そして、ジャンヌを平手で一回、強く叩いた。
「言わせておけば、小娘! 口だけは達者になりやがって!」
ボスの平手は思いのほか強く、ジャンヌは羽交い絞めにされながらもよろけてしまった。頬は赤く腫れあがり、涙がその頬をすうっと伝った。
その時だった。
「口だけじゃないわ」
ジャンヌの後ろから、声がかかった。
リゼットの声だ。気が付いたのだ。
リゼットは、立ち上がってその両手をジャンヌのほうにかざした。縄はほどけていた。
「あんたが役に立たないって思っていた錬術も、使いようなのよ」
そう言って、片方の手をエリクのほうにかざした。すると、エリクを縛っていた縄がほどけて、消えてしまった。そして、もう一つかざした手の先では、ジャンヌの頬の腫れがすうっと消えていった。
「ジャンヌのことは、他の誰よりも私が知っているわ。この子はもう、あんたなんかには死んでも屈することはないでしょうね。それに、ジャンヌには約束があるもの。そうでしょ、エリク」
一同が見守る中、名前を呼ばれて、エリクが目を開けた。なぜか、ボコボコに殴られたのにエリクの体には傷一つない。それどころか、狸寝入りをしている余裕さえあった。
ボスの歯ぎしりが聞こえる。自分の思い通りにならなくなったとき、このボスは歯ぎしりをする癖があった。ギリギリという音があたりに満ちて、他の人間は恐怖に怯み始めていた。
そんな中、エリクは立ち上がって、ボスとジャンヌの間に割って入っていった。
「あの小僧、何やってんだ、死にたいのか?」
そんな声が聞こえる中、エリクは静かな声でボスにこう言った。
「ジャンヌを離してください。僕の大切な人なんです」
すると、ボスは再び怒り心頭して、拳を振り上げた。
「生意気なこと言うんじゃねえ、この小僧っ子が!」
すると、エリクの手のひらがボスの拳を軽く受け止めて、ボスをその大きな体ごと持ち上げて、地面にたたきつけてしまった。
「エリク?」
気絶したボスを見て、驚きを隠せないジャンヌが口をあんぐりと明けた。
「あんた、いったい?」
すると、エリクはその質問には答えずに、ジャンヌを羽交い絞めしている二人の男を見た。すると、その二人の男は、助けてくれ、と叫びながら他の男たちとともにどこかへ散っていってしまった。
「自分の怪力を隠しているなんて、見上げたものね」
リゼットがため息をつくと、エリクは、その場にへたり込んだジャンヌをひょいっと持ち上げた。
「これは怪力なのかな。僕は生まれつき、これくらいの力を持っているんだ」
「生まれつき? そんな細い体で? トレーニングもしないで?」
驚愕するジャンヌに、エリクは頷いた。
「ずっと母さんと一緒に牢の中にいたから」
エリクのその言葉に二人はただ驚くしかなかった。どうして体に傷一つないのだろう。どうしてあんな怪力が出たのだろう。
何もかもが謎のまま、三人は、ジャンヌの案内でボスのアジトを出ていった。
そして、予約していた宿にチェックインした。ジャンヌは命を狙われるのを恐れて自宅には帰らなかった。宿にチェックインするときにちょうどシングルルームが一つ空いていたので、ジャンヌとリゼットが一緒に泊まり、エリクは一人でシングルルームに泊まることになった。
エリクにとって、それは初めての宿だった。
この町の裏社会を取り仕切るボスの目の前に連れてこられたジャンヌの後ろには、殴られて気を失った挙句縛り上げられたリゼットとエリクが横たわっていた。
その部屋はジャンヌの部屋とは正反対の散らかった部屋で、そこら中に金品が転がったりぶら下がったりしていた。二人の男に羽交い絞めされたジャンヌは、衣服をところどころ破られていた。もうこの格好ではみっともなくて町は歩けない。
「錬術とは、こういう時に役に立たないもんだな、なあ、ジャンヌよ」
ボスはそう言うと、ジャンヌの顎に手をやって、クイっと持ち上げた。ジャンヌはその手を振り払うと、歯をくいしばって耐えた。
「少なくとも、あんたのその汚い面見ているよりはマシよ。あたしはこの町を出るんだ。誰にも邪魔はさせない」
すると、ボスは大きな声で高笑いをした。
「馬鹿な小娘め! この町で今まで生きてこられたのは誰のおかげだと思っている? 両親を幼いころに亡くしたお前をここまで育ててやったのは誰だ?」
ジャンヌは、その言葉に臆することはなかった。この町の裏社会から足を洗う。そう誓った限りはどんな脅しにも屈することはできなかったからだ。
「私をここまで育ててくれたのは、この町だ! あんたがやってきたのは私の上前を撥ねることだけじゃないか。そんなやつに育てられた覚えはないよ」
ジャンヌがそう吐き捨てると、ボスは怒り心頭して立ち上がった。そして、ジャンヌを平手で一回、強く叩いた。
「言わせておけば、小娘! 口だけは達者になりやがって!」
ボスの平手は思いのほか強く、ジャンヌは羽交い絞めにされながらもよろけてしまった。頬は赤く腫れあがり、涙がその頬をすうっと伝った。
その時だった。
「口だけじゃないわ」
ジャンヌの後ろから、声がかかった。
リゼットの声だ。気が付いたのだ。
リゼットは、立ち上がってその両手をジャンヌのほうにかざした。縄はほどけていた。
「あんたが役に立たないって思っていた錬術も、使いようなのよ」
そう言って、片方の手をエリクのほうにかざした。すると、エリクを縛っていた縄がほどけて、消えてしまった。そして、もう一つかざした手の先では、ジャンヌの頬の腫れがすうっと消えていった。
「ジャンヌのことは、他の誰よりも私が知っているわ。この子はもう、あんたなんかには死んでも屈することはないでしょうね。それに、ジャンヌには約束があるもの。そうでしょ、エリク」
一同が見守る中、名前を呼ばれて、エリクが目を開けた。なぜか、ボコボコに殴られたのにエリクの体には傷一つない。それどころか、狸寝入りをしている余裕さえあった。
ボスの歯ぎしりが聞こえる。自分の思い通りにならなくなったとき、このボスは歯ぎしりをする癖があった。ギリギリという音があたりに満ちて、他の人間は恐怖に怯み始めていた。
そんな中、エリクは立ち上がって、ボスとジャンヌの間に割って入っていった。
「あの小僧、何やってんだ、死にたいのか?」
そんな声が聞こえる中、エリクは静かな声でボスにこう言った。
「ジャンヌを離してください。僕の大切な人なんです」
すると、ボスは再び怒り心頭して、拳を振り上げた。
「生意気なこと言うんじゃねえ、この小僧っ子が!」
すると、エリクの手のひらがボスの拳を軽く受け止めて、ボスをその大きな体ごと持ち上げて、地面にたたきつけてしまった。
「エリク?」
気絶したボスを見て、驚きを隠せないジャンヌが口をあんぐりと明けた。
「あんた、いったい?」
すると、エリクはその質問には答えずに、ジャンヌを羽交い絞めしている二人の男を見た。すると、その二人の男は、助けてくれ、と叫びながら他の男たちとともにどこかへ散っていってしまった。
「自分の怪力を隠しているなんて、見上げたものね」
リゼットがため息をつくと、エリクは、その場にへたり込んだジャンヌをひょいっと持ち上げた。
「これは怪力なのかな。僕は生まれつき、これくらいの力を持っているんだ」
「生まれつき? そんな細い体で? トレーニングもしないで?」
驚愕するジャンヌに、エリクは頷いた。
「ずっと母さんと一緒に牢の中にいたから」
エリクのその言葉に二人はただ驚くしかなかった。どうして体に傷一つないのだろう。どうしてあんな怪力が出たのだろう。
何もかもが謎のまま、三人は、ジャンヌの案内でボスのアジトを出ていった。
そして、予約していた宿にチェックインした。ジャンヌは命を狙われるのを恐れて自宅には帰らなかった。宿にチェックインするときにちょうどシングルルームが一つ空いていたので、ジャンヌとリゼットが一緒に泊まり、エリクは一人でシングルルームに泊まることになった。
エリクにとって、それは初めての宿だった。
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