真珠を噛む竜

るりさん

文字の大きさ
4 / 147
第一章 四葉のクローバー

南への準備

しおりを挟む
 次の日、エリクはジャンヌとリゼットに合流して、宿で朝食を済ませると、早めにチェックアウトをして宿を出た。それぞれ自分の荷物を確認すると、きちんと全部そろっていた。
 エリクはリゼットに言われて短剣を一振り買っていたが、すでに怪力があるということが分かったので、必要ないと思った。しかし、そうでもなかった。
「でもねエリク、いくら力が強くても、それをうまく使えなきゃ意味がないのよ。どこかで体術を学んだほうがいいわね。それまではナイフを使ってごまかすしかないわ」
 リゼットがそう言ったので、エリクは自分の手のひらを見て黙ってしまった。短剣はまだ使いようがある。そう思った。
「まあ、短剣にも使い方があるんだけど、それくらいなら短剣と鞭をどっちも使えるジャンヌに教わればいいわ」
 エリクは、リゼットの言葉にうんうんと頷き、それに従うことに決めた。彼女の言うことはもっともだったからだ。それに、三人で旅に出ると決めて、ボスを倒したあの時から、何故かリゼットとジャンヌの喧嘩はおさまっていた。
「ジャンヌ、短剣の使い方を教えてくれるかい?」
 エリクが問いかけると、ジャンヌはまんざらでもない様子だった。
「あんたからの頼みなら、聞かないわけにはいかないかな。いいよ。でも、私の教え方は実戦形式だから、この城下町を出た草原でトレーニングすることになるけど」
「草原?」
 エリクが瞳を輝かせて聞いてきたので、リゼットとジャンヌは少し引いた。しかし、今まで一度も牢屋から出たことのなかったエリクが、初めて見る草原に惹かれるのは無理もない、そう思うとなんだか同情の念が湧いてきた。
「草原にはウサギやキツネがいるから、夕食のための狩をするために一度ナイフを使い、それをさばいて食べやすくするためにもう一度使うの。森に入ったら熊もいるでしょ、熊との格闘は人間より過酷だから、ナイフを使えるようになるにはちょうどいい。ウサギやキツネでナイフの握り方や使い方を覚える。熊で戦い方を覚える。そんなもんかしら。ちなみに、ウサギやキツネも、熊も、皆毛皮や肉がお金になるから、売って旅費にするのを忘れちゃだめだよ」
 ジャンヌが話し終えてふと目をやると、エリクはメモ帳を出してメモを取っていた。これは本格的に天然男だ。そう思って、ジャンヌはリゼットと目を見合わせた。
「まあいいわ。とにかく早いとこ町を出て南の草原に行きましょう。エリクの言う峡谷の町はおそらく、少し南に行った谷のことでしょうから、そこにたどり着くにはひたすら南に進めばいいわ。多少回り道や寄り道もあるでしょうけどね」
 こうして、リゼットの言葉に従い、三人は町の南門の先にある草原を目指すことになった。エリクは、草原というものも森というものもまだ見たことがない。まずは、それを自分の目で確かめるのが楽しみだった。
 三人は、一時間かけて城下町を南へ進んで、南門へ着いた。この町には、入るときに許可はいるが、出るときに許可はいらない。もう、この町に帰ってくることはないだろう。そう思って、ふと、エリクは城壁の中の城を見た。ここからでも十分に大きく見える。あそこの地下に、母はまだ閉じ込められている。いつか母の無実を晴らし、再びここに帰ってきて母を解放する。エリクはそう、心の中で誓った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

婚約破棄された悪役令嬢、手切れ金でもらった不毛の領地を【神の恵み(現代農業知識)】で満たしたら、塩対応だった氷の騎士様が離してくれません

夏見ナイ
恋愛
公爵令嬢アリシアは、王太子から婚約破棄された瞬間、歓喜に打ち震えた。これで退屈な悪役令嬢の役目から解放される! 前世が日本の農学徒だった彼女は、慰謝料として誰もが嫌がる不毛の辺境領地を要求し、念願の農業スローライフをスタートさせる。 土壌改良、品種改良、魔法と知識を融合させた革新的な農法で、荒れ地は次々と黄金の穀倉地帯へ。 当初アリシアを厄介者扱いしていた「氷の騎士」カイ辺境伯も、彼女の作る絶品料理に胃袋を掴まれ、不器用ながらも彼女に惹かれていく。 一方、彼女を追放した王都は深刻な食糧危機に陥り……。 これは、捨てられた令嬢が農業チートで幸せを掴む、甘くて美味しい逆転ざまぁ&領地経営ラブストーリー!

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方

綾雅(りょうが)今年は7冊!
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?! 異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。 #日常系、ほのぼの、ハッピーエンド 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/08/13……完結 2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位 2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位 2024/07/01……連載開始

【完結】私は聖女の代用品だったらしい

雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。 元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。 絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。 「俺のものになれ」 突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。 だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも? 捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。 ・完結まで予約投稿済みです。 ・1日3回更新(7時・12時・18時)

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...