67 / 147
第十章 月下美人
南に険しい山脈が
しおりを挟む
イェリンは、ナリアの話が終わったあと、寂しそうに笑いながら、エリクを見た。
「エリクさん、この月下美人をどう思いますか?」
その質問に、エリクはしばらく考え込んだ。横で、リゼットが口を尖らせている。
「聞いているのはナリア様のほうなのに」
その声が聞こえたのか、ジャンヌがリゼットの足をつねった。
「何するのよジャンヌ!」
リゼットがいきなり大きな声を出すものだから、周りの皆は彼女のほうを注目した。リゼットは咳払いを一回すると、ジャンヌのほうを睨んだ。
「ナリアさんが何も言ってこないってことは、何か考えがあるんだよ。私は、私を変えてくれたナリアさんを信じる」
そう言って、何かをずっと考えこんでいるエリクを見た。イェリンはおそらくエリクに何かを求めている。もしかして、ジャンヌたちがエリクに対して感じている何らかの違和感の正体を彼女も探っているのかもしれない。
そんなことを考えていると、エリクが考えるのをやめて、答えた。
「イェリンさん、その花は元あった場所に戻したほうがいいよ。その月下美人さんは、きっとこの土地のものじゃないと思う」
すると、イェリンはびっくりしてエリクを見た。目を丸くしている。
「どうして分かったの? この月下美人はこの南にある険しい山脈を超えた先にある国で育てられたものなの」
「南に険しい山脈が?」
少し警戒したような声で、クロヴィスがイェリンに聞いた。イェリンは頷くだけだった。このナリアと言う星には特定の名前が付けられている場所が少ない。どこの南にある山とか、どのあたりの海に注いでいる川だとか、そういう言い方をする。今クロヴィスたちがいる国も、最近民主化した国としか言われていない。
そんな中、皆の注目はアースに集まった。皆の様子を見ながら何か考え事をしていたが、自分に視線が向けられると知って、少し焦った声を出した。
「なんだ?」
すると、ナリアがくすくすと笑った。
「アース、地球にある土地や地形には必ずと言っていいほど名前が付いているではありませんか。今いる場所から私たちが南に進むと、なんという山脈に行きつくのか、あなたならご存じのはずです」
すると、アースは皆を見渡して、それからイェリンを見た。彼女は瞳を伏せて、アースから目を逸らした。
「それは何かを知っているといった顔だな。まあいい。この先の山脈は、アルプス山脈だ。険しいうえに寒い。越えていくにはそれなりの装備が必要だ」
「それじゃあ、その寒冷地対策にお金がかかっちゃうじゃない」
リゼットが悲鳴のような声を上げた。
「この星が猛毒に侵されて、ひどい冬に苛まれたって話、それだけでも頭がいっぱいなのに、また資金繰りで頭がいっぱいになっちゃうじゃない! ナリア様の話は大体呑み込めたけど次はアルプスって山脈でしょ? もう、どうしたらいいの?」
「今までため込んだ毛皮を使うしかないでしょうね」
ジャンヌがふと、そう言ってナリアの幌馬車に預けている荷物を見た。毛皮はたくさんたまっている。これが売れないのなら、毛皮を使って防寒着を作るしかない。
「アースさん、幌馬車はアルプス山脈を越えられるでしょうか?」
セリーヌが、ふと、気になったことを口にしてみた。ナリアが不安そうな顔をしている。アースは、こう答えた。
「幌馬車では越えられない」
「エリクさん、この月下美人をどう思いますか?」
その質問に、エリクはしばらく考え込んだ。横で、リゼットが口を尖らせている。
「聞いているのはナリア様のほうなのに」
その声が聞こえたのか、ジャンヌがリゼットの足をつねった。
「何するのよジャンヌ!」
リゼットがいきなり大きな声を出すものだから、周りの皆は彼女のほうを注目した。リゼットは咳払いを一回すると、ジャンヌのほうを睨んだ。
「ナリアさんが何も言ってこないってことは、何か考えがあるんだよ。私は、私を変えてくれたナリアさんを信じる」
そう言って、何かをずっと考えこんでいるエリクを見た。イェリンはおそらくエリクに何かを求めている。もしかして、ジャンヌたちがエリクに対して感じている何らかの違和感の正体を彼女も探っているのかもしれない。
そんなことを考えていると、エリクが考えるのをやめて、答えた。
「イェリンさん、その花は元あった場所に戻したほうがいいよ。その月下美人さんは、きっとこの土地のものじゃないと思う」
すると、イェリンはびっくりしてエリクを見た。目を丸くしている。
「どうして分かったの? この月下美人はこの南にある険しい山脈を超えた先にある国で育てられたものなの」
「南に険しい山脈が?」
少し警戒したような声で、クロヴィスがイェリンに聞いた。イェリンは頷くだけだった。このナリアと言う星には特定の名前が付けられている場所が少ない。どこの南にある山とか、どのあたりの海に注いでいる川だとか、そういう言い方をする。今クロヴィスたちがいる国も、最近民主化した国としか言われていない。
そんな中、皆の注目はアースに集まった。皆の様子を見ながら何か考え事をしていたが、自分に視線が向けられると知って、少し焦った声を出した。
「なんだ?」
すると、ナリアがくすくすと笑った。
「アース、地球にある土地や地形には必ずと言っていいほど名前が付いているではありませんか。今いる場所から私たちが南に進むと、なんという山脈に行きつくのか、あなたならご存じのはずです」
すると、アースは皆を見渡して、それからイェリンを見た。彼女は瞳を伏せて、アースから目を逸らした。
「それは何かを知っているといった顔だな。まあいい。この先の山脈は、アルプス山脈だ。険しいうえに寒い。越えていくにはそれなりの装備が必要だ」
「それじゃあ、その寒冷地対策にお金がかかっちゃうじゃない」
リゼットが悲鳴のような声を上げた。
「この星が猛毒に侵されて、ひどい冬に苛まれたって話、それだけでも頭がいっぱいなのに、また資金繰りで頭がいっぱいになっちゃうじゃない! ナリア様の話は大体呑み込めたけど次はアルプスって山脈でしょ? もう、どうしたらいいの?」
「今までため込んだ毛皮を使うしかないでしょうね」
ジャンヌがふと、そう言ってナリアの幌馬車に預けている荷物を見た。毛皮はたくさんたまっている。これが売れないのなら、毛皮を使って防寒着を作るしかない。
「アースさん、幌馬車はアルプス山脈を越えられるでしょうか?」
セリーヌが、ふと、気になったことを口にしてみた。ナリアが不安そうな顔をしている。アースは、こう答えた。
「幌馬車では越えられない」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
僕の前世は日本人で25歳の営業マン。社畜のように働き、過労死。目が覚めれば妹が大好きだった少女漫画のヒロインを苦しめる悪役令息アドルフ・ヴァレンシュタインとして転生していた。しかも彼はヒロインの婚約者で、最終的にメインヒーローによって国を追放されてしまう運命。そこで僕は運命を回避する為に近い将来彼女に婚約解消を告げ、ヒロインとヒーローの仲を取り持つことに決めた――。
※他サイトでも投稿中
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方
綾雅(りょうが)今年は7冊!
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?!
異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。
#日常系、ほのぼの、ハッピーエンド
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/08/13……完結
2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位
2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位
2024/07/01……連載開始
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
【完結】私は聖女の代用品だったらしい
雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。
元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。
絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。
「俺のものになれ」
突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。
だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも?
捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。
・完結まで予約投稿済みです。
・1日3回更新(7時・12時・18時)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる