真珠を噛む竜

るりさん

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第十章 月下美人

南に険しい山脈が

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 イェリンは、ナリアの話が終わったあと、寂しそうに笑いながら、エリクを見た。
「エリクさん、この月下美人をどう思いますか?」
 その質問に、エリクはしばらく考え込んだ。横で、リゼットが口を尖らせている。
「聞いているのはナリア様のほうなのに」
 その声が聞こえたのか、ジャンヌがリゼットの足をつねった。
「何するのよジャンヌ!」
 リゼットがいきなり大きな声を出すものだから、周りの皆は彼女のほうを注目した。リゼットは咳払いを一回すると、ジャンヌのほうを睨んだ。
「ナリアさんが何も言ってこないってことは、何か考えがあるんだよ。私は、私を変えてくれたナリアさんを信じる」
 そう言って、何かをずっと考えこんでいるエリクを見た。イェリンはおそらくエリクに何かを求めている。もしかして、ジャンヌたちがエリクに対して感じている何らかの違和感の正体を彼女も探っているのかもしれない。
 そんなことを考えていると、エリクが考えるのをやめて、答えた。
「イェリンさん、その花は元あった場所に戻したほうがいいよ。その月下美人さんは、きっとこの土地のものじゃないと思う」
 すると、イェリンはびっくりしてエリクを見た。目を丸くしている。
「どうして分かったの? この月下美人はこの南にある険しい山脈を超えた先にある国で育てられたものなの」
「南に険しい山脈が?」
 少し警戒したような声で、クロヴィスがイェリンに聞いた。イェリンは頷くだけだった。このナリアと言う星には特定の名前が付けられている場所が少ない。どこの南にある山とか、どのあたりの海に注いでいる川だとか、そういう言い方をする。今クロヴィスたちがいる国も、最近民主化した国としか言われていない。
 そんな中、皆の注目はアースに集まった。皆の様子を見ながら何か考え事をしていたが、自分に視線が向けられると知って、少し焦った声を出した。
「なんだ?」
 すると、ナリアがくすくすと笑った。
「アース、地球にある土地や地形には必ずと言っていいほど名前が付いているではありませんか。今いる場所から私たちが南に進むと、なんという山脈に行きつくのか、あなたならご存じのはずです」
 すると、アースは皆を見渡して、それからイェリンを見た。彼女は瞳を伏せて、アースから目を逸らした。
「それは何かを知っているといった顔だな。まあいい。この先の山脈は、アルプス山脈だ。険しいうえに寒い。越えていくにはそれなりの装備が必要だ」
「それじゃあ、その寒冷地対策にお金がかかっちゃうじゃない」
 リゼットが悲鳴のような声を上げた。
「この星が猛毒に侵されて、ひどい冬に苛まれたって話、それだけでも頭がいっぱいなのに、また資金繰りで頭がいっぱいになっちゃうじゃない! ナリア様の話は大体呑み込めたけど次はアルプスって山脈でしょ? もう、どうしたらいいの?」
「今までため込んだ毛皮を使うしかないでしょうね」
 ジャンヌがふと、そう言ってナリアの幌馬車に預けている荷物を見た。毛皮はたくさんたまっている。これが売れないのなら、毛皮を使って防寒着を作るしかない。
「アースさん、幌馬車はアルプス山脈を越えられるでしょうか?」
 セリーヌが、ふと、気になったことを口にしてみた。ナリアが不安そうな顔をしている。アースは、こう答えた。
「幌馬車では越えられない」
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