真珠を噛む竜

るりさん

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第十章 月下美人

朝ごはんを作ろう

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 エリクの放った一言で、一瞬、皆は喧嘩をやめた。
 そして、朝ご飯の準備をするエリクの様子を見て、顔を赤らめた。
「皆の中で一番冷静で良い判断をするのは自分、皆一人一人がそう思っていたから、今回みたいになっちゃったんだよ」
 かまどになっている焚火に火をつけながら、エリクは笑ってそう言った。
「でもさ、よく考えてみると、冷静で正しくていい判断ができる人間なんて、そうはいないと思うよ。星の人は別として」
 すると、少し遠くで見ていた星の人二人は、ぶんぶんと首を横に振った。
「ないない」
「わたくしたちも間違うことはたくさんありますよ」
 それを聞いて、エリクは笑った。
「徹夜をしていて、おなかも空いていたからみんなイライラするよね。そこに火種があったから、より大きな火になっちゃったんだ」
 エリクは、かまどに起こった火の上に鍋を置き、ナリアからもらった玉ねぎを切って炒めた。鍋に熱が伝わり切ったころになると玉ねぎはあめ色になっていて、そこにエリクが水を入れると、琥珀色のスープが出来上がった。その手つきがぎこちないので、つい、皆の中からクロヴィスがやってきてエリクの手伝いをしだした。
「水の量はこれくらいでいいが、玉ねぎはもっと薄く切ったほうがいい。ここに入れる調味料は分かるな?」
 エリクは、頷いた。
「クロヴィスのをいつも見ているからね。セリーヌさんの荷物の中にあるよね」
 クロヴィスは、頷いた。するとエリクはセリーヌの荷物の中から塩と複合調味料を取り出した。
「これ、鹿肉からとった出汁を固形にしたんだよね。リゼットがやってくれたんだ」
 エリクがそう言うと、リゼットは赤い顔をして胸を張った。
「まあね。やっぱり私がいなきゃだめでしょ?」
「うん」
 エリクがそう言って笑うので、リゼットは嬉しくなってきて、皆の中に混ざり始めた。するとまたエリクが誰かを呼んだ。セリーヌだ。
「ねえセリーヌ、このスープの出来は良いかな? セリーヌは舌がいいから分かると思うんだ」
 セリーヌは少し戸惑ってエリクのもとに行くと、おそるおそるスープを口にしてみた。すると、神妙な顔をしてスープを飲み込んだ。
「塩気が足りないわ。あと、この人数分のスープだから、もう一つは鹿肉の出汁を入れたほうがいいと思う」
 そう言って、味見をするための皿をエリクに戻した。エリクはもう一度、セリーヌの荷物の中から固形スープを出そうとした。しかし、うまく見つからない。エリクは、何とか見つけようとセリーヌの荷物の中に手を突っ込むがうまくできなかった。それを見ていたジャンヌがため息をついてエリクのもとへ行き、セリーヌの荷物の中からあっさりと固形スープを取り出した。
「あんまり荷物の中を荒らすと、セリーヌが困るでしょ」
 そう言って、固形スープをエリクに渡した。エリクは嬉しそうに笑って、ジャンヌが皆の中に入ってくるのを眺めていた。
 こうして、徹夜の後の美味しい朝食が始まった。怯えていたイェリンも中に入って、楽しい食事を共にした。
 そして皆は、その日の昼前から、近くの森で薬草を探すことにした。


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