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第十二章 白いオリーブ
白い丘の地球人
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白い丘に登る。
その目標は、すぐに達成できそうだった。先程の男性のおかげか、毛糸で作ったものがどんどん売れてなくなってしまったからだ。午前中も早いうちから店じまいをして、キャンプを畳んだ一行は、その荷物を持って白い丘に向かう道に出た。
丘のふもとには昼頃着いた。地元の人間にあらかじめ道を聞いておいたから、迷うことがなかった。丘のふもとに着くと、一行はそこでお昼ご飯をとることにした。
「養鶏農家は、きっとこの近くよね」
朝食の時に用意しておいたランチを食べながら、皆でこれからの話を始めた。そのうち、リゼットが一番興味を持っていた。
「その農家さんって、どういう鶏料理を作るのかしら? さっきアース様がおっしゃっていた中華料理って言うのもあるのかしらね? 楽しみだわ」
リゼットが目を輝かせている横で、アースが頭を抱えた。
「呼び捨てでいいと言ったはずだ」
そのセリフを聞いたクロヴィスが、アースの肩に手を置いて首を横に振る。
「無理を言うなって。リゼットからしてもあんたはやっぱり星の人なんだ。ナリアさんと同列なんだからああなって当然なんだよ。セリーヌやジャンヌにしてもそうだ」
「そうよ」
ジャンヌが、クロヴィスを後押しする。
「尊敬に値する人を敬わないで、どうしろっての? それに、アースさんもナリアさんも、もうちょっと自覚を持ったほうがいいですよ。偉そうにしろとは言いませんけど」
ジャンヌがそう言って胸を張ると、先程のリゼットが鼻息を荒くして、口に食べ物を含んだまま急いでこう言った。
「えらほうにひへいへもひひんへふよ。ははひはひはふおえふあいひへほはっはほうはははひひゃひゅいへふ」
皆が、黙ってしまった。リゼットが何を言っているのか分からなかったからだ。そんな中、少し考えていたジャンヌがぶつぶつと何かを言い、一回、手をポンと叩いた。
「偉そうにしていてもいいんですよ。私たちはそれくらいしてもらったほうが分かりやすいです」
ジャンヌが、皆を見て言うと、リゼットが不機嫌そうに食べ物を飲み込んだ。
「あんたみたいなコソ泥に訳されるなんてね。私もヤキが回ったものだわ」
「確かにヤキが回ったみたいね。あたしはもうコソ泥なんかじゃないよ、今じゃ立派な」
ジャンヌは、そこまで言って言葉を呑みこんだ。
「今じゃ立派な、やっぱコソ泥ね」
リゼットがそう言って、意地悪そうに笑った。ジャンヌがそんなリゼットに食って掛かる。二人はそのまま口喧嘩を始めようとした。しかし、それをナリアが止めた。
「静かに。誰か来ます」
すると、今まで寂しそうに皆を眺めていたエステルが、自分の身体を自分で抱くようにして震え始めた。
「無理もないか」
アースが、エステルのそばに行って、彼女の手を体から離して、その手を握りしめた。
「怖くない」
そう言って安心させる。そんな姿を見て、誰もが星の人の威力を知った。エステルが落ち着きを取り戻したからだ。
「地球人ですね。どこからやってきたのでしょう」
こちらへ来る気配をたどりながら、ナリアがゼンテイカ一家とセベルたちを見る。彼らはさっさと、広がっていたランチの後を片付けると、あたりを警戒しだした。
しばらくすると、リゼットやエリクたちにも分かるほどに、誰かが来る気配がはっきりしてきた。そのまま警戒していると、オリーブの木の下に茂る茂みの中から、一羽の茶色い鶏が、勢いよく飛び出してきた。
「鶏!」
驚いて声を上げたのは、エリクだった。
「茶色い鶏だ!」
エリクはそれを見て嬉しくなって飛び上がった。生まれて初めて見た鶏は、ダルトアの所にいる、白い鶏だったからだ。
しかし喜びもつかの間、飛び出してきた鶏はそこら中を暴れまわって手に負えなくなってしまった。みんながそれにあたふたして、二人の星の人が何かを探るようにあたりを見回していると、突然、茂みの奥から誰かが現れた。
その人は、茶色い鶏を両手でひょいと取り上げた。すると鶏はおとなしくなって、地面に降ろされるとその辺を歩き始めた。
「僕の友人が、驚かせてしまったようだね。すまない」
そう言って笑ったのは、黒い髪の青年だった。顔立ちは、どこにでもいる青年だったが、どこか計り知れない深みのある笑みを湛えている。少しだけ日に焼けていて、その褐色の肌は、まるで先程彼が抱いていた鶏の色のようだった。
彼は、自分が名乗る前に、一度、アースを見た。そして、片手で頭をさすると、困ったような顔をした。
「あの、帰れって言っても帰りませんからね」
「誰がいつそんなことを言った?」
アースは、そう言うとため息をついた。
「俺たちはまだ会ったばかりだ。事情を話してもらおう」
「返答次第では、強制送還ですか?」
青年が屈託のない顔で返してくるので、アースは呆れ顔でこう返した。
「だから、誰がそう言ったんだ? 勝手に決めつけるんじゃない。事情を話せ。場合によっては、ここにいる人間たちが力になれるだろう」
すると、青年の顔が一気に明るくなった。
「分かりました。では事情をお話しします。よろしかったら僕の家へおいでください。ちょうど、たくさんの白湯スープを作ってしまって困っていたところですから」
その目標は、すぐに達成できそうだった。先程の男性のおかげか、毛糸で作ったものがどんどん売れてなくなってしまったからだ。午前中も早いうちから店じまいをして、キャンプを畳んだ一行は、その荷物を持って白い丘に向かう道に出た。
丘のふもとには昼頃着いた。地元の人間にあらかじめ道を聞いておいたから、迷うことがなかった。丘のふもとに着くと、一行はそこでお昼ご飯をとることにした。
「養鶏農家は、きっとこの近くよね」
朝食の時に用意しておいたランチを食べながら、皆でこれからの話を始めた。そのうち、リゼットが一番興味を持っていた。
「その農家さんって、どういう鶏料理を作るのかしら? さっきアース様がおっしゃっていた中華料理って言うのもあるのかしらね? 楽しみだわ」
リゼットが目を輝かせている横で、アースが頭を抱えた。
「呼び捨てでいいと言ったはずだ」
そのセリフを聞いたクロヴィスが、アースの肩に手を置いて首を横に振る。
「無理を言うなって。リゼットからしてもあんたはやっぱり星の人なんだ。ナリアさんと同列なんだからああなって当然なんだよ。セリーヌやジャンヌにしてもそうだ」
「そうよ」
ジャンヌが、クロヴィスを後押しする。
「尊敬に値する人を敬わないで、どうしろっての? それに、アースさんもナリアさんも、もうちょっと自覚を持ったほうがいいですよ。偉そうにしろとは言いませんけど」
ジャンヌがそう言って胸を張ると、先程のリゼットが鼻息を荒くして、口に食べ物を含んだまま急いでこう言った。
「えらほうにひへいへもひひんへふよ。ははひはひはふおえふあいひへほはっはほうはははひひゃひゅいへふ」
皆が、黙ってしまった。リゼットが何を言っているのか分からなかったからだ。そんな中、少し考えていたジャンヌがぶつぶつと何かを言い、一回、手をポンと叩いた。
「偉そうにしていてもいいんですよ。私たちはそれくらいしてもらったほうが分かりやすいです」
ジャンヌが、皆を見て言うと、リゼットが不機嫌そうに食べ物を飲み込んだ。
「あんたみたいなコソ泥に訳されるなんてね。私もヤキが回ったものだわ」
「確かにヤキが回ったみたいね。あたしはもうコソ泥なんかじゃないよ、今じゃ立派な」
ジャンヌは、そこまで言って言葉を呑みこんだ。
「今じゃ立派な、やっぱコソ泥ね」
リゼットがそう言って、意地悪そうに笑った。ジャンヌがそんなリゼットに食って掛かる。二人はそのまま口喧嘩を始めようとした。しかし、それをナリアが止めた。
「静かに。誰か来ます」
すると、今まで寂しそうに皆を眺めていたエステルが、自分の身体を自分で抱くようにして震え始めた。
「無理もないか」
アースが、エステルのそばに行って、彼女の手を体から離して、その手を握りしめた。
「怖くない」
そう言って安心させる。そんな姿を見て、誰もが星の人の威力を知った。エステルが落ち着きを取り戻したからだ。
「地球人ですね。どこからやってきたのでしょう」
こちらへ来る気配をたどりながら、ナリアがゼンテイカ一家とセベルたちを見る。彼らはさっさと、広がっていたランチの後を片付けると、あたりを警戒しだした。
しばらくすると、リゼットやエリクたちにも分かるほどに、誰かが来る気配がはっきりしてきた。そのまま警戒していると、オリーブの木の下に茂る茂みの中から、一羽の茶色い鶏が、勢いよく飛び出してきた。
「鶏!」
驚いて声を上げたのは、エリクだった。
「茶色い鶏だ!」
エリクはそれを見て嬉しくなって飛び上がった。生まれて初めて見た鶏は、ダルトアの所にいる、白い鶏だったからだ。
しかし喜びもつかの間、飛び出してきた鶏はそこら中を暴れまわって手に負えなくなってしまった。みんながそれにあたふたして、二人の星の人が何かを探るようにあたりを見回していると、突然、茂みの奥から誰かが現れた。
その人は、茶色い鶏を両手でひょいと取り上げた。すると鶏はおとなしくなって、地面に降ろされるとその辺を歩き始めた。
「僕の友人が、驚かせてしまったようだね。すまない」
そう言って笑ったのは、黒い髪の青年だった。顔立ちは、どこにでもいる青年だったが、どこか計り知れない深みのある笑みを湛えている。少しだけ日に焼けていて、その褐色の肌は、まるで先程彼が抱いていた鶏の色のようだった。
彼は、自分が名乗る前に、一度、アースを見た。そして、片手で頭をさすると、困ったような顔をした。
「あの、帰れって言っても帰りませんからね」
「誰がいつそんなことを言った?」
アースは、そう言うとため息をついた。
「俺たちはまだ会ったばかりだ。事情を話してもらおう」
「返答次第では、強制送還ですか?」
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「だから、誰がそう言ったんだ? 勝手に決めつけるんじゃない。事情を話せ。場合によっては、ここにいる人間たちが力になれるだろう」
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