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キミは、もうひとりじゃない
すると一真さんがぎゅっと私のことを包み込んでくれた。
「大丈夫だ、澪……みんながキミの味方だ」
優しい声。
耳元で囁いて私を安心させてくれる。
「そ、それは……」
お父様とお母様の焦った声が聞こえてくる。
すると、さらに追い打ちをかけるように一真さんのお父様が告げた。
「それに一真が選んだのは、澪さんです。私たちは、家柄や表面的なことだけで婚約者を選んだわけではありません。ですから、澪さんを我が家の家族として迎える意思は変わりません」
その言葉はどこまでも静かで、しかし揺るぎないものだった。
御堂家の三人は、言葉を失ったように顔を見合わせる。
「……そ、そうですか」
お父様の言葉は、かすかに震えていた。
そして一真さんのお父様が諭すように声をかける。
「澪さんの意思を尊重させてあげてください。それが親の出来ることではありませんか?」
「それは、そう……ですね」
笑顔を保ったまま、次の言葉を探しているようだったが、もはや何も言えないのだろう。
その場の空気は、はっきりと勝敗を告げていた。
「どうぞ、お茶菓子はお持ち帰りくださいませ」
玲華様の言葉に、お付きの人がそっと手土産を差し戻す。
お母様は笑顔を保ったまま、それを受け取った。
だが、その手がわずかに震えているのを、私は見逃さなかった。
3人はうつむいたまま、凰条家を後にした。
私は膝の上で、ぎゅっと手を握りしめたままうつむいていた。
「あの、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませ……」
そこまで言おうとした時。
「澪さん」
優しく名前を呼ばれ、私は顔を上げる。
すると一真さんのお母様が、穏やかな笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「もう謝るのはやめにしましょう」
「で、でも……」
言いかけると、一真さんのお父様がゆっくりと口を開いた。
「澪さん、気を張る必要はないよ。私たちは家族になるんだからね」
家族――。
その言葉が、胸の奥に響いてすとんと落ちる。
「家族になったら誰かが困った時に支え合って生きていくものだろう?」
「ええ、そうよ。澪さんが困っていたら私たちが助ける。そうやって人は生きているのだから、迷惑だとは思わないで」
お母様が、そっと私の手に触れた。
その温もりが、ひどく優しくて、思わず涙がこぼれそうになる。
「澪」
一真さんの声がして、私は彼を見た。
彼はまっすぐな瞳で私を見つめていた。
「……キミは、もうひとりじゃない」
その言葉に、心臓が大きく跳ねた。
静かにけれど確かに心に染み渡る。
「もう、誰かの代わりでも、比較される存在でもない。キミは、キミのままでいていいんだよ」
涙がぽろりと零れた。
私は、ここにいていいんだ……。
そう思えた瞬間、胸の奥にあった不安がふわりと溶けていくようだった。
それからお母様がティーカップに紅茶を入れてくれた。
「澪さん、温かいうちに飲んで。お茶は気持ちを落ち着けるわ」
差し出されたカップを両手で包み込み、そっと口をつける。
優しい香りと、じんわりと広がる温かさが、心まで染み渡っていく気がした。
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