29 / 43
去っていった凰条一真【御堂零side】
しおりを挟む「えっ?」
「キミと飲む酒はマズくて、これっぽっちも酔えはしないよ」
まばたきすら忘れたように、その場に固まる。
喉がひくりと動いたが、声は出なかった。
「澪をどこにやった」
低く絞り出したような声が張り詰めた空気の中で小さく響く。
「なっ、気づいて……」
「気づかないわけないだろう?キミが来たその瞬間から澪ではないことに気づいていたよ」
ウソでしょ……。
「どうして……」
こんなにそっくりなのに。
服まで同じ服を着て、ほくろまで書いたんだ。
気づくわけがない。
なんなの、この男は……。
「澪が俺に酒を飲ませると思うか?強い酒を飲んでいる姿をカッコイイという、そういう表面的な言葉を投げかけてくると思うのか?」
「な、なに言って……」
「澪なら飲めない酒を俺に飲んでくれということはないだろうな。どんなに口に合わない酒でも選んだ人の気持ちを考えて飲み干す。澪はきっとそうするだろう」
「凰条一真……っ」
ギリっと歯を食いしばる。
「違うんだよ、キミと澪は……双子だ、顔がそっくりだと言うが……品性からにじみ出ているものが全く違うんだ。キミにはなんの魅力も感じない。キミと澪を間違えることは今後一生ない」
頭を殴られたみたいだった。
息をすることさえ忘れて、指先が冷たくなっていくのを感じる。
“キミにはなんの魅力も感じない”
澪と私を比べて、私よりも澪が選ばれた。
やめて、そんなはずない。
双子で並んでどっちかならば、私が選ばれて当然のはず。
澪が選ばれるわけなんてないんだ。
「もしはじめて会ったのがキミだったら、俺は御堂家に縁談の話を持っていくことはなかっただろう」
「や、め……」
おかしい。
そんなこと絶対におかしい。
澪よりも私が!私の方が全部優れてる。
褒められるのだって私だし、キレイな服を着て華やかで注目を浴びるのも私の方。
そして私の方が社交性もある。
絶対に私の方が優秀なんだ!
「だって……あんた、ここまで一緒に飲んでたじゃない!さっきでしょ……どうせさっき気づいたクセに最初から気づいたなんて言ったんでしょ?」
「キミと飲んだのは、キミたちの狙いを知る必要があったからだ。澪は実家だな?もう人向かわせてる」
手が怒りで震える。
なんでこんなにも上手くいかないのよ。
「キミがホテルと言った時に大方予想がついたよ。澪と間違えてキミを抱くように仕向けようとしたのだろう?」
爪が食い込むほど拳を握りしめる。
歯を食いしばり、表情を崩さないように必死で堪えたが出来ているかは分からない。
「キミの両親もグルか?」
さらに続けて質問され、私は余裕がなくなり声をあげた。
「そうよ。全部その通り……私と既成事実を作ったらあんたは私と結婚するしかなくなるでしょ!それでお父様とお母様と一緒に協力してやったのよ!全ては御堂家の未来のために。それなのに……」
まだ話の途中であるのに凰条一真は私の言葉を遮った。
「そこまで聞ければ十分だ」
そしてポケットからあるものを取りだす。
「録音は十分取れたからな」
それはスマートフォンであった。
「えっ……」
凰条一真は録画していた内容の一部を流した。
『そうよ。全部その通り……私と既成事実を作ったらあんたは私と結婚するしかなくなるでしょ!それでお父様もお母様も協力してやったのよ!それなのに……』
私の声……しっかりとれてる。
「全部録音させてもらった。キミたち家族が澪の尊厳を踏みにじっている証拠が今までなかった。だから公表することが出来なかった。でもこれでキミたち御堂家は終わりだ」
「ちょっ、待っ……」
頭の中が真っ白で、言葉のひとつも浮かばない。
何かが崩れ落ちる音が、微かに響いた。
これが世間に流れたら……。
私たち御堂家は大変なことになる。
「そ、そんなのやりすぎよ!」
「キミたちに比べたら造作もない。一度は見逃した。それは彼女がキミたちの権力を失脚することを望んでいなかったからだ。でももう限界だ。いつまでも澪を不幸にしようと企んでいる人間を野放しにはできない」
どうしよう、マズい展開になってる。
なにか方法はない……?
このままじゃ、ダメだ。
すべてが崩れ落ちてしまう。
「待って……っ、お願い聞いて……こんなことしたかったわけじゃないの」
「悪いがもう行くよ。澪が心配なものでね」
凰条一真は立ち上がると私に背中を向けた。
行かせたらダメだ。
「お願い待って」
凰条一真の手を掴んで必死に言う。
周りに人がいることも目には入らないくらい必死に縋った。
「私で、いい、じゃない……顔もそっくりで、私の方が社交経験もある。凰条家に貢献できるの!だから……澪である必要はないでしょう?」
すると凰条一真は立ち止まり、しっかりとした口調で言い放つ。
「なぜキミは自分が選ばれると思っているんだ?最愛の人に危害を加える人間を好きになるわけがない。澪である必要があって、キミである必要がないと言っているんだ、いい加減分かってくれないか?」
背筋がぞくりと粟立つ。
これ以上何も言うなと強い眼差しで言われているようだった。
そして凰条一真が立ち去っていく。
「待って!」
その場から立ち去り歩き出している一真さんを必死に追いかける。
なんとしてでも取り戻したい。
なんとしてでも私のものに……。
まだ間に合うわ。
既成事実がダメなら澪の顔に傷をつければいい。
そしたら、凰条一真だって澪を嫌いになるはず。
そうよ。
澪にどんな傷をつけてあげよう。
ボロボロに傷つけて、それからもう恋なんてしたくもないって思わせるようなことをすれば……。
地下の階段を走って駆け上がり外に出る。
行き交う人々をすり抜けようとして彼の背中を追いかけようとした時だった。
──ドン!
肩をぶつけられ、バランスを崩す。
「きゃっ!」
硬いアスファルトに膝をつき、痛みが走った。
膝からじわりと血がにじむ。
すると彼は目の前に止まっていた車の後部座席に乗り込み、立ち去ってしまった。
67
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~
有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。
ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。
そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。
彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。
「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる