押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery

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去っていった凰条一真【御堂零side】

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「えっ?」

「キミと飲む酒はマズくて、これっぽっちも酔えはしないよ」

まばたきすら忘れたように、その場に固まる。

喉がひくりと動いたが、声は出なかった。

「澪をどこにやった」

低く絞り出したような声が張り詰めた空気の中で小さく響く。

「なっ、気づいて……」

「気づかないわけないだろう?キミが来たその瞬間から澪ではないことに気づいていたよ」

ウソでしょ……。

「どうして……」

こんなにそっくりなのに。
服まで同じ服を着て、ほくろまで書いたんだ。

気づくわけがない。

なんなの、この男は……。

「澪が俺に酒を飲ませると思うか?強い酒を飲んでいる姿をカッコイイという、そういう表面的な言葉を投げかけてくると思うのか?」

「な、なに言って……」

「澪なら飲めない酒を俺に飲んでくれということはないだろうな。どんなに口に合わない酒でも選んだ人の気持ちを考えて飲み干す。澪はきっとそうするだろう」

「凰条一真……っ」

ギリっと歯を食いしばる。

「違うんだよ、キミと澪は……双子だ、顔がそっくりだと言うが……品性からにじみ出ているものが全く違うんだ。キミにはなんの魅力も感じない。キミと澪を間違えることは今後一生ない」

頭を殴られたみたいだった。

息をすることさえ忘れて、指先が冷たくなっていくのを感じる。

“キミにはなんの魅力も感じない”

澪と私を比べて、私よりも澪が選ばれた。

やめて、そんなはずない。
双子で並んでどっちかならば、私が選ばれて当然のはず。

澪が選ばれるわけなんてないんだ。

「もしはじめて会ったのがキミだったら、俺は御堂家に縁談の話を持っていくことはなかっただろう」

「や、め……」

おかしい。
そんなこと絶対におかしい。

澪よりも私が!私の方が全部優れてる。

褒められるのだって私だし、キレイな服を着て華やかで注目を浴びるのも私の方。
そして私の方が社交性もある。

絶対に私の方が優秀なんだ!

「だって……あんた、ここまで一緒に飲んでたじゃない!さっきでしょ……どうせさっき気づいたクセに最初から気づいたなんて言ったんでしょ?」

「キミと飲んだのは、キミたちの狙いを知る必要があったからだ。澪は実家だな?もう人向かわせてる」

手が怒りで震える。
なんでこんなにも上手くいかないのよ。

「キミがホテルと言った時に大方予想がついたよ。澪と間違えてキミを抱くように仕向けようとしたのだろう?」

爪が食い込むほど拳を握りしめる。
歯を食いしばり、表情を崩さないように必死で堪えたが出来ているかは分からない。

「キミの両親もグルか?」

さらに続けて質問され、私は余裕がなくなり声をあげた。

「そうよ。全部その通り……私と既成事実を作ったらあんたは私と結婚するしかなくなるでしょ!それでお父様とお母様と一緒に協力してやったのよ!全ては御堂家の未来のために。それなのに……」

まだ話の途中であるのに凰条一真は私の言葉を遮った。

「そこまで聞ければ十分だ」

そしてポケットからあるものを取りだす。

「録音は十分取れたからな」

それはスマートフォンであった。

「えっ……」

凰条一真は録画していた内容の一部を流した。

『そうよ。全部その通り……私と既成事実を作ったらあんたは私と結婚するしかなくなるでしょ!それでお父様もお母様も協力してやったのよ!それなのに……』

私の声……しっかりとれてる。

「全部録音させてもらった。キミたち家族が澪の尊厳を踏みにじっている証拠が今までなかった。だから公表することが出来なかった。でもこれでキミたち御堂家は終わりだ」

「ちょっ、待っ……」

頭の中が真っ白で、言葉のひとつも浮かばない。

何かが崩れ落ちる音が、微かに響いた。

これが世間に流れたら……。
私たち御堂家は大変なことになる。

「そ、そんなのやりすぎよ!」

「キミたちに比べたら造作もない。一度は見逃した。それは彼女がキミたちの権力を失脚することを望んでいなかったからだ。でももう限界だ。いつまでも澪を不幸にしようと企んでいる人間を野放しにはできない」

どうしよう、マズい展開になってる。

なにか方法はない……?

このままじゃ、ダメだ。
すべてが崩れ落ちてしまう。

「待って……っ、お願い聞いて……こんなことしたかったわけじゃないの」

「悪いがもう行くよ。澪が心配なものでね」

凰条一真は立ち上がると私に背中を向けた。

行かせたらダメだ。

「お願い待って」

凰条一真の手を掴んで必死に言う。

周りに人がいることも目には入らないくらい必死に縋った。

「私で、いい、じゃない……顔もそっくりで、私の方が社交経験もある。凰条家に貢献できるの!だから……澪である必要はないでしょう?」

すると凰条一真は立ち止まり、しっかりとした口調で言い放つ。

「なぜキミは自分が選ばれると思っているんだ?最愛の人に危害を加える人間を好きになるわけがない。澪である必要があって、キミである必要がないと言っているんだ、いい加減分かってくれないか?」

背筋がぞくりと粟立つ。

これ以上何も言うなと強い眼差しで言われているようだった。

そして凰条一真が立ち去っていく。

「待って!」

その場から立ち去り歩き出している一真さんを必死に追いかける。

なんとしてでも取り戻したい。
なんとしてでも私のものに……。

まだ間に合うわ。
既成事実がダメなら澪の顔に傷をつければいい。

そしたら、凰条一真だって澪を嫌いになるはず。

そうよ。
澪にどんな傷をつけてあげよう。

ボロボロに傷つけて、それからもう恋なんてしたくもないって思わせるようなことをすれば……。

地下の階段を走って駆け上がり外に出る。

行き交う人々をすり抜けようとして彼の背中を追いかけようとした時だった。

──ドン!

肩をぶつけられ、バランスを崩す。

「きゃっ!」

硬いアスファルトに膝をつき、痛みが走った。

膝からじわりと血がにじむ。
すると彼は目の前に止まっていた車の後部座席に乗り込み、立ち去ってしまった。


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