無自覚よしよしプレイで第二王子の性癖を歪めてしまったみたいです

小実そしる

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第二王子はお怒りかもしれません

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 一晩が明け、セスは猛烈な自己嫌悪に陥っていた。

「殿下の前であんな醜態を晒すなんて、僕は最低な人間だ……」

 アーサーとの魔力供給は、あくまでも医療行為の派生だ。だのに、快楽に抗いきれず、アーサーを汚してしまった。

「もう合わせる顔がないよ……どうしよう……」

 寝台の上で、頭を抱えて身悶える。
 頭からシーツを被って蓑虫状態になっていれば、不意にノックの音が響いた。

「セス、起きてるかー?」

 耳慣れた幼馴染の声に、慌てて居住まいを正した。

「っ、クライヴ! 起きてるよ。どうぞ」
「おう、おはようさん」

 入室を促せば、すぐに扉が開いてクライヴが姿を現した。

「おばさんが朝飯作ってくれたから、持ってきた。腹減ってるだろ? 俺も朝飯まだだし、一緒に食おうぜ」

 言いながら、クライヴがテーブルにランチョンマットを敷いた。一見するとなんの変哲もないマットだが、れっきとした魔法道具である。

「アペアレント」

 クライヴがマットに手のひらをかざし、呪文を詠唱した。直後にマットが光り輝き、ポンッと音を立てて、籠に入ったパンが現れた。それに続くようにして、瑞々しい野菜のサラダ、こんがりと焼き目のついたベーコンエッグ、豆と野菜のミルクスープが次々に現れた。

「わぁ……美味しそう」
「ほら、早く食おうぜ。冷めちまうだろ?」
「うん! いただきます」
「いただきまーす」

 向かい合って座り、お行儀よく手を合わせる。
 二人が一番に手を伸ばしたのは、セスの父親お手製の焼き立てパンだった。香ばしくもっちりとしたロールパンは、極限まで水分含有量を高めたこだわりの逸品だ。

「ん~っ、美味しい」
「だな。さすがはセスの親父さん」

 もふもふと頰いっぱいにパンを頬張るセスを見て、クライヴも釣られたように顔を綻ばせる。

「思ったより元気そうで良かったよ。おばさんが、セスが王子様に泣かされて帰ってきた~! なんて言うもんだから、一体何事かと思ったぜ」
「っ! けほっ、こほ……っ」
「おわっ! 大丈夫か!? ほれ、水飲め」

 クライヴから受け取ったコップを一気に煽り、セスはふぅっと息を吐いた。

「ごめんね、ちょっと噎せちゃって」 
「そんな腹減ってたのか? お前の分横取りするほど意地汚くねぇし、ゆっくり自分のペースで食えよ」
「う、うん、ありがとう。……母さん、昨日のことなんて言ってたの?」
「ん? あ~なんか、お前が夜遅くに帰ってきたかと思えば、泣き腫らした顔して部屋に閉じ篭っちゃった~って。まぁおばさんは過保護だからなぁ。多少は盛ってるにしても、何かあったのかと思って心配したんだぜ」
「そ、そうなんだ。ご心配おかけしてすみません」

 昨晩は確かに、両親と顔を合わせるのも気まずく、夕飯も食べずに部屋に戻った。しかし、クライヴがわざわざ様子を見に来るほどに心配をかけていたとは露知らず、セスは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「朝からごめんね。わざわざありがとう」
「いいってことよ。んで? 泣かされたって、何があったんだよ」
「ええっと、その……」

 やはり、言わねばならないだろうか。迷いつつ視線を彷徨わせていれば、クライヴが机の下で足先を小突いてきた。

「セス、俺とお前の仲だろ。何があったか、ちゃんと教えてくれよ」
「クライヴ……」

 幼い頃からの付き合いだ。セスはクライヴの真っ直ぐな眼差しに弱かった。

「……実は──」

 観念したように、昨日あった出来事をかい摘んで話した。魔力供給の際に醜態を晒してしまったこと、アーサーの名誉のためにも口外しないで欲しいことを頼み込みつつ。

「は~……なるほどな」
「こんな話聞かせてごめんね! 気持ち悪いよね……」
「いや? ま~なんとなく予想してたっつーか、むしろ納得だわ」
「え……?」

 目を丸くするセスに、クライヴは居心地が悪そうに視線を逸らした。

「いやな? やっぱ野郎同士で集まると、そういう話題にもなるわけよ。実際経験したって奴は俺の周りにはいねぇけど、噂じゃ魔力供給しながらのセックスは病みつきになるらしくてさ。お前と王子サマも、何かしら間違いが起こる可能性もゼロじゃねえなぁって思ってたんだよな」
「ええっ! それならなんで先に教えてくれなかったの!?」
「いや~確証があったわけでもねぇし。第一お前、こういう話苦手じゃん」

 クライヴの指摘は尤もで、セスは健全な青少年にしては珍しく、性的な話に対して消極的だった。それ故に、同年代の青年達と比べて、そういった方面の知識に疎い自覚はあった。

「そっか。やっぱり、何も知らないで対策もしなかった僕が悪いんだよね……」
「ち~がうって。お前が悪いって言ってんじゃなくて、お前が無防備過ぎたってこと」
「それって同じ意味じゃ……」
「まぁそうなんだけどよ。けどまぁ、案外王子サマも乗り気だったみたいだし? あの年頃なら興味本位で悪ふざけしちまったって感じなんじゃねぇの。俺も十二のガキの頃なんて、女の裸のことばっか考えてたし」
「クライヴ、声が大きいよ」
「ったく、お前は深窓のご令嬢かぁ? 二十二にもになって、どんだけウブなんだよ」

 呆れたように笑いながらも、「まぁそれがお前のイイトコなんだけどな」と付け足す。
 ノリが悪いと揶揄されることの多いセスに対し、昔からクライヴだけは、いつもこうして励ましてくれる。ありがたい友人だった。

「ありがとう、クライヴ。クライヴと話せて良かった」

 心配をかけまいと気丈に振る舞いながらも、セスにはアーサーに無理強いをさせてしまったのではないかという罪悪感があった。
 それを見透かしたように、クライヴはそっとセスの両肩に手を置いた。

「セス、お前は俺が知ってる中で一番ピュアでいい奴だ。王子サマだって、お前がショタコンの変態だなんて思ってないだろうよ」
「しょ……っ! クライヴ、そういう言い方はよくないよ」
「はいはい、ごめんなさいセスママ」
「ママって、僕は男なんだからどっちかって言うとパパだよ」
「ははっ、そこかよ。まあ冗談はこれくらいにして、だ。マジな話、お前が責任感じるようなことでもないと思うぜ。相手がガキンチョだから罪悪感あるのは分かるけどさ。お前の方から無理矢理関係迫ったわけでもないんだし、あんま自分を責めんなよ」

 真剣な表情で諭されて、セスは眉尻を下げた。本当に、自分には勿体無いくらいの友人に恵まれていると思う。

「でも……うん。そうだね、ありがとう」
「おう! 王子サマのルールに則るなら、明日もまた魔力供給しに行くんだろ? せっかくなら、親父さんのパンでも持ってったら喜ぶんじゃねぇの」
「そっか。お土産があった方がいいもんね」
「それこそ、王子サマはお前のまん丸ほっぺを気に入ってんだろ? お前のほっぺに似せて作った"ほっぺパン"持ってけよ」

 ほっぺパンとは、親バカな父親が『我が子のほっぺたを食べちゃいたい』という欲求を叶えるために生み出した、セスの頰そっくりのミルクパンのことだ。
 ふっくらもちもちの生地に、濃厚なミルクと自家製のクリームチーズを練り込んだ優しい甘さの素朴なパン。セスにとっては馴染み深い家庭の味だが、果たして王族であるアーサーの口に合うだろうか。

「確かに美味しいけど、もうちょっとベーシックな方がいいんじゃないかな」
「いやいや、普段食わないようなモンだからこそ価値があるんだろ。ほっぺパンはセスの親父さんにしか作れねーんだから、その価値が分かんねぇようじゃ王族もたかが知れてるってもんよ」
「もう、そういう言い方はよくないってば。でも、うん、そうだよね。アーサー殿下なら、きっと美味しいって言ってくれる気がする」
「なら決まりだな」
「うん……!」

 クライヴに励まされ、セスはようやくいつもの調子を取り戻したように笑えた。
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