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第1章
1~2話
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1話:集合時間の罠
最寄りの駅からローカルバスに揺られること一時間。バスが止まったのは、本当にここが合宿地の麓なのかと疑うような、寂れたバス停だった。周りにはコンビニ一つない。街灯もまばらで、日が暮れていくにつれて心細さが募る。
スマホで集合場所の地図を何度も確認する。「〇〇バス停」。間違いない。集合時間は――午前11時。
俺はバス停のベンチに腰を下ろし、他の参加者が来るのを待った。しかし、時計の針は容赦なく進み、11時を過ぎても誰も現れる気配がない。道行く人もいない。聞こえるのは風が木々を揺らす音と、遠くで鳴くカラスの声だけだ。
「あれ……? もしかして、場所間違えたか?」
不安になって、募集要項のメールを再度開く。何度も何度も読み返す。集合場所は「〇〇バス停」。集合時間は――。
そこで、俺の視線はある一文に釘付けになった。
『集合時間:午後11時』
は?
目をゴシゴシと擦り、もう一度確認する。何度見ても「午後11時」と書いてある。つまり、夜の11時だ。
「うっそだろ!?」
思わず叫んでしまった。どうりで誰もいないわけだ。俺は朝の11時に、この人気のないバス停で、約半日も待ちぼうけを食らっていたのだ。
こんなにも早く来てしまった自分が心底バカらしくなる。と同時に、こんな紛らわしい書き方をする主催者に対して、フツフツと怒りが湧いてきた。
なんで「夜の11時」とか「23時」って書かないんだよ! 午後って書けばいいってもんじゃないだろ!
仕方なく、俺はリュックを下ろし、ベンチに座り込んだ。まだ時間はたっぷりある。
これからあと12時間近く、ここで時間を潰さなければならないのか。スマホの充電は持つだろうか。食料も飲み物も、たいして持ってきていない。
夜のバス停で、俺は途方に暮れた。合宿が始まる前から、こんなにも出鼻をくじかれるとは。この合宿、本当に大丈夫なのか? 早くも胸の中に、言いようのない不穏な予感が広がり始めていた。
2話:忍び寄る視線
夜の帳がすっかり降りた。バス停の街灯がぼんやりと周囲を照らしているが、昼間とはまるで違う、得体の知れない静けさがそこにはあった。
スマホの充電も残りわずか。SNSを眺めるのも飽きて、小説を読む気力も失せていた。腹の虫は鳴りっぱなしだし、体は冷え切っている。
午前11時から待って、もう夜の8時過ぎだ。あと3時間以上もこの場所で時間を潰さなければならないのかと思うと、気が遠くなる。
「なんか、することねぇかな……」
退屈しのぎに、俺は最近ハマっているお笑い芸人のモノマネをしてみることにした。誰も見てないし、いいだろう。
(モノマネ)「どうもー! 僕、〇〇でーす! 今日も一日、頑張るぞー!」
テレビで見た彼らのオーバーな動きを真似て、声色を変えてみる。ちょっと照れくさいが、こんな状況でなければできないことだ。
(モノマネ)「おい、そこの君! ちょっと待ちなよ、君! そう、君だよ君!」
一人でブツブツとセリフを呟き、体を動かしていると、少しだけ気分が晴れてきた。俳優になるには、モノマネも大事な練習だ。こんな場所ででも、できることをやるしかない。
その時だった。
「ね! なにやってんの!?」
突然、背後から男の声が聞こえた。驚いて振り返ると、そこにはいつの間にか一人の男が立っていた。細身のスーツをぴしりと着こなしているが、夜の闇に紛れてその表情はよく見えない。
「ひ、ひぃっ!?」
情けない声が出た。まさかこんな場所に人がいるとは。しかも、声をかけられるまで全く気づかなかった。その男は、ゆったりとした足取りで俺に近づいてくる。
「こんなところで、一体何をしているのかな?」
その声は妙に丁寧だが、どこか冷たい響きがあった。そして、その視線は俺の全身を舐めるように見回している。その視線に、俺は身構えた。
「あ、あの……俺、合宿の参加者で……藤原、ハルキです」
どもりながら答えると、男はフッと口元を歪めたように見えた。
「ああ、君が。私が、今回の合宿の主催者だ。まさか、こんな場所で君に会えるとはね」
主催者――。その言葉に、俺の背筋を冷たいものが走った。こんな真夜中に、人気のない場所で突然現れる主催者。そして、俺がモノマネをしているところを見ていたのか……。
「こんなところで、一人でね……。感心だ。いや、むしろ、面白い」
主催者の声が、暗闇に不気味に響いた。俺は、この合宿が想像以上に「怪しい」ものであることを、この時初めて肌で感じたのだった。
最寄りの駅からローカルバスに揺られること一時間。バスが止まったのは、本当にここが合宿地の麓なのかと疑うような、寂れたバス停だった。周りにはコンビニ一つない。街灯もまばらで、日が暮れていくにつれて心細さが募る。
スマホで集合場所の地図を何度も確認する。「〇〇バス停」。間違いない。集合時間は――午前11時。
俺はバス停のベンチに腰を下ろし、他の参加者が来るのを待った。しかし、時計の針は容赦なく進み、11時を過ぎても誰も現れる気配がない。道行く人もいない。聞こえるのは風が木々を揺らす音と、遠くで鳴くカラスの声だけだ。
「あれ……? もしかして、場所間違えたか?」
不安になって、募集要項のメールを再度開く。何度も何度も読み返す。集合場所は「〇〇バス停」。集合時間は――。
そこで、俺の視線はある一文に釘付けになった。
『集合時間:午後11時』
は?
目をゴシゴシと擦り、もう一度確認する。何度見ても「午後11時」と書いてある。つまり、夜の11時だ。
「うっそだろ!?」
思わず叫んでしまった。どうりで誰もいないわけだ。俺は朝の11時に、この人気のないバス停で、約半日も待ちぼうけを食らっていたのだ。
こんなにも早く来てしまった自分が心底バカらしくなる。と同時に、こんな紛らわしい書き方をする主催者に対して、フツフツと怒りが湧いてきた。
なんで「夜の11時」とか「23時」って書かないんだよ! 午後って書けばいいってもんじゃないだろ!
仕方なく、俺はリュックを下ろし、ベンチに座り込んだ。まだ時間はたっぷりある。
これからあと12時間近く、ここで時間を潰さなければならないのか。スマホの充電は持つだろうか。食料も飲み物も、たいして持ってきていない。
夜のバス停で、俺は途方に暮れた。合宿が始まる前から、こんなにも出鼻をくじかれるとは。この合宿、本当に大丈夫なのか? 早くも胸の中に、言いようのない不穏な予感が広がり始めていた。
2話:忍び寄る視線
夜の帳がすっかり降りた。バス停の街灯がぼんやりと周囲を照らしているが、昼間とはまるで違う、得体の知れない静けさがそこにはあった。
スマホの充電も残りわずか。SNSを眺めるのも飽きて、小説を読む気力も失せていた。腹の虫は鳴りっぱなしだし、体は冷え切っている。
午前11時から待って、もう夜の8時過ぎだ。あと3時間以上もこの場所で時間を潰さなければならないのかと思うと、気が遠くなる。
「なんか、することねぇかな……」
退屈しのぎに、俺は最近ハマっているお笑い芸人のモノマネをしてみることにした。誰も見てないし、いいだろう。
(モノマネ)「どうもー! 僕、〇〇でーす! 今日も一日、頑張るぞー!」
テレビで見た彼らのオーバーな動きを真似て、声色を変えてみる。ちょっと照れくさいが、こんな状況でなければできないことだ。
(モノマネ)「おい、そこの君! ちょっと待ちなよ、君! そう、君だよ君!」
一人でブツブツとセリフを呟き、体を動かしていると、少しだけ気分が晴れてきた。俳優になるには、モノマネも大事な練習だ。こんな場所ででも、できることをやるしかない。
その時だった。
「ね! なにやってんの!?」
突然、背後から男の声が聞こえた。驚いて振り返ると、そこにはいつの間にか一人の男が立っていた。細身のスーツをぴしりと着こなしているが、夜の闇に紛れてその表情はよく見えない。
「ひ、ひぃっ!?」
情けない声が出た。まさかこんな場所に人がいるとは。しかも、声をかけられるまで全く気づかなかった。その男は、ゆったりとした足取りで俺に近づいてくる。
「こんなところで、一体何をしているのかな?」
その声は妙に丁寧だが、どこか冷たい響きがあった。そして、その視線は俺の全身を舐めるように見回している。その視線に、俺は身構えた。
「あ、あの……俺、合宿の参加者で……藤原、ハルキです」
どもりながら答えると、男はフッと口元を歪めたように見えた。
「ああ、君が。私が、今回の合宿の主催者だ。まさか、こんな場所で君に会えるとはね」
主催者――。その言葉に、俺の背筋を冷たいものが走った。こんな真夜中に、人気のない場所で突然現れる主催者。そして、俺がモノマネをしているところを見ていたのか……。
「こんなところで、一人でね……。感心だ。いや、むしろ、面白い」
主催者の声が、暗闇に不気味に響いた。俺は、この合宿が想像以上に「怪しい」ものであることを、この時初めて肌で感じたのだった。
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