「かぼちゃ」の演説

本歌取安

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第6話 火をともす言葉

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3か月後
リシュリュー市郊外にある白い木造の教会。

十字架の下に佇むその小さな礼拝堂は、普段は地元の信仰深い住民たちの祈りの場だが、この日ばかりは、後方の椅子が政治の話を聞きに来た支持者たちで埋まっていた。

壇上には、先ほどまで牧師がいたが、今は別の人物が立っている。

デネブ・フォスターだった。

白いブラウスに紺のスカート、教会の空気に配慮した控えめな装いで、彼女は静かにマイクの前に立った。
以前のような原稿は手にしていない。
ただ、右手に小さな古書を持っていた。

そして、ゆっくりと語り出す。

「皆さん、今朝はここに来てくださってありがとうございます」

間。

「私は、以前の演説で“正しいこと”を語ろうとしていました。でも……“伝わること”を語ってはいなかったのです」

教会の静けさが、彼女の声に吸い込まれていく。

「私は最近、不思議な夢を見ました。夢の中に現れた古代の男――なぜかフラワー語を話し、トーガを纏い、歪んだ顔で、妙に優しい笑みを浮かべる奇妙な男でした。彼は私に言ったんです。『民の心は理屈で動かぬ』と」

少し聴衆の表情が動く。
ざわつきはない。
皆、耳を傾けている。

「だから、今日は理屈ではなく、“なぜ私がここにいるのか”を話します」

深呼吸一つ。
まっすぐに前を見て。

「私は、一人の企業のマネージャーでした」

「目標を達成しようと、最高のチームを作ろうと、チームメンバーを能力・人格を基に査定して人選を行っていました。ところが、「多様性」推進を掲げる政府の推奨を受け経営陣は特定人種に偏らないよう選ぶよう言われました。私はそのことに反対しました。「人種」と「能力」は関係がないですから…」

「ですが、そんな私に「多様性」施策に同調する他のマネージャーから、人種差別主義者のレッテルを張られました。私は別に特定の人種や民族を差別していないし、する気もないのに。そして、ある日、気づいたんです――この国の政治が、おかしな方向に向かっている、と」

「私は怒りました。悔しくて、夜も眠れないほどに。そして、“変えたい”と思いました。だから、ここにいます…」

言葉に熱が宿っていく。

「デモス党政権による「多様性」推進により、伝統的な価値観が壊れていることに懸念を表明した時、皆さんを彼らはどのように彼らは言いましたか?」

「デモス党政権の野放図な移民政策を実施した際、治安への懸念を表明した皆さんをどのように彼らは言いましたか?」

「多くの方は差別主義者、無知で無教養な人間とレッテルを貼って非難してきたのではないですか?ただ、善良な市民として懸念を表明しただけなのに…」

そして、ひと呼吸おくと、徐々に言葉に力を込めていく。

「皆さんの懸念は正しい。そして皆さんの怒りは正しい。皆さんの思いで政治を変えるために、私は立候補しました!」

聴衆の顔つきが変わっていく。

眉を上げる者、頷く者、腕を組んだまま静かに目を細める者。

「フラワーは、理念でつくられた家です。そして家を守るのは、声を上げるあなたたち一人ひとりなんです。私はあなたたちと一緒に、もう一度、“この家”を立て直したい。ただ、それだけなんです。偉大なる祖国を再び偉大にする。皆さんと共に!」

最後の言葉を終えたとき、会場には一瞬の沈黙があった。
そして──拍手が巻き起こった。
今まで聞いたことのない、重く、真っ直ぐな拍手。

やがて、献金箱の前に列ができた。
中には小切手で支援を申し出るもの者までいた。支援者が近づいてくる。

「何があったの? 急に上手くなったじゃない」

そう問われたデネブは、少し照れくさそうに微笑みながら答えた。

「歴史に学んでるの。たぶん、2000年分くらい」

支援者は笑ったが、どこか感心した様子だった。

クラウディウスから演説の教師になってやると申し出があった夜以来、夢で会うたびにデネブはギリシャ、ローマの名演説家たちの演説について、彼の知る限りの講義を受けてきた。
まさに千年以上にわたる叡智に他ならない。

その日、目標としていた選挙資金がすべて集まった。

デネブは初めて、演説の後で誇らしさと充足感を胸に抱くことができた。

―クラウディウス、あなたの講義のおかげで皆に思いが届くようになったわ―
 
デネブは握手を求めてくる党員たちの対応をしつつ、心の中で夢の中の教師に礼を言った。

そして、2XXX年4月 デネブ・フォスターは、フラワー党ネオグラッドストン州支部大会で上院議員候補者として選出され、選挙戦を戦っていったのである。
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