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41話 ユイの守備位置と打順

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 翌日――。
 今日の野球部も、いつもと同じように練習が行われていた。
 いや、正確に言えば少しだけ違うところがある。
 新たに1人の戦力が加わったのだ。

「いくぜ、ユイ!」

「いつでもどうぞ、龍さん!」

 龍之介がマウンド上で構える。
 彼のストレートは、今やMAX130kmに達している。
 4人もの美少女が部員に加わってくれたおかげで、彼の【煩悩の力(エロパワー)】が順調に成長しているのだ。

「どりゃー!!」

 龍之介の右腕からボールが放たれる。
 その速球は、ユイが構えるキャッチャーミットへと突き刺さった。

「ナイスボールですわ!」

 ユイが満面の笑みで称える。
 そんな彼女に、龍之介も嬉しそうに言った。

「ああ! ありがとう、ユイ。やはり人間のキャッチャー相手だと、気持ちよく投げられるよ」

「ふふ……。わたくしでもお役に立てるようで、何よりですわ」

 熱い視線を交わす2人。
 急造バッテリーだが、その信頼関係は既に高いレベルにあるようだ。
 そんな2人の様子を、ノゾミとアイリが羨ましそうに眺めていた。

「はぁ……。龍先輩、すっごく活き活きとしていますね……」

「うん……。キャッチャーを待ち望んでいたんだろうね。ユイさんの技術は凄い。綺麗な捕球だよ」

 2人が呟く。
 すると、その呟きを耳にしたミオが微笑を浮かべながら口を開いた。

「確かに見事な捕球です。でも……それだけじゃダメだと思います」

「どういうこと? ミオちゃん」

「キャッチャーに必要なことは、捕球だけじゃありません。それを証明してきます! ぬんっ!!」

 ミオが右腕を天に向かって突き出す。
 彼女は一塁付近まで歩いていくと、そこから龍之介ーユイのバッテリーに向かって指を突きつけた。

「龍様、ユイさん! 私は今から、盗塁をします! 阻止できるものなら阻止してみてください!!」

「お、おう。そうだな、盗塁阻止の練習も必要だ。……ユイ、準備はいいか?」

「え、ええ……。では……」

 2人は練習意図を理解した。
 もっとも、ミオの原動力が嫉妬であることには気づいていない。
 龍之介はマウンド上で構える。

「いくぞ! どりゃあああぁっ!!」

 龍之介が投球する。
 そのボールは、彼の思い通りの軌道を描き、ユイの構えるキャッチャーミットへと吸い込まれた。

「ナイスボールですわ! そして、次はわたくしの――【キャノン】でしてよ!!」

 ユイがコンパクトながらも豪快に振りかぶり、二塁に送球する。
 ボールは龍之介の横を通りながら、二塁手を務めるロボ8号のグラブへと吸い込まれた。

「うっ!? な、なんて速い送球なのですか……!!」

 ミオは必死にロボ8号のタッチを躱しながら、二塁にスライディングする。
 だが――

『アウトッ!』

 審判ロボの判定が下る。
 ミオは悔しそうにしながら、ゆっくりと立ち上がった。

「おーっほっほっほ! わたくしの送球を見ましたか! まさに大砲ですわね!!」

 ユイが得意気に胸を張る。
 そんな彼女を他所に、次はアイリが一塁で待機している。

「ユイさん! 次はボクと勝負だよ!!」

「あら、アイリさん。あなたがわたくしの相手ですの?」

「その通り! ボクは守備だけじゃなく、足にも自信があるんだ!!」

 ユイが問いかけると、アイリは自信に満ちた様子で頷いた。
 そんな彼女たちの様子を見て、龍之介が満足げに微笑む。

「よし、練習に熱が出てきたな。ユイが加入したことにより、盗塁練習もできるようになった。これは大きいぞ!」

 ロボのスキャン機能や龍之介の眼力により、桃色青春高校の野球能力は可視化されている。
 その中には、走塁力という項目もあった。

 ロボ0号から9号の走塁力が、それぞれGもしくはF。
 ユイがE。
 龍之介とミオがD。
 アイリがB。
 ノゾミがAだ。

(ノゾミとアイリは、足は速いが野球そのものにまだ不慣れだ。まともに盗塁練習ができない状態だったし、大草原高校戦でも盗塁は0だった。しかし、これならば……)

 龍之介は盗塁練習に参加しながら、そんなことを考える。
 ユイの加入は、守備面だけでなく攻撃面でも桃色青春高校を刺激するものになっていた。

「はぁ……はぁ……! の、ノゾミさんもアイリさんも、凄まじい脚力ですわね……!!」

「ぜぇ……ぜぇ……。ユイ先輩こそ、凄いです……」

「ふうー! ユイちゃんからたまに盗塁を成功させられるなんて、ボクも捨てたもんじゃないね!」

 肩で息をしながら、3人は互いの健闘を称え合う。
 そんな彼女たちの様子を、龍之介は満足そうに眺めていた。
 ミオが少し膨れていたので、頭を撫でて機嫌を取る。

「わっ……! りゅ、龍様……?」

 ミオが驚いた表情を浮かべる。
 そんな彼女に優しい笑みを向けつつ、彼は全員に向かって言う。

「新戦力であるユイの打順は5番にした。バットコントロールはまだ不安定だが、長打力には期待できる。大草原高校戦のように、無闇に俺やミオが敬遠されることは減るだろう」

「なるほど……。4番打者の重要性が増しそうですね! 頑張らないと……!!」

 ミオが目を輝かせる。
 他の3人も、龍之介の言葉に頷いていた。

「6番レフトには、ロボの中では打撃能力に優れているロボ0号を配置した。そして、残りのロボについては、打順や守備位置をイジっている」

「ええっと……。ああ、守備重視にしたのかな?」

「そうだ。大草原高校戦では、ショートのアイリの負担が大きかったからな。ユイの加入により盗塁攻めのリスクは減ったが、セーフティバント攻めへの脆弱性はまだ残っている。これまでキャッチャーを任せていた守備に優れるロボ9号がフリーになったことだし、全体的に守備位置を見直した感じだ」

 龍之介が丁寧に説明する。
 彼の説明を聞き終えると、みんなが笑みを見せた。
 彼は言う。

「これで、2回戦を突破できる可能性は十分に確保できたと思う。後は、本番で実力を出し切るだけだ! みんな、頑張ろうぜ!!」

「「「「おお~!!」」」」

 その言葉に、みんなが元気よく返事をする。
 こうして、桃色青春高校は2回戦突破に向けて練習に励んでいくのだった。
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