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9話 のびのびスライム
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洞窟はしばらく長い道のりが続いていたが、突然視界が真っ暗になってしまった。トウマは一歩下がり、左手のランプを前にかざす。左右の壁面がランプで照らされているものの、それが道半ばで途切れていた。
「ここから結構広い空間になってるのかもしれないね。もしかしてここが最奥なのかも。そうだ、今のうちにのびのびスライムで警戒した方がいい特徴についておさらいしてくれない?」
「おいおい物覚えが悪い奴だな。いいか? 耳の穴かっぽじって聞けよ」
特徴①物理攻撃無効
特徴②魔法攻撃無効
特徴③超伸びて縦横無尽に飛び回る
特徴④触れるとモノを溶かすことができる
というところまで聞いたところで「うわぁ、聞きたくなかったなぁ」とトウマは後悔した。しかし勇者は更なる追い打ちを言い放つ。
「それを言うのはまだ早いぜ? 更にのびのびスライムは長い時間をかけて自身の分身を作り出すことができるんだ。もし既に二体以上いたら勝ち目はないな。まぁ俺は生きてたけど」
「え、二体も倒しちゃったの?」
「いやもう一体には逃げられた。すばしっこいったらないぜ」
はぁと過去の自分を呆れるようにため息を吐く。だがその勇者の表情は、トウマには清々しいように見えていた。
勇者との会話をしていたところで、トウマに天啓が降りた。
「つまり親子スライムってことか! 二体もテイムできるかな……」
「いや一体倒してもう一体テイムすればいいだろ?」
「親子を引き裂くなんてそんなのできるわけないよ! 母親も子供も悲しむことになるじゃないか!」
「たまにって言ったが撤回しよう、根っからお前はマザコンだ」
緊張もほぐれたところで、トウマと勇者は目の前の暗闇に足を踏み入れる。ある程度歩くと周囲が暗闇に包まれ、剣を握る右手に力が強くなる。
周囲を警戒していると、水が滴る音が広い空間に反響した。その音が次第に強くなり、波のような音が地面を揺らしている。
苦笑いのトウマが勇者に問うた。
「なぁ、勇者が戦ったのびのびスライムってどれくらいの大きさだったか教えてもらってもいいかな?」
「そうだな、んー、何で例えたらいいものか」と1秒ほど悩んでから再び口を開く。
「トウマが戦ったゴーレムいるだろ? あれの10倍は大きかったな。まぁ四天王クラスだからってだけだし、野生ならそんなこと――」
トウマは聞き終えることができなかった。山のような液体から逃げなければならなかったから。
踵を返して走るものの、波の速度はトウマの比ではなく一瞬の内に飲み込んで行く。大海原に身一つで遭難したように顔だけを水面に出す。
「溶ける溶ける溶ける!」
「いや! まだ大丈夫だ、のびのびスライムの融解モードは奴等にとっても最終手段なんだ。まずは壁を目指せ!」
トウマは壁を目指して水をかく。だが一向に壁に辿り着くことができない。広い空間の中心に渦潮のような水流が発生しているためだ。
「く、このままじゃ駄目だ、体力が切れて、ゴボボボボ。」
「しっかりしろ! 死ぬ気で顔を出せ!」
と言われている頃には、トウマの顔はのびのびスライムに飲み込まれていた。薄っすら目を開くと、勇者だけがはっきりと見える。声は聞こえないが、ジェスチャーで必死に何かを訴えていた。トウマが認識できたのはそれだけだった。だんだんと朧気になっていく。
*****
「また怪我したの? トウマはいっつもボロボロになって帰って来るんだから」
幼きトウマは小さい花を持って家に帰ってきた。ナナロイという虹色に輝く一凛の花。それはあらゆる病をも癒すと言われているが、チョウタカ山の麓に朝日が輝く時にだけ咲き、入手するためにはその一瞬の時に摘まなければならないと言われている。
トウマの母は薄汚れたトウマの身なりを気にすることなく抱きしめた。教育する立場ならば叱るのが常識。危険を危険と学ばせるのが親の務め。しかしトウマの母はそうしなかった。
「そう、また私のために採っていてくれたんだね。ありがとうね」
「早く元気になってね、じゃないと一緒にピクニックにも行けないし」
かつて一度だけ、トウマの家族は村から離れたダダッピ草原でピクニックに行った事があった。しかし遠出の無理が祟ったのか、トウマの母は病状を悪化させてしまい、医者からは家を離れないようにと言われている。
トウマはそんな様子を目の当たりにしたからこそ、自分が行きたかったピクニックに連れて行ってしまったからこそ、母のためならばあらゆる危険をも厭わなかった。
トウマの母はそんなトウマの責任感を、それを隠してまたピクニックに行きたいという口実を口にしていることを知っているからこそ、叱ることができなかった。代わりにいつも強く抱きしめることにしている。
「トウマ、あんたには言っても聞かないだろうから、私はあんたを止めはしないよ。だから約束して」
人生の全てを挑戦すること。人生の全てを楽しむこと。
そんな愛情を一心に受けたからこそ、トウマはあらゆる危険をも厭わない。
「ここから結構広い空間になってるのかもしれないね。もしかしてここが最奥なのかも。そうだ、今のうちにのびのびスライムで警戒した方がいい特徴についておさらいしてくれない?」
「おいおい物覚えが悪い奴だな。いいか? 耳の穴かっぽじって聞けよ」
特徴①物理攻撃無効
特徴②魔法攻撃無効
特徴③超伸びて縦横無尽に飛び回る
特徴④触れるとモノを溶かすことができる
というところまで聞いたところで「うわぁ、聞きたくなかったなぁ」とトウマは後悔した。しかし勇者は更なる追い打ちを言い放つ。
「それを言うのはまだ早いぜ? 更にのびのびスライムは長い時間をかけて自身の分身を作り出すことができるんだ。もし既に二体以上いたら勝ち目はないな。まぁ俺は生きてたけど」
「え、二体も倒しちゃったの?」
「いやもう一体には逃げられた。すばしっこいったらないぜ」
はぁと過去の自分を呆れるようにため息を吐く。だがその勇者の表情は、トウマには清々しいように見えていた。
勇者との会話をしていたところで、トウマに天啓が降りた。
「つまり親子スライムってことか! 二体もテイムできるかな……」
「いや一体倒してもう一体テイムすればいいだろ?」
「親子を引き裂くなんてそんなのできるわけないよ! 母親も子供も悲しむことになるじゃないか!」
「たまにって言ったが撤回しよう、根っからお前はマザコンだ」
緊張もほぐれたところで、トウマと勇者は目の前の暗闇に足を踏み入れる。ある程度歩くと周囲が暗闇に包まれ、剣を握る右手に力が強くなる。
周囲を警戒していると、水が滴る音が広い空間に反響した。その音が次第に強くなり、波のような音が地面を揺らしている。
苦笑いのトウマが勇者に問うた。
「なぁ、勇者が戦ったのびのびスライムってどれくらいの大きさだったか教えてもらってもいいかな?」
「そうだな、んー、何で例えたらいいものか」と1秒ほど悩んでから再び口を開く。
「トウマが戦ったゴーレムいるだろ? あれの10倍は大きかったな。まぁ四天王クラスだからってだけだし、野生ならそんなこと――」
トウマは聞き終えることができなかった。山のような液体から逃げなければならなかったから。
踵を返して走るものの、波の速度はトウマの比ではなく一瞬の内に飲み込んで行く。大海原に身一つで遭難したように顔だけを水面に出す。
「溶ける溶ける溶ける!」
「いや! まだ大丈夫だ、のびのびスライムの融解モードは奴等にとっても最終手段なんだ。まずは壁を目指せ!」
トウマは壁を目指して水をかく。だが一向に壁に辿り着くことができない。広い空間の中心に渦潮のような水流が発生しているためだ。
「く、このままじゃ駄目だ、体力が切れて、ゴボボボボ。」
「しっかりしろ! 死ぬ気で顔を出せ!」
と言われている頃には、トウマの顔はのびのびスライムに飲み込まれていた。薄っすら目を開くと、勇者だけがはっきりと見える。声は聞こえないが、ジェスチャーで必死に何かを訴えていた。トウマが認識できたのはそれだけだった。だんだんと朧気になっていく。
*****
「また怪我したの? トウマはいっつもボロボロになって帰って来るんだから」
幼きトウマは小さい花を持って家に帰ってきた。ナナロイという虹色に輝く一凛の花。それはあらゆる病をも癒すと言われているが、チョウタカ山の麓に朝日が輝く時にだけ咲き、入手するためにはその一瞬の時に摘まなければならないと言われている。
トウマの母は薄汚れたトウマの身なりを気にすることなく抱きしめた。教育する立場ならば叱るのが常識。危険を危険と学ばせるのが親の務め。しかしトウマの母はそうしなかった。
「そう、また私のために採っていてくれたんだね。ありがとうね」
「早く元気になってね、じゃないと一緒にピクニックにも行けないし」
かつて一度だけ、トウマの家族は村から離れたダダッピ草原でピクニックに行った事があった。しかし遠出の無理が祟ったのか、トウマの母は病状を悪化させてしまい、医者からは家を離れないようにと言われている。
トウマはそんな様子を目の当たりにしたからこそ、自分が行きたかったピクニックに連れて行ってしまったからこそ、母のためならばあらゆる危険をも厭わなかった。
トウマの母はそんなトウマの責任感を、それを隠してまたピクニックに行きたいという口実を口にしていることを知っているからこそ、叱ることができなかった。代わりにいつも強く抱きしめることにしている。
「トウマ、あんたには言っても聞かないだろうから、私はあんたを止めはしないよ。だから約束して」
人生の全てを挑戦すること。人生の全てを楽しむこと。
そんな愛情を一心に受けたからこそ、トウマはあらゆる危険をも厭わない。
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