何でも切れる勇者の剣を引き抜いたら右手から離れなくなりました(しかも逆手)

こへへい

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10話 愛情にDNAは関係ない

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 母の想いを思い出し、トウマは右手の剣に力を込めた。すると剣が光出し膨大な魔力が発せられる。そして水中で体を思いっきり回した。

「斬れろ!」

 体の回転を利用して右腰から振り上げられた剣は、その線上を描くように水を切り裂いた。上下に割れた水は再び結合することなく、洞窟の奥へと引っ込んでしまった。
 その奥から、重々しい唸り声が震えだした。暗い洞窟の奥が怪しく光る。

「貴様、その剣、その魔力、知っているぞ。我の遠い遺伝子に刻まれた忌まわしき記憶が呼び覚まされたわ」

「魔力? 忌まわしき?」

 未だにずぶ濡れで地べたを這うトウマは非常にきょとんとしてしまったが、隣の勇者は一人納得していた。

「なるほど、通りで大きいわけだ」

「何か事情知ってるならさっさと言って」

「あいつは俺が倒したスティッキーの子孫だな。分裂したのびのびスライムが更に分裂、それを繰り返したのがあいつだってことだよ。そういや倒した時飛び散ってたっけなぁ」

 勇者の詰めの甘さに苦い顔をしつつ、トウマは少なからず驚いた。こんな数奇な運命があっていいのかと。
 スティッキーの遺伝子を引き継いだのびのびスライムと、剣を引き継いだ自身が今こうして対峙していることに。

「小僧、お前は勇者の何なのだ。意志を継ぎし者のとでも言うつもりか?」

「いや全然。遺志をお祓いしようとしてるだけ」

 即答する迷いなきトウマに、のびのびスライムは高笑いをする。波の音が大きくなった。

「お祓いとは! まるで勇者の怨念が取り憑いたような言い草ではないか!」

「……」

 じっと勇者を見つめるトウマに「怨念じゃねぇ! 俺も迷惑してんだよ生涯かけて!」と弁解した。
 そこでトウマはハッとタツミの言葉を思い出す。魔物と心を通じ合わせる。これはつまり思いを一致させることであり、勇者の剣から解放されることと、遺伝子レベルで勇者を恨むのびのびスライムは、その要件を満たしているのではなかろうかと。

「なぁのびのびスライム、僕はこの剣に呪われてとても苦労している。常に変な幽霊もくっついてきてるおまけつきだ。僕はそれを滅ぼしたい。そしてのびのびスライム、君も勇者が大嫌い。ならば、一緒にこの剣の呪いを解いて剣を滅ぼすって点では協力できるんじゃないかな?」

「貴様を殺してそれから溶かせば良いではないか」

「……」

 ごもっともだった。通じ合っていても、比肩できる立場でないといけない。だがトウマは引かなかった。

「駄目だ。勇者は死んでも魂がこの剣にい続けている。それは真の意味で滅ぼしたことにならないし、拾えばまた誰かが勇者になって呪われる。それは君も本意じゃないだろう?」

「……ふむ」と、一考の余地があるくらいには認められたようでホッとする。しかしまだ問答は続いた。再びトウマは息を止める。

「貴様と組むことで我は何を得られる? 言うてみよ」

「……」一瞬考えて。
「呪いを解くためには、情報が必要なんだ。そして情報を得るには人から聞くのが最も効率がいい。僕はその情報を得るために動くことができる」

 魔物は問答無用で人を襲う。それは逆に言うと人の情報を得られないということだ。それを埋められるのはメリットになるはず。
 トウマの思惑は功を奏したようで、再び高笑いが響いた。

「ハハハ! 貴様、やるではないか。年端もいかぬというのに、我と対等の立場にまで上がってこようとはのぉ」

「あはは、あざっす」

 緊張と安心がないまぜになり、パン屋で働いていた時の挨拶になってしまった。

 どうやら交渉は成立したらしい、と安心していると、のびのびスライムが再び怪しい光を放つ。

「だがしばし待て。我の分身がもう幾ばくかで産まれるところなのだ。それを見届けるまでは離れられぬ」

 そう言ってその身の中にある、光り輝く宝石をトウマに見せてくれた。その声音は先ほどと同じ尊大な雰囲気だったものの、トウマにはわかった。

 我が子を慈しむ親の心が、そこにはあった。

「大丈夫ですよ、二人とも行きましょうよ、離れ離れは寂しいですし」

「いや心配することはない、我らの種族は親子の情など持ち合わせておらぬよ。ただここに長い間居続けたせいか──」

 そこで言葉を濁した。どのように表現したものかを決めあぐね、やっとのことで吐き出す。

「そう、この子には愛着があるのだよ」

 トウマはもう緊張せず、目の前の愛する者がいる命に、敬意を評して語りかけた。

「人間は、それを愛って言うんですよ」


「魔物に愛なんて無いさ」


 突然の声にトウマは背後を振り返った。そこには3人の人間が、ズカズカと足を踏み入れる様子が見て取れた。

 一人は如何にも拳に自信がある黒髪短髪のモンク。その目には闘争心が燃え上がっている。
 一人は荘厳で美しい女性の僧侶。その歩く所作一つ一つが繊細で、洗練されている。

 そしてもう一人。
 長い金髪をたなびかせ、甘いマスクと白い歯をキラキラと輝かせている男がいた。男は背中に背負う大きな盾を見せつけてトウマに言った。

「足止めご苦労。後はこのカメオ様の背中に任せな? 少年」

 キラキラギラギラと、暗いのに謎の光を放っている真ん中の男が背負う盾を見て、トウマは正直な感想を述べた。

「カメオっていうか、亀じゃん」

「亀って言うな!」
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