何でも切れる勇者の剣を引き抜いたら右手から離れなくなりました(しかも逆手)

こへへい

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12話 目的が分からないのが一番怖い

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 イクモは魔法が使えない。それは魔力がないのも理由の一つだが、しかしそれ以上に魔法のような小難しいものが苦手だったからだ。
 イクモは苦手だから、拳を握った。己の拳だけを信じることで魔法を使う者を凌駕した。殴って殴って殴りまくった。
 そうして鍛え抜かれた拳は、今や鋼鉄の塊をも砕くことができる。それほどの努力を積み重ねてきた。

 しかし、イクモは悟った。目の前の男が構えているこの剣、この刃、この切っ先を掠めるだけでもヤバイと。命の危機を本能が察知した。

「っく!」

 イクモが両拳を振り降ろす前に、拳の形を崩した。手のひらと手のひらにすることで、地面に垂直に構える刃への直撃をギリギリで回避した。

「一旦引きなさいイクモ!」

 背後から杖を構えて近づいてくるメルが祈りを込めた。メルもトウマの瞬間の移動に危機を察知し、イクモにスピードアップの魔法をかける。イクモが攻撃役だとするなら、メルは僧侶として仲間へのサポートを得意とする。
 その魔法を受けた事で更にスピードでイクモは身を退いた。

「君、何者だ? その剣、一体何なんだ?」

 地面に降り立ったカメオがトウマを見つめる。その目は優男のそれではない、今まで見たことのない得体の知れない何かを見つめる目をしていた。他の二人も同様の目をしている。

「のびのびスライムを守って、一体何が目的なんだ?」

 得体の知れない者が何故恐ろしいのかと言えば、それは狙いが分からないからだ。
 人間なのに魔物を守る異質な存在、そんなトウマは一体何を目的に据えていると言うのだろうか。


「目的? あぁ、こののびのびスライムをテイムして鞘にしようと思ってな」


「……え? なんて?」カメオは表情を硬くする。

「だから、鞘だよ鞘」

「鞘って、あの鞘? 剣の刃を覆うあれ?」

「ああ、そのあれだ。のびのびスライムはこの剣の鞘にぴったりだと思ってね」

(……おぉ、予想以上に斜め下な奴が出て来たな)カメオは言葉を失った。二人とも体が固まっている。勇者は「まぁそういう反応になるわな」と嘆息した。

「いやいや、マジで死活問題なんだってば。この剣が危な過ぎてね。鞘がないといつ誰を間違って切っちゃう分からないからさ」

 そう言って刃を見せるトウマの目は、しかし弛緩する空気を再び締め付けた。彼だけは真剣にのびのびスライムを守っていた。子を思う背後ののびのびスライムを、自分の母と重ねていたから。

「なるほど、良いんじゃ、ない、かな? うん良いと思うよ」

 カメオは苦笑いでお為ごかしをした。

「お前に何が分かるんだ! 右手に剣くっついてから言え!」

 カメオは理不尽な怒りを受けた。その反応にカメオは口角を上げる。

「剣がくっつくか、変な状態になっているね。まさか君、幽霊に取り憑かれていないかい?」

 幽霊!? トウマの背筋が少しだけ凍る。視線だけを勇者に送るが、まだ勇者はカメオの盾を見ていた。

「その反応、図星のようだね。つまり君は剣の呪いに囚われている」

 呪いと言われれば、トウマは確信する。カメオはトウマと同様か、それ以上に呪いについて何かを知っている。縋るように尋ねた。

「何か知ってるのか? どうやったらこれは解けるんだ?」

「そうだねぇ」と愉悦にわずかに細められ、口角がゆっくりと持ち上がった。


「今だメル」


 僧侶のメルが祈りを終え、天の恵みが大地を突き抜けて降り注ぐ。
 その力が杖を持つメルに浴び、杖をカメオに向けた。すると聖なる光が放たれる。トウマは冷や汗をかいた。

「流石はシールドマスター、時間稼ぎはお手の物ってことね」

「そう、仲間が思う存分戦えるようにするために全力を尽くすのが俺の役目さ。だがやろうと思えば俺も戦えるんだぜ?」

 支援魔法を受けた事で、カメオの身体能力は更に向上していた。真っすぐにトウマに駆ける度に、地面がひび割れる。
 そしてトウマにぶつかる瞬間に身体をひねって背中を向けた。ひし形の大きな盾がトウマに迫って来る。イクモが飛び込んできた時と同様に剣の刃で迎え撃つ。

 しかしそこで勇者が声を張り上げた。

「避けろトウマ! その盾にその剣じゃ――!」

 その忠告を聞くことはできたが、トウマは剣の角度をひねるのが精いっぱいだった。
 トウマのイメージはこうだ。突っ込む盾に剣の刃を向けて、カメオの盾を真っ二つにする。もしかしたらカメオも切断してしまうかもしれないが、それはそれで仕方がないと思っていた。
 だが、そのイメージは実現することはなかった。

 カキンッ!
 金属と金属がぶつかる角張った音が響く。その事実にトウマは目を見開いた。

(……切れない!?)

「カウンター! 発動!」

 カメオと叫びと共に背中の盾が光る。瞬時にトウマは、のびのびスライムの一撃を退けたのと同じ能力であると理解する。

「上に逃がせ!」

「言われなくたって!」

 勇者の声と同時に剣を上にいなす。すると盾から放たれた白い砲撃はトウマの頭の上を乗り越えて、洞窟空間の壁に激突した。岩々が崩れていく。
 カメオは確信を持ってトウマの剣を見据えた。

「なるほどな、やはりその剣、そういうことか」

「君の盾も、そういうことなんだね。何でも守れる最強の盾ってことか」

「そう、更にあらゆる衝撃をも跳ね返す。防御は最大の攻撃ってね。次はかわせるかな?」

 身体能力を向上させたカメオが再び臨戦態勢に入る。トウマもまた迎え撃つ覚悟を決めた。
 その時。ゴーレムでも発生させ得なかったほどの大きな衝撃が周囲に響く。

「これは……?」

 トウマとカメオが周囲を見渡していると、メルが叫んだ。

「今すぐここから逃げるのよ! もうすぐこの洞窟が崩れるわ!」
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