与えられた欠陥で、俺は神に復讐する

こへへい

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森の秘宝

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 今、俺とコボ朗は洞窟にいる。洞窟に入るのなんて初めてだから、周囲がゴツゴツとした岩で囲まれている景色や、足音や走っている時の呼吸音が反響するこの状態が新鮮だった。

 小学生の時、動物園の夜行性動物コーナーの建物に入る時も、真っ暗な世界に入ろうとしている事へのワクワクを味わった事があったが、今はリアルな洞窟だ。そのワクワク感がより鮮明に感じられる。

 ちなみに街中で追いかけてきて、気配を消す事を覚えるきっかけとなったライオンはそこの動物園で飼育されている。名前はライちゃんだ。

 まぁそんな思い出に浸る暇は、実はあったりするのだが、今優先すべき事項としては、ライオンではなく一人の女の子から逃げることだ。気配を消そうにも隠れる場所なんてないし、隠れていたら奥にある能転玉が取られてしまう。だから前に走る他なかった。

 それと、コボ朗から発せられる光が役に立った。手で掴み前を照らすお陰で、真っ暗な洞窟の足下の道が確認できる。ヘビとか岩があったら大変だ。転けるかもしれない。

 だがそれは後ろのトウカも同じようで、順調に俺たちに迫ってきている。にも関わらず、あまり追い付かれる様子はない。

 森の中での洞窟までの道のりでは、木々が邪魔したり入り組んだ道のりを利用して逃走していた。相手さんはそれらの障害物をバッサバッサとぶち壊しなぎ倒して進み続けるからある程度の手間があったはずなのに、それでも洞窟手前で追い付かれる程の速さだった。だが今は障害物無しでも、良いかけっこ勝負となっている。ゆえに感傷に浸る余裕があった。

 そんな違和感を抱きながら走っていると、手の中のコボ郎が疑わしき感情を帯びさせて話しかけてきた。

「なぁサツキ君よ」

「は、はい?」

 内容はある程度想像つくのだが、一応しらばっくれておく。っていうかカレンやジニアががっつりと言っていたから、まぁ聞かれてたよな。うん、覚悟はしてた。

「まさか、ここの秘宝取るわけちゃうよな?」

「ま、まさかぁ?後ろの奴にそれをさせないためにこうして守ろうとしているわけでたな...」

 ジトーっと睨むコボ朗の目を素直に見られない。だがコボ朗は核心をついた。

「なら逃げる場所ここじゃない方が良かったよな?何でここに案内したんや?まぁ急いでてわしも文句言う暇なかったけど、守るためにここに逃げてやられたら意味ないやんな?」

「いやー、それは...」

 沈黙。ただ二人の走る足音が響いた。

 ...。

「やっぱり取ろうとしてたんか!」

 発光するフワフワした白い玉が手の中でもごもごしている。弱い、全く痛くない、痛くないけど何か心が痛い...。
 だがもし別ルートを開拓しようものなら、長時間の逃走になるため追い付かれ、普通に潰されていたことだろう。先を見据えての対策だったのだ!うん!

「しょうがないだろ!後ろのあいつに取られると何か悪さするかもしれないじゃないか!それを未然に防ぐための防衛措置だよ!」

「宝取る前提か!よくも騙したな!」

 コボ朗がカンカンに怒っている。手の中でワイワイ言っているのが鬱陶しかった。走りながらコボ朗を摘まみ、前に向けた。

「大人しくしてろ!今追いかけられてるんだから喧嘩してる場合じゃないだろうが!」

「んなもん知るか!いい人のフリして騙しよっ」

 ダッダッダッダッダッダッダッダッ!
 後ろの響く足音がだんだん大きくなってきている。やばい、距離が縮まってきている!

「いやマジで今それどころじゃないから!走るぞ!」

「ちょまっー」

 コボ朗を潰さない程度に拳に力を入れ、両腕を振りながら全力で走った。ちょくちょくコボ朗を前に出すことで、洞窟内を確認する。それを繰り返した。
 そして、

「...あれか?あれだよな?滅茶苦茶それっぽいよな!?」

 走りながら、手を開きコボ朗を解放する。綿が萎んだクッションのように、癖がついた綿毛となっていた。
 コボ郎の光によっておぼろげながら見えてきた。目の前にはそこそこの広さの空間があり、その中心に、扉つきの祠がみえた。山登りをしていたらたまにぽつんと佇んでいそうなやつだ。
 だがここの中に本当にあるのか、下手に触れたら槍が飛んで来るとかいうトラップがあるんじゃないだろうな?コボ郎に聞いてみる。

「なぁ、何か罠はないのか?」

「さぁなぁ、もう教えたらんもん」

「いや、早くしないと...!!!」

 そういえば足音が一瞬途切れたような...ヤバイ!来る!

 コボ朗を掴み左側に飛び込んだ。
 そして後ろにいたトウカが真っ正面に飛び込んでおり、その勢いでその奥の仏壇に向かった。

 ガッシャーン!

 トウカが仏壇っぽいやつをぶっ壊した。いとも容易く粉々である。土煙が巻き上がる中、淡い光が見えた。

 なんて罰当たりな...ってあれ?これは...

 あった。光る玉。どういう原理で光っているのかは分からないが、とにかくあった!能転玉!
 だがその玉をトウカが身を屈んで掴もうとしている。取られる!

「止めろぉ!」

「うっ...!!」

 キィィィィン!と必死の咆哮は洞窟中を反響し耳を叩いた。そのせいか、トウカは思わず能転玉を離し、耳を塞いだ。

 光る玉がカツンカツンと硬い地面に落ち、そして光がまた弱くなった。しめた、良く分からないがチャンスだ!
 歯を食いしばってサツキは地面を蹴り、転がる玉に手を伸ばしたのだが、

「ぐへぇっ!!」

「取らせへんでぇ!精霊パワーなめんな!」

 コボ朗に足を取られてバランスが崩れ転倒。岩の地面に顔面を激突。下手すれば歯が欠けるところだった。
 腕を伸ばす。だがギリギリ届かない。もう一歩前に進まないといけない!
 起き上がる時間を使うよりも、倒れたままほふく前進で前に進む。

 だが俺が転けた隙をつき、トウカが玉を取るためにまた屈んだ。
 俺はそれを見上げた。ホットパンツから見える太もも、屈む事で強調される胸の存在、サラサラとした髪がカーテンのように彼女の顔を覆っている。よく見ると唇が艶っとしてて、

「止めろ!」と止まって欲しい気持ちを、女の子の綺麗な絵が見れた事への感謝が上回った。

「ありがとうございます!」

 思わず感謝の意を示したくて大きく喉を震わせた。そしてまたもや声は洞窟に響き渡り、トウカが怯んで、能転玉へ差し伸べた手を引っ込めて耳を塞ぐ。
 は!違う状況を考えろよ!...ってあれ?また耳を塞いでいる?分からないがチャンスだ!

 コボ朗に引っ張られながらも、必死にほふく前進の如く這いながら右腕を伸ばす。グググッと伸ばし、指に触れた!能転玉を自分の方へ転がし手繰り寄せる。そして掴んだ!

「あ!なに取っとんねん!返せ!」

 コボ朗の声を余所に、光り輝く玉に目を奪われた。眩しいはずなのに、目が離せない。
 これが、能力を与える「能転玉」。意識がだんだん吸いとられる感覚があった。

「ごめんなコボ朗、今の希望はこれしかないんだ」

 右手に収まった玉を握りしめ、強く、強く握りしめた。その度合いによって能転玉の光が強くなるのを感じた。更に強く握る。そして玉の光が身体中に纏われるのを感じた。
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