女神の雫〜ルタルニア編〜

山本 美優

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少年と少女 それぞれの理由

少年と少女5

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 一方、レイリアがヴィモットから古代語を学んでいた頃、ウィリスは珍しく早い時間に帰宅したレイリアの父であり、この屋敷の主人たるファウス=ゼピスを目の前にしていた。

「ファウス様、お忙しい中お時間を頂きありがとうございます」

 ファウスの執務室へと入室し、定形通りの挨拶を交わしたウィリスは、ファウスから応接用のソファに座るよう促された。

「それで、私に頼みたい事があると言う事だったが?」

 そう言いながらファウスは、小さなウィリスが抱えている大きな箱へちらりと視線を向けた。

 その視線を確認したウィリスが、目の前のテーブルへと箱を置く。

「この剣を、手にするに相応ふさわしい方へお譲りしたいのです」

「本気で言っているのか?」

 箱の中身がウィリスの父の形見の剣である事を知っているファウスは、ウィリスの申し出に眉をひそめた。

「はい。ご存知の通り今の僕は剣を持つ事が出来ません。こんな僕がこれ程の名剣を持つのは、宝の持ち腐れ以外の何物でも無いと思います。僕も元は剣士を目指した一人です。だからこそ、この剣は飾りとしてでは無く、それを振るうに相応しい方に手にして頂き、使って頂きたいのです」

「なるほど。もっともな理由だ。だがその剣はグエンの形見だろう?今まで通り、使わずとも父の思い出としてそばに置いておく事を良しとしなくなったのは何故なぜだ?」

 ゼピス邸で暮らし始めてからの約一年半、ウィリスは父親の形見として破邪の剣を大切に保管しており、その所有について何らかの意思を示すような事は無かった。

 それが突然、相応しい他の誰かに譲りたいと言い出した。

 ウィリスの口にした理由付けは元剣士であった者として相応ふさわしいものではあるが、ウィリスという少年が今になってその話を言い出した事に、ファウスは当然ながら違和感を感じた。

 なぜ今になってその話を持ち出すのかと暗に匂わせたファウスから、ウィリスは思わず視線を外してうつむいた。

「それは…」

 一旦言葉を区切ったウィリスが、ファウスにはやはり隠し事は出来ないと諦めて、小さなため息をこぼした。

「レイリアが、最近この剣を譲って欲しいと良く言うようになりました…」

 今のレイリアの剣の腕前は、#贔屓目__ひいきめ__無しになかなか高いと思う。

 このまま鍛錬たんれんを積み続ければ、彼女の願う『王国騎士』にもなれるかもしれない。そうなれば、破邪の剣を持つに相応しい身となるだろう。

 だが、ウィリスはレイリアに剣士として生きて欲しくは無いのだ。

「でも僕は、レイリアにこの剣を渡したくありません。この剣は人の血でけがれ過ぎています。こんなにも穢れた剣をレイリアには渡せません。でも僕が持っている限り、レイリアはきっとこの剣を望み続けるでしょうし、その度に僕も、あの日の事を思い出してしまう…」

 そこまで話したウィリスは、両のてのひらをぐっと握りしめると、ファウスへと顔を上げた。

「結局剣なんて人を殺すことしか出来ないのに、どうしてファウス様はレイリアが剣術を続ける事をお許しになっているのですか?あのレイリアが人を殺すなんて、出来るはずが無いとお分かりでしょう?レイリアは剣士になんて向いていないんです!出来るだけ早く魔術士として生きさせるべきです!」

 人を直接傷つける事しか出来ない剣と違い、魔法ならば人の傷を癒す事も、傷つかないように守る事も出来る。

 人を傷つける事を良しとせず、傷ついた者に寄り添おうとするレイリアは、剣士には向かない。

 それを分かっているからこそ、ウィリスもレイリアの兄も、レイリアの心に傷が付く前に剣の道を諦めてもらいたいと思っていた。

 しかし、レイリアには彼らの思いは全く伝わらず、着々と彼女の剣の腕前は上がっていっている。

 そんな現状をどうにかして欲しいと懇願こんがんするウィリスに、ファウスは一つ頷いた。

「お前の言い分も解るが、レイリアの身の振り方に関しては私も色々と考えている。その上で今はまだ、レイリアには好きな事をさせたいと思っている」

「ファウス様…」

 望む答えがもらえなかったウィリスが、思わず泣き出しそうな顔になった。

 しかし、そんなウィリスを見たファウスは小さく笑うと、腰を上げてウィリスへと手を伸ばした。

「心配するな。あの子もゼピスの人間だ。いずれは自分がどうすべきか分かるだろう」

 ファウスはそう言うと、ウィリスの頭をくしゃくしゃとで付けた。

「取り敢えずこの剣は私が預かっておこう。この事についてレイリアに何か言われたら、私のところへ来る様に伝えなさい」

 ウィリスの頭から手を離したファウスが、テーブルの上の箱を手にして立ち上がる。

 それが話し合い終了の合図だと悟ったウィリスもまたソファから立ち上がると、謝辞と共に退室の挨拶をして部屋を去ったのだった。
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