13 / 62
少年と少女 それぞれの理由
少年と少女12
しおりを挟む
レイリアの兄であるカイは、ノイエール学園の高等部を昨年首席で卒業後、国内の魔術学院の中では最高峰であるリシュラスの魔術学院へと進み、当然の如く首位の成績を維持し続けている優秀な人物だ。
その上、レイリア同様、家柄や血筋を鼻に掛けることもなく人付き合いも上手い事から、社交界での評判もかなり良いらしい。
だがウィリスからすると、このレイリアの兄は昔から何を考えているのか今一つ良くわからない人物だった。
例えば、カイと会話をしていると、こちらの話はどんどん引き出されてしまうのに、カイ自身の話になると、上手くはぐらかされ煙に巻かれてしまうのだ。
この様になかなか本心を掴ませないのがカイという人物なのだが、一つだけ確かなのは、妹のレイリアをとても大切にしているという事だった。
だからこそ、ウィリスもレイリアに関して何かあれば、たまにしか会えないファウスへ知らせるよりも先に、カイへと知らせていた。
そして今日もまた、先程起こった出来事をカイへと伝える事にした。
「あのさ、カイ」
「ん?」
ウィリスの呼びかけに、カイがチラリと顔を向けてきた。
「さっき図書館へ行った時、アトスに絡まれてさ」
「アトスに?それは災難だったな」
カラカラと笑うカイに、ウィリスが眉を顰めた。
「笑い事じゃないよ」
それからウィリスは、図書館での出来事をカイに説明した。
「どう思う?」
「どう思うも何も、それだけの捨て台詞をあいつが吐いていったんだ。何か仕掛けてくるだろうなぁ」
「やっぱり、そう思うよね」
はぁ、っと深く息を吐いたウィリスの頭の上に、カイが手を乗せた。
「まぁ、アトスの事はこっちでも様子を探っておくから、お前はあの跳ねっ返りのお守りだけしっかりやっててくれ」
カイはそう言うと、いつもの様な柔和な顔となり、そして、まるで彼の父親であるファウスの如く、ぐしゃぐしゃと無造作にウィリスの頭を撫でると、一言
「じゃあな」
と言い残し、屋敷の中へと戻っていった。
その後ろ姿を見送りながら、ウィリスは自分のこの家での立ち位置を思い起こす。
約一年半前、死の淵から救い出され、この家へと運び込まれてから暫く経った頃、ファウスからとある提案がなされた。
それは、成人を迎える十六歳までファウスの庇護下で暮らさないかという、信じられない程に有難い話だった。
ただし、この話にはたった一つだけ条件が付ふされていた。
それは、ウィリスが抱いているこの家の少女に対する想いを、本人に悟られてはならない、というものだった。
「レイリアはゼピス侯爵家の娘だ。時が来れば、相応しい男の元へと嫁がせねばならない。その前に、万が一にもお前とレイリアの間に過ちが起ころうものなら、私は迷わずお前を消すだろう。だが、そうなる事を私は望んではいないのだ。分かってくれ、ウィリス」
命の恩人とも言えるファウスにそう言われたウィリスは、生きると決めた以上、この申し出を受け入れるしか無かった。
だが、この条件はあくまでもウィリスが成人するまでのものであり、カイの過激な言葉を借りるならば、成人した日に押し倒すなりして無理矢理結婚を承諾させても、誓約違反にはならないのだ。
とは言え、流石にカイの言うような事を実行する勇気は無いが、いずれはきちんと気持ちを伝えるつもりではいる。
しかし、レイリアへは今までの短い人生で二度も結婚を申し込み、その度にウィリスはあっさりと断られていた。
フロディア教には『三度拒まれた者との縁は無い』という言い伝えがあり、信徒であるウィリスもこの言葉を信じているため、次が最後の機会となる。
(もう次に断られたら終わりだ…。だから、レイリアが絶対好きになってくれるような男になってから、三度目の結婚を申し込みに行かないと!)
そんな決意をウィリスが己の小さな胸に秘めたのは、かれこれ四年も前の事であり、その期日が今更成人以降になっただけだと思えば、そう辛く感じる事も無かった。
だが問題は、ウィリスを選んでもらう前に、レイリアの結婚相手が決まる事。
(アトスとの話は、絶対潰す…)
ドス黒い野望と共に、これからどうやってアトスをレイリアに近づけない様にしていくかを考えていると、ウィリスを叫ぶ様に呼ぶセラの声が耳に入ってきた。
「ウィリス!」
その声に振り向くと、ウィリスに向かって剣が回転しながら飛んできている。
恐らくセラに弾き飛ばされたレイリアの剣だろう。このままだと当たるだろうから、早く避けなければ。
と、そこまで状況を冷静に分析していたウィリスの心の奥底で、何者かの低い声が鳴り響く。
『ココデ シンデモ ヨイデハ ナイカ』
と…。
その瞬間、ウィリスの手も、足も、体も、何もかもが動かなくなり、見る間に剣がウィリスへと近づいてきた。
(まずい!)
ウィリスはそう思うものの、今いるこの場所から逃げ出す事も出来ず、自分めがけて飛んでくる剣を、ただ唖然と見つめたまま立ち尽くすしかなかった。
「ウィリスー!」
セラの声が響く中、もう一つの声が響く。
「ファーナ!」
少女の甲高い声と共に、ウィリスの周りに疾風が巻き起こる。
その風に巻き込まれた剣は宙を舞い、そしてウィリスから離れた所へと落下した。
呆然としながら落ちた剣を見つめるウィリスの元へ、レイリアとセラが駆け寄ってきた。
「ウィリス、大丈夫?」
「ウィル、平気?」
覗き込んできた水色の大きな瞳が、やけにぼやけて見える。
「どうして…」
その一言を口にすると、ウィリスは意識を失い、その場に倒れ込んでしまった。
その上、レイリア同様、家柄や血筋を鼻に掛けることもなく人付き合いも上手い事から、社交界での評判もかなり良いらしい。
だがウィリスからすると、このレイリアの兄は昔から何を考えているのか今一つ良くわからない人物だった。
例えば、カイと会話をしていると、こちらの話はどんどん引き出されてしまうのに、カイ自身の話になると、上手くはぐらかされ煙に巻かれてしまうのだ。
この様になかなか本心を掴ませないのがカイという人物なのだが、一つだけ確かなのは、妹のレイリアをとても大切にしているという事だった。
だからこそ、ウィリスもレイリアに関して何かあれば、たまにしか会えないファウスへ知らせるよりも先に、カイへと知らせていた。
そして今日もまた、先程起こった出来事をカイへと伝える事にした。
「あのさ、カイ」
「ん?」
ウィリスの呼びかけに、カイがチラリと顔を向けてきた。
「さっき図書館へ行った時、アトスに絡まれてさ」
「アトスに?それは災難だったな」
カラカラと笑うカイに、ウィリスが眉を顰めた。
「笑い事じゃないよ」
それからウィリスは、図書館での出来事をカイに説明した。
「どう思う?」
「どう思うも何も、それだけの捨て台詞をあいつが吐いていったんだ。何か仕掛けてくるだろうなぁ」
「やっぱり、そう思うよね」
はぁ、っと深く息を吐いたウィリスの頭の上に、カイが手を乗せた。
「まぁ、アトスの事はこっちでも様子を探っておくから、お前はあの跳ねっ返りのお守りだけしっかりやっててくれ」
カイはそう言うと、いつもの様な柔和な顔となり、そして、まるで彼の父親であるファウスの如く、ぐしゃぐしゃと無造作にウィリスの頭を撫でると、一言
「じゃあな」
と言い残し、屋敷の中へと戻っていった。
その後ろ姿を見送りながら、ウィリスは自分のこの家での立ち位置を思い起こす。
約一年半前、死の淵から救い出され、この家へと運び込まれてから暫く経った頃、ファウスからとある提案がなされた。
それは、成人を迎える十六歳までファウスの庇護下で暮らさないかという、信じられない程に有難い話だった。
ただし、この話にはたった一つだけ条件が付ふされていた。
それは、ウィリスが抱いているこの家の少女に対する想いを、本人に悟られてはならない、というものだった。
「レイリアはゼピス侯爵家の娘だ。時が来れば、相応しい男の元へと嫁がせねばならない。その前に、万が一にもお前とレイリアの間に過ちが起ころうものなら、私は迷わずお前を消すだろう。だが、そうなる事を私は望んではいないのだ。分かってくれ、ウィリス」
命の恩人とも言えるファウスにそう言われたウィリスは、生きると決めた以上、この申し出を受け入れるしか無かった。
だが、この条件はあくまでもウィリスが成人するまでのものであり、カイの過激な言葉を借りるならば、成人した日に押し倒すなりして無理矢理結婚を承諾させても、誓約違反にはならないのだ。
とは言え、流石にカイの言うような事を実行する勇気は無いが、いずれはきちんと気持ちを伝えるつもりではいる。
しかし、レイリアへは今までの短い人生で二度も結婚を申し込み、その度にウィリスはあっさりと断られていた。
フロディア教には『三度拒まれた者との縁は無い』という言い伝えがあり、信徒であるウィリスもこの言葉を信じているため、次が最後の機会となる。
(もう次に断られたら終わりだ…。だから、レイリアが絶対好きになってくれるような男になってから、三度目の結婚を申し込みに行かないと!)
そんな決意をウィリスが己の小さな胸に秘めたのは、かれこれ四年も前の事であり、その期日が今更成人以降になっただけだと思えば、そう辛く感じる事も無かった。
だが問題は、ウィリスを選んでもらう前に、レイリアの結婚相手が決まる事。
(アトスとの話は、絶対潰す…)
ドス黒い野望と共に、これからどうやってアトスをレイリアに近づけない様にしていくかを考えていると、ウィリスを叫ぶ様に呼ぶセラの声が耳に入ってきた。
「ウィリス!」
その声に振り向くと、ウィリスに向かって剣が回転しながら飛んできている。
恐らくセラに弾き飛ばされたレイリアの剣だろう。このままだと当たるだろうから、早く避けなければ。
と、そこまで状況を冷静に分析していたウィリスの心の奥底で、何者かの低い声が鳴り響く。
『ココデ シンデモ ヨイデハ ナイカ』
と…。
その瞬間、ウィリスの手も、足も、体も、何もかもが動かなくなり、見る間に剣がウィリスへと近づいてきた。
(まずい!)
ウィリスはそう思うものの、今いるこの場所から逃げ出す事も出来ず、自分めがけて飛んでくる剣を、ただ唖然と見つめたまま立ち尽くすしかなかった。
「ウィリスー!」
セラの声が響く中、もう一つの声が響く。
「ファーナ!」
少女の甲高い声と共に、ウィリスの周りに疾風が巻き起こる。
その風に巻き込まれた剣は宙を舞い、そしてウィリスから離れた所へと落下した。
呆然としながら落ちた剣を見つめるウィリスの元へ、レイリアとセラが駆け寄ってきた。
「ウィリス、大丈夫?」
「ウィル、平気?」
覗き込んできた水色の大きな瞳が、やけにぼやけて見える。
「どうして…」
その一言を口にすると、ウィリスは意識を失い、その場に倒れ込んでしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる