女神の雫〜ルタルニア編〜

山本 美優

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少年と少女 それぞれの理由

少年の怒り12

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 耳には男達の怒声と剣戟けんげきの音が響き、体には時々放たれる魔法による魔力の波動を感じる中、レイリアは必死に考えた。

 逃げるか、ここに残るか。

 ここに残ったとして、自分に何が出来るだろう?

 手元には剣も無く、まともに使える魔法は風を操るファーナと、低級単体回復魔法のウィアだけ。しかもウィアは怪我の部位に近付かなければ発動出来ないため、もし今アトス達が怪我をしたとしてもそばへ行って治す事は難しい。

 つまり、ここに残ったとしてもレイリアに出来る事は何もない。

 ならば逃げて守備隊を呼びに行く方が良いだろう。

 そう結論付けたレイリアが、厳しい表情を浮かべているウィリスへと告げた。

「取り敢えず、ここから出て守備隊を呼びに行きたい」
「分かった」

 コクリと頷いたウィリスが、再びアトス達の様子をうかがうと、その顔が歪んだ。

「アトスの従者がやられた」
「嘘!?」

 驚いたレイリアが、ウィリスがのぞいている荷物の隙間すきまに顔を割り込ませた。

「ほんとだ…」

 レイリアの目に、床に倒れているホーデスが映った。しかもその位置は、護衛剣士の背にかばわれる様にして立つアトスから少し離れている。アトスが上級魔法を使えるならば、離れた所にいる者に対しても回復魔法が使えるのだが、恐らくアトスはそこまでの能力が無いのだろう。

(兄様や父様なら、ホーデスさんを助けられるのに…)

 小さく拳を握ったレイリアへ、ウィリスの緊迫きんぱくした小声が届く。

「今ならまだあいつらの注意がアトス達に向いてる。逃げるなら、今のうちだよ」
「うん…」

 うつむきがちに小さく頷いたレイリアの右手を、ウィリスが掴んだ。

「アトス達を置いていく事にレイリアが罪悪感を感じる必要は無いよ!さっきも言ったけど、僕らは巻き込まれた被害者なんだからさ。ほら、行くよ!」

 ウィリスがレイリアを連れて入り口方面へと駆け出そうとした正まさにその時、頭の上から男の声が降ってきた。

「悪いがお前らを見逃すって訳にはいかねぇんだよ」

 木箱の上から二人の前に飛び降りてきたのは、入り口にいた水色の髪と茶色の瞳の男。

「何かでっかい音がしたから見に来てみりゃ、随分と好き放題してくれてるじゃねぇか」

 男はシャーっという金属がれる音をさせて剣をさやから抜くと、レイリアとウィリスへと近づいてきた。

「私達じゃないわよ!アトスが勝手にやってる事で、私達は関係無いわ!一緒にしないで!」

 何もしていないにも関わらず、自分達まで戦いに加わっていたかの様に言われたレイリアが、つい反論してしまう。

「一緒にしないでと言われてもなぁ。はいそうですか、って訳にはいかねぇんだよ。お前ら二人もあいつらと一緒にここに来た訳だしよぉ」

 レイリアの主張は当然ながら受け入れてもらえず、男に剣を向けられた二人はジリジリと荷物の壁へと追いやられた。

「取り敢えず、お前ら二人はそこで大人しくしてろ。刃向かわなけりゃ、命までは取らねぇでやるからよ」
「命を取らない代わりに、何をするつもりだ?」

 睨み付けながら問うウィリスに、男はニタリと笑った。

「お前もそっちの嬢ちゃんも、かなりいい所のお子様だろ?身代金を頂くってのも有りだし、お前ら二人ともなかなかの見た目だ。そのまま売っぱらっちまってもいいなぁ」

 男の答えに対して、レイリアがウィリスの一歩前に出た。
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