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少年と少女 それぞれの理由
少年の理由〜グレナ伯爵一家殺害事件〜2
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そんなレイリアの後ろ姿をいつまでも見送っていると、セラがウィリスのベッド脇の椅子へと腰を下ろした。
「さてと。ウィリス、あなたは魔法で眠っていただけで特にどこも悪く無いから、ゼピス家からの迎えが来たらそのまま帰って良いわよ。ただ、明日には事情を聞きに伺う予定だから、その時はよろしく」
「レイリアは?」
「一泊二日でここにお泊まりの予定」
「入院ですか?」
「えぇ。さっきも言った通り、傷自体は本人の魔法でほとんど治っているのだけれど、一応あの子も侯爵家の令嬢だから万が一を考えてね」
「アトスは?」
「アトス様もここに入院しているわ。命に別状は無いのだけれど、アトス様はレイリアより出血が酷かったから、明日帰れるっていう訳にはいかなさそう。それより問題は、ファルムエイド家の従者の方かたよ。かなりの重傷で、危険な状態みたいだから」
そう言うと、セラは小さな吐息といきを零した。
「そうですか…」
俯いたウィリスの脳裏に、倒れていたアトスの従者の姿が浮かぶ。
顔見知り程度の仲とはいえ、一応は知り合いだ。助かれば良いのだが、とウィリスが思っていた時だった。
「ねぇ、ウィリス」
暫しの沈黙の後に、セラが静かに口を開いた。
「あなた、どうしてあの子が傷つく前に、剣で戦わなかったの?」
射る様な眼差しを向けるセラに、ウィリスがたじろぐ。
「え…」
「レイリアとは少し話をしたんだけれど、あの子、あの場所では魔法で戦っていたから剣は使っていないって言うのよ。しかもあの子が意識を失うまで、あなたは剣に触れてもいなかったって言うじゃない。なのにあなたの近くで大火傷を負っていた男も、あなたが剣を向けていた男も、どちらも剣による斬り傷を負っていたし、私があなたを見つけた時、あなたは剣を持っていた。これってつまり、あなたがあの二人と戦ったって事でしょ?それも、レイリアが意識を失った後に」
「………」
「正直驚いているのよ。あなたがお父様に小さな頃から剣術の英才教育を受けていたっていうのはレイリアから聞いていたけれど、魔術士と剣士を相手にするだけの力があるなんて、流石に知らなかったから」
「………」
「あれ程の腕前があるのなら、レイリアが傷つく前になんとか出来たのではなくて?」
無言のまま目を逸そらすウィリスに、セラが更に問いかける。
「あなた、レイリアの事が好きなんじゃなかったの?好きならちゃんと守ってあげなさいよ。それだけの剣の腕を持っているのだから。それとも私の壮大な勘違いだったのかしら?」
セラの言葉が胸に突き刺さり、知らず知らずのうちに、ウィリスは手元の上掛けを握りしめた。
「グレナで起こった事件の事は良く知らないわ。でもね、何年も前の出来事に引き摺ずられて今まで剣が怖いだの何だの散々言って剣を手にしなかったくせに、結局自分の身が危なくなったら剣を手にするような、そんな自分の事しか考えられない男にあの子は任せられないのよ!」
「違うっ!」
否定の言葉を叫んだウィリスの目に、再び涙が滲む。
「違う…。そんなんじゃ、無い…」
「だったらどうしてレイリアを守らなかったの?どうしてもっと早く剣を手に取らなかったの?」
「それは…」
それは、 怖かったから…。
あの日の自分が再び現れる事が…。
そして、あの日の自分を知ったレイリアに、拒絶される事が…。
だが、拒絶される恐怖よりも、失う恐怖の方が大きいのだという、そんな当たり前の事をウィリスは今回の事で思い出したのだ。
だからこそ、乗り越えなければならないのだ、あの日を…。
そうしなければ、いざという時大切な少女を守れないどころか、失いかねない。
『ウィルが望む限り、ずっとそばにいてあげる』
そう約束してくれた少女の存在があったからこそ、今のウィリスは生きている。
その少女がいない世界に、ウィリスが生きる意味は無い。
ならば、自分がすべき事は一つだけ。
自分の中で、やっと決断を下したウィリスが、重い口を開いた。
「僕だって、レイリアを守りたかった…。
でも僕は、剣を持った自分が、自分で無くなるのが怖くて…」
「どういう事?」
訝しむセラに、ウィリスが静かに語り出す。
「あの日、僕は…」
「さてと。ウィリス、あなたは魔法で眠っていただけで特にどこも悪く無いから、ゼピス家からの迎えが来たらそのまま帰って良いわよ。ただ、明日には事情を聞きに伺う予定だから、その時はよろしく」
「レイリアは?」
「一泊二日でここにお泊まりの予定」
「入院ですか?」
「えぇ。さっきも言った通り、傷自体は本人の魔法でほとんど治っているのだけれど、一応あの子も侯爵家の令嬢だから万が一を考えてね」
「アトスは?」
「アトス様もここに入院しているわ。命に別状は無いのだけれど、アトス様はレイリアより出血が酷かったから、明日帰れるっていう訳にはいかなさそう。それより問題は、ファルムエイド家の従者の方かたよ。かなりの重傷で、危険な状態みたいだから」
そう言うと、セラは小さな吐息といきを零した。
「そうですか…」
俯いたウィリスの脳裏に、倒れていたアトスの従者の姿が浮かぶ。
顔見知り程度の仲とはいえ、一応は知り合いだ。助かれば良いのだが、とウィリスが思っていた時だった。
「ねぇ、ウィリス」
暫しの沈黙の後に、セラが静かに口を開いた。
「あなた、どうしてあの子が傷つく前に、剣で戦わなかったの?」
射る様な眼差しを向けるセラに、ウィリスがたじろぐ。
「え…」
「レイリアとは少し話をしたんだけれど、あの子、あの場所では魔法で戦っていたから剣は使っていないって言うのよ。しかもあの子が意識を失うまで、あなたは剣に触れてもいなかったって言うじゃない。なのにあなたの近くで大火傷を負っていた男も、あなたが剣を向けていた男も、どちらも剣による斬り傷を負っていたし、私があなたを見つけた時、あなたは剣を持っていた。これってつまり、あなたがあの二人と戦ったって事でしょ?それも、レイリアが意識を失った後に」
「………」
「正直驚いているのよ。あなたがお父様に小さな頃から剣術の英才教育を受けていたっていうのはレイリアから聞いていたけれど、魔術士と剣士を相手にするだけの力があるなんて、流石に知らなかったから」
「………」
「あれ程の腕前があるのなら、レイリアが傷つく前になんとか出来たのではなくて?」
無言のまま目を逸そらすウィリスに、セラが更に問いかける。
「あなた、レイリアの事が好きなんじゃなかったの?好きならちゃんと守ってあげなさいよ。それだけの剣の腕を持っているのだから。それとも私の壮大な勘違いだったのかしら?」
セラの言葉が胸に突き刺さり、知らず知らずのうちに、ウィリスは手元の上掛けを握りしめた。
「グレナで起こった事件の事は良く知らないわ。でもね、何年も前の出来事に引き摺ずられて今まで剣が怖いだの何だの散々言って剣を手にしなかったくせに、結局自分の身が危なくなったら剣を手にするような、そんな自分の事しか考えられない男にあの子は任せられないのよ!」
「違うっ!」
否定の言葉を叫んだウィリスの目に、再び涙が滲む。
「違う…。そんなんじゃ、無い…」
「だったらどうしてレイリアを守らなかったの?どうしてもっと早く剣を手に取らなかったの?」
「それは…」
それは、 怖かったから…。
あの日の自分が再び現れる事が…。
そして、あの日の自分を知ったレイリアに、拒絶される事が…。
だが、拒絶される恐怖よりも、失う恐怖の方が大きいのだという、そんな当たり前の事をウィリスは今回の事で思い出したのだ。
だからこそ、乗り越えなければならないのだ、あの日を…。
そうしなければ、いざという時大切な少女を守れないどころか、失いかねない。
『ウィルが望む限り、ずっとそばにいてあげる』
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ならば、自分がすべき事は一つだけ。
自分の中で、やっと決断を下したウィリスが、重い口を開いた。
「僕だって、レイリアを守りたかった…。
でも僕は、剣を持った自分が、自分で無くなるのが怖くて…」
「どういう事?」
訝しむセラに、ウィリスが静かに語り出す。
「あの日、僕は…」
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