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第一章
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センパイは暫く黙りこくった後俺に問う。
「じゃ、結局霊を祓うことはできないのか?」
顰められた顔に、にっと笑ってみせるとセンパイは虚をつかれたような表情をする。
「祓えますよ。何回言わせるんですか。幽霊を祓うよりも人一人消す方が簡単。人を消すことが不可能でないように、幽霊を祓うこともまた、不可能ではありません」
「お前の言葉はやけに回りくどい」
苦々しそうに言われた言葉に苦笑する。
「すみません。日頃意識的に煙に巻くように話しているので。癖になっちゃってるみたいです」
「なんでそんなことを」
「答える義理がありますか?」
言葉を飲み込む素振りを見せたセンパイに、軽く片眉を上げてみせる。
「意地悪言いました。忘れてください」
「あ、ああ」
空気をとりなすようにパンパンと二回手を打つ。
「第三回、幽霊お悩み相談室~!」
「いぇーい」
俺に合わせて手をパチパチと叩く幽霊とマーサ。センパイは突然のテンションの落差に付いていけずにあわあわとしている。
「第一回と第二回はいつやったんだ?」
「やってませんよ、そんなもん」
「意味が分からない……」
頭を抱えているセンパイは放って、俺たちは円の形に座る。無論、センパイには俺しか見えないのでそんなことは伝わらない。
「センパイ、参加するんですかしないんですか」
「……するぅ……」
「情けない声出さないでくださいよ。あ、そこ先客います。そこも座ってるから俺の横に座ってください」
「先客多いな……」
「二人だけですよ。ね?」
二人に相槌を求めると調子のいい二人はそうだそうだと叫ぶ。これもセンパイには伝わらない。残念なことに。
「じゃ、まずレディ。あなたはどうして現世に留まってるんです?」
「いきなり切りこんでくなぁ……」
「他にどうしろと。今日の天気はいいですね?」
「雨なんだが」
「知ってますけど」
センパイを適当にいなし、幽霊に話を訊く。まとめると、こうだった。
数十年前、まだ学生だった彼女はこの学校の先生と内緒で付き合っていた。婚約の約束もしていたようだ。しかし先生との関係が親にばれ、二人は別れなければならなくなった。悲しみに暮れた彼女に、先生は婚約指輪をプレゼントした。そして彼はそのまま転勤。赴任先を知ることもできず、二人はそのまま会うことがなかったという。レディは気鬱だろうか、みるみるうちに衰弱し亡くなったという。
「私、その折角いただいた指輪を失くしてしまったの。大切な、大切なものだったのに失くしてしまって。私、よくここの教室を訪れていたからきっとここにあると思うの。でも、何十年も探しているのに見つからないの」
シクシクと泣きだしたレディ。話を聞いた俺はうーんと考え込む。
「レディ。数十年前って、具体的に何年前ですか?」
「そうね。九十年くらいかしら」
「なるほど。じゃ、確実に死んでますね」
「そうなの。でも、会えないの」
再びシクシクと泣きだしたレディに声を掛ける。
「レディ。もしかしたら彼に会えるかもしれませんよ」
「本当に?」
「ええ。彼がただの迷子ならね」
茶化してみせるとレディはクスリと楽しそうに笑う。
「いいわ。彼が迷子なら迎えにいってあげなくちゃ」
「それはそれは。頼もしいことですね」
「でしょう?」
胸を反ってみせるレディの手に、俺はそっと自分の手を重ねる。人の触れる感覚に、レディは目を見開いた。
「あなた、これ……」
「シー。俺たちだけの秘密ですよ。彼にバレたら面倒だ」
手を繋いだところからレディの思い出が流れ込んでくる。流れ星がいくつも飛び交うかのように、俺とレディの手をいくつもの光が渡り、踊った。胸部を圧迫されるかのような息苦しさを感じ、俺は浅く息を吐く。
「──来い」
ぶわり、風が俺たちの周りを薙ぎ払う。風はとぐろを巻き、やがてレディを抱きしめるかのように優しく収束した。
「先生っ!」
「待たせたね、薫」
「本当です」
レディはそっと男の背に手を伸ばし抱きしめ返す。男は嬉しそうに笑み、ポケットからごそごそと折りたたまれたハンカチを取り出した。
「これを君に渡そうと思って」
「なんですか?」
「開けてみて」
レディは不思議そうにハンカチを開いていく。中には指輪が入っていた。
「指輪……?」
「あぁ。結婚指輪。結局渡せなかったから。でもちゃんと準備していたんだ」
「まぁ……!」
喜びに口元を抑えるレディに、男は跪く。
「薫。僕と結婚してくれませんか」
「ええ、ええ……! よろこんで!」
するり、左手の薬指に指輪がさしこまれる。レディの目には淡く涙が浮かんでいた。
二人は指を絡め見つめあう。足元からは光が広がっていた。成仏するのだ。
「ありがとう、少年。お陰で薫に会えた」
「ありがとう、感謝しているわ」
「……もう迷子にならないでくださいね」
壁にもたれかかりへらりと笑う俺に、男は苦笑する。
「約束する」
「……俺に約束してどうするんですか。レディにもう離さないとでも約束してください。俺はそれで充分です」
「……あぁ」
しっしと手を払う俺に、二人は微笑んだ。
「じゃ、お幸せに」
「あなたもね」
返された言葉に眉を寄せる。約束できる自信はなかった。
「……頑張ります」
俺の曖昧な言葉に、二人は微笑む。それきり姿は見えなくなった。
「じゃ、結局霊を祓うことはできないのか?」
顰められた顔に、にっと笑ってみせるとセンパイは虚をつかれたような表情をする。
「祓えますよ。何回言わせるんですか。幽霊を祓うよりも人一人消す方が簡単。人を消すことが不可能でないように、幽霊を祓うこともまた、不可能ではありません」
「お前の言葉はやけに回りくどい」
苦々しそうに言われた言葉に苦笑する。
「すみません。日頃意識的に煙に巻くように話しているので。癖になっちゃってるみたいです」
「なんでそんなことを」
「答える義理がありますか?」
言葉を飲み込む素振りを見せたセンパイに、軽く片眉を上げてみせる。
「意地悪言いました。忘れてください」
「あ、ああ」
空気をとりなすようにパンパンと二回手を打つ。
「第三回、幽霊お悩み相談室~!」
「いぇーい」
俺に合わせて手をパチパチと叩く幽霊とマーサ。センパイは突然のテンションの落差に付いていけずにあわあわとしている。
「第一回と第二回はいつやったんだ?」
「やってませんよ、そんなもん」
「意味が分からない……」
頭を抱えているセンパイは放って、俺たちは円の形に座る。無論、センパイには俺しか見えないのでそんなことは伝わらない。
「センパイ、参加するんですかしないんですか」
「……するぅ……」
「情けない声出さないでくださいよ。あ、そこ先客います。そこも座ってるから俺の横に座ってください」
「先客多いな……」
「二人だけですよ。ね?」
二人に相槌を求めると調子のいい二人はそうだそうだと叫ぶ。これもセンパイには伝わらない。残念なことに。
「じゃ、まずレディ。あなたはどうして現世に留まってるんです?」
「いきなり切りこんでくなぁ……」
「他にどうしろと。今日の天気はいいですね?」
「雨なんだが」
「知ってますけど」
センパイを適当にいなし、幽霊に話を訊く。まとめると、こうだった。
数十年前、まだ学生だった彼女はこの学校の先生と内緒で付き合っていた。婚約の約束もしていたようだ。しかし先生との関係が親にばれ、二人は別れなければならなくなった。悲しみに暮れた彼女に、先生は婚約指輪をプレゼントした。そして彼はそのまま転勤。赴任先を知ることもできず、二人はそのまま会うことがなかったという。レディは気鬱だろうか、みるみるうちに衰弱し亡くなったという。
「私、その折角いただいた指輪を失くしてしまったの。大切な、大切なものだったのに失くしてしまって。私、よくここの教室を訪れていたからきっとここにあると思うの。でも、何十年も探しているのに見つからないの」
シクシクと泣きだしたレディ。話を聞いた俺はうーんと考え込む。
「レディ。数十年前って、具体的に何年前ですか?」
「そうね。九十年くらいかしら」
「なるほど。じゃ、確実に死んでますね」
「そうなの。でも、会えないの」
再びシクシクと泣きだしたレディに声を掛ける。
「レディ。もしかしたら彼に会えるかもしれませんよ」
「本当に?」
「ええ。彼がただの迷子ならね」
茶化してみせるとレディはクスリと楽しそうに笑う。
「いいわ。彼が迷子なら迎えにいってあげなくちゃ」
「それはそれは。頼もしいことですね」
「でしょう?」
胸を反ってみせるレディの手に、俺はそっと自分の手を重ねる。人の触れる感覚に、レディは目を見開いた。
「あなた、これ……」
「シー。俺たちだけの秘密ですよ。彼にバレたら面倒だ」
手を繋いだところからレディの思い出が流れ込んでくる。流れ星がいくつも飛び交うかのように、俺とレディの手をいくつもの光が渡り、踊った。胸部を圧迫されるかのような息苦しさを感じ、俺は浅く息を吐く。
「──来い」
ぶわり、風が俺たちの周りを薙ぎ払う。風はとぐろを巻き、やがてレディを抱きしめるかのように優しく収束した。
「先生っ!」
「待たせたね、薫」
「本当です」
レディはそっと男の背に手を伸ばし抱きしめ返す。男は嬉しそうに笑み、ポケットからごそごそと折りたたまれたハンカチを取り出した。
「これを君に渡そうと思って」
「なんですか?」
「開けてみて」
レディは不思議そうにハンカチを開いていく。中には指輪が入っていた。
「指輪……?」
「あぁ。結婚指輪。結局渡せなかったから。でもちゃんと準備していたんだ」
「まぁ……!」
喜びに口元を抑えるレディに、男は跪く。
「薫。僕と結婚してくれませんか」
「ええ、ええ……! よろこんで!」
するり、左手の薬指に指輪がさしこまれる。レディの目には淡く涙が浮かんでいた。
二人は指を絡め見つめあう。足元からは光が広がっていた。成仏するのだ。
「ありがとう、少年。お陰で薫に会えた」
「ありがとう、感謝しているわ」
「……もう迷子にならないでくださいね」
壁にもたれかかりへらりと笑う俺に、男は苦笑する。
「約束する」
「……俺に約束してどうするんですか。レディにもう離さないとでも約束してください。俺はそれで充分です」
「……あぁ」
しっしと手を払う俺に、二人は微笑んだ。
「じゃ、お幸せに」
「あなたもね」
返された言葉に眉を寄せる。約束できる自信はなかった。
「……頑張ります」
俺の曖昧な言葉に、二人は微笑む。それきり姿は見えなくなった。
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