盛り塩一丁! ~風紀委員長×霊感もち高校生~

猫村やなぎ

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第一章

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 放送で呼び出された俺は風紀室にいた。呼び出したセンパイはというと、奥の執務机の椅子にどっかりと偉そうに腰を掛けていた。

「さて諸君。仕事だ」
「俺しかいないんですが」
「マーサもいるんだろう。ほら、右肩の方に」
「残念、今は天井の方です」

 キスで霊が見えるようになった先輩だが、二時間もすると見えなくなったらしい。日を跨いだ今日となってはもうすっかり見えないようで、今もマーサがどこにいるのかてんで分かっていないようだ。

「心霊現象相談ポスト、略して資源ポストにこんなものが入っていた」
「ツッコミどころありすぎません?」
「内容はだな、」
「無視ですか」

 センパイの話した内容をまとめるとこうだった。夜になると音楽室からピアノの音が聞こえる。不気味で仕方ないから調査してくれ。俺に言わせてみると、そんなものピアノの音源が学校の音楽室というから不気味に感じるのだ。大抵の人は夜中にピアノの演奏を聞いたならば「まったく迷惑だ、隣の家だろうか」と考えるのが関の山ではないだろうか。というかそもそも何で夜中に学校にいるのだ。霊よりも寧ろそっちの方が問題ではないだろうか。

「センパイ、この学校ってそんなに簡単に侵入できちゃうんですか」
「本校舎は難しいだろうがピアノがあるのはセキュリティの手薄な旧校舎の方だ。不可能ではないんじゃないか?」

 なるほど。

「で、センパイはどうやって解決するんですか」
「何はともあれこういうのは現場だろ? 昼間だけど霊はいるはずだ」

 そりゃま確かに。正論である。




 音楽室は埃っぽい教室だった。高校生にもなると音楽は選択制だ。あまり使用しないのが原因かもしれなかった。

「あら、どなた?」

 よく通る声に、初めて女性の存在に気が付く。二十代中ごろ。スーツを着ている。新任の先生だろうか。音楽系の部活の顧問かもしれない。

「あの、すみません。風紀の者ですが。もしかしてここ、今から部活で使ったりしますか?」
「あなたが風紀……? どちらかというと取り締まられる側に見えるのだけれど」
「ええ、まぁ、そうですね。割と取り締まられています」

 率直な言葉に苦笑すると、センパイはちょいちょいと俺の脇腹をつつく。なんだ、痛い。

「魚沼、そこに霊がいるのか?」

 センパイの声にびくりと背筋が凍る。まさか。女性の方に向き直ると、少し悲しそうに微笑まれる。

「……幽霊だったんですね」
「分からなかったのね」

 驚いた顔を見せる女性とセンパイ。苦笑し、答える。

「見えすぎるもので分からないんですよね。宙に浮いてたり、明らかに瀕死状態だったりすると分かりやすいんですが」
「そう。ごめんなさい、勘違いさせちゃったみたい」
「いえ。それなりにあることです。仕方ありません」

 センパイは何とも言えない顔でこちらを見ている。

「……何ですか。幽霊の姿、見たいんですか」

 センパイは俺の言葉にくわっと目を見開き、勢いよく後ずさる。

「いやっ! いらない! いらないぞ!?」
「あ、そうですか。別に俺は構わないですけどね」
「俺が構うんだよ……」

 案外潔癖なのだろうか。あれくらい気にすることないのに。クスクスと笑う俺を女性は不思議そうに見ている。

「気にしないでください。あの人少し神経質なんです」
「正直、いきなりあれをやられてキレてない先輩は、かなり人がいいと思うけどな」

 先程まで自由に出歩いていたマーサが不意に俺の横から顔を出す。まぁ確かに、言われてみればそうかもしれない。人によっては怒りだしても仕方のないことだった。謝る気なんてさらさらないが。

「勝手なこと言うな……誰が神経質だ」

 センパイが嫌そうに苦言を呈す。聞こえないフリでやりすごす。

「本来の目的を果たしましょうか。……先生、で合ってますか?」
「ええ。合ってるわ」
「では先生。夜中にピアノを演奏しているのはあなたですか?」

 センパイがあ、と口を開ける。あの野郎、本来の目的を忘れていやがったな。

「そうよ」

 聞き取りやすい声が質問を肯定する。

「ふぅむ……第五回~幽霊お悩み相談室~」

 いぇーい、と高らかに拳を掲げるマーサ。女性は戸惑いつつも一緒に拳を掲げる。お付き合いいただいてしまってすみません。

「なぁ魚沼。愚問であることを承知で訊くが第四回はいつやったんだ?」
「やってませんよ、そんなもん」

 何回同じやり取りをさせるんだこの人。

「先生、演奏してる理由を聞いても?」
「大した理由はないわ。……私、音楽の先生になりたかったの」
「なれなかったんですか?」
「なれたわ。すぐに死んじゃったけどね」

 苦笑いをする女性に、軽く頭を下げる。これでせめてもの謝意が伝わればいいのだが。

「私、死んだ次の日から授業を受け持つはずだったのよ。それで、夜遅くになるまで一生懸命ピアノの練習をしたわ。緊張しても指だけはちゃんと動くように。それで、気が付いたらこのざまよ。心疾患だったかしら」

 女性は鍵盤をするりと撫でる。それでか。ずっと不思議だったのだ。人や物に触れることのできない幽霊が、どうしてピアノを演奏できたのだろうと。

 幽霊は、自分の思い入れのある物に関しては触れることができる。大抵は死の間際に触れていた物に限られる。女性もそのパターンだろう。

 女性の話が聞こえないセンパイは、いまいち要領を得ないという顔でこちらをぼうっと眺めている。ああこれ一々説明しなきゃ伝わらないのか。まどろっこしいな。

 ちょいちょいとセンパイを呼ぶ動作をする。センパイは出番かといった様子で俺に近寄る。その胸倉を不用意に掴み、引き寄せる。そして昨日と同じようにその唇に唇を当てがった。

 数秒後、センパイの喉が唾液を嚥下したのを見届け、俺は手を放す。

「これで状況が分かるでしょう。手間掛けさせないでください」
「頼んでない上にすごく要らん世話だ……」

 女性は眼前で唐突に行われたキスに状況が呑み込めていないのか、混乱した様子で俺たちを見やる。

「あなたたちはえーっと、恋人なの?」
「いいえ全く?」
「そんな訳ないです……」

 疲弊した様子で俺に続き答えるセンパイ。初心な奴って言うのは扱いづらい。はぁ、とため息を吐くとセンパイも俺と同じように重い溜息をついた。なんでだよ。
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