【本編完結】おもてなしに性接待はアリですか?

チョロケロ

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第五話 楽しいお食事

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 シロベニアさんがモリモリご飯を食べる様子を見ながら、僕はニコニコと話しかける。

「実はお酒も用意してあるのです。シロベニアさん、お酒はイケる口ですか?」

 煮魚に箸をつけていたシロベニアさんの動きがピタリと止まった。顔を見ると、目が期待に輝いている。

「お酒、大好きです」
「良かった。お酒も村民が用意してくれたんです。カリン、梅、りんご、レモン、ペパーミント酒があります。どれか飲みたいものはありますか?」
「全部飲みたいです」

 全部飲みたいだって。可愛いー。お酒大好きなんだね!

「じゃあまずはカリン酒を持ってきますね」
「はい」

 僕は台所へ行き、カリン酒の小瓶と氷を入れた容器を持ってきた。
 お洒落しゃれなグラスに氷を入れ、カリン酒をトクトク注ぐ。それを渡すと、シロベニアさんは味わうように一口すすった。
 すると、キュッと目をつむり、クゥーっ! と唸る。
 それからカッと目を見開き、「美味しい!」と叫んだ。

「こんな美味しいカリン酒は飲んだことがない!」
「えへへ。村長が作ったんですよ。美味しいですよね」

 僕も前に村長の作ったカリン酒を飲んだことがあるのだ。甘さと酸味が程よくマッチしていて美味しかった。
 シロベニアさんは料理とお酒を見回すと、感動したようにほぉっと吐息を吐いた。

「美味しい料理にお酒まで用意してもらえるなんて……。なんか私、幸せ過ぎて怖いです」
「そこまで喜んでくださるなんて感激です。僕や村の連中も作った甲斐があります。さ、たんと食べて飲んでくださいね」
「ありがとうございます!」

 こうしてシロベニアさんは料理とお酒をたっぷり堪能したのだった。

※※※※

 しばらくすると、酔いがまわってきたのかシロベニアさんの頰が少しだけ赤くなってきた。表情もリラックスしたようでニコニコしている。
 ペパーミント酒をクイっと飲み干したシロベニアさんは、ご機嫌で僕に話しかけてきた。

「良かったらネリルさんも飲みませんか? 私のお酌だけでは退屈でしょう?」
「え? いいんですか?」

 実は僕もお酒が大好きなのだ。
 楽しそうなシロベニアさんを見て、僕も飲みたくてたまらなかったのだ。
 食事接待をしなくちゃいけないけど、ちょっとくらいならいいよね? だってお酒って一人で飲むより誰かと飲んだほうが楽しいもん。シロベニアさんだって一人で飲むのは寂しいはず。
 などと心の中で言い訳しながら僕用のグラスを持ってくる。シロベニアさんが氷を入れ、りんご酒を注いでくれた。僕はそれをグビーッと一気に飲む。
 っぷはぁと息をつき、口元をぬぐう。

「この一杯のために生きている!」

 僕が叫ぶと、シロベニアさんは楽しそうに笑った。

「あはは。ネリルさんもイケる口ですね。どんどん飲みましょう」
「はいっ」

 こうして二人でお酒を飲みまくった。
 二人とも酔っ払い、楽しい気持ちになってくる。
 会話がはずみ、色々な話をした。この村の話。シロベニアさんの仕事の話。楽し過ぎて会話が途切れることはなかった。
 どうやらシロベニアさんは二十三歳で、独身らしい。
 僕は二十歳なので三歳歳上だ。こんなカッコいいのに独身なんて信じられない。そのことを茶化すと、シロベニアさんは照れたように笑った。

「はは……。私なんてモテませんよ」
「そんなことないですよぉ~。カッコイイし、冒険者としても優秀だし、女の子が群がるんじゃないですか?」
「いやぁ……、女性にモテててもあまり嬉しくないですからね」
「へ?」

 僕が不思議そうな表情をすると、シロベニアは内緒話を打ち明ける子供のように声をひそめた。

「実は私、同性愛者なんです」
「へぇ~」

 そうなのかぁ。
 ちょっとびっくりしたが、別に偏見の目で見たりしない。そうなのかと思っただけだ。

「でも、それだけカッコいいなら男の子も群がるんじゃないですか?」
「いやぁ、そんなことないです」

 こんなにカッコいいのに、世の中の男は見る目がないなぁ……などと思っていたら、突然ハッと自分の使命を思い出した。

 そ、そういえば、僕今夜性接待をするんだった。
 なに楽しそうに飲んでるんだよ。しっかりしろ、僕!
 それにしても驚いたなぁ。シロベニアさんが同性愛者だったなんて。
 同性愛者なら、僕が性接待をしてもドン引きしないかもしれない。
 だって同じ男だから。
 いや……でも。今日知り合ったばかりの男に突然性接待をされても、やはり嬉しくないだろう。
 なんだコイツ!? って思われるよ。
 あー……。せっかく仲良くなったのにこの雰囲気をぶち壊したくないよ。でも、村長たちと約束しちゃったしなぁ。
 やりたくないけど、やはりやらなければいけない。
 それでシロベニアさんに拒否されたら、「ですよね~。すみません!」って笑って誤魔化せばいいや。

 と言うか、性接待っていつやればいいんだろう。
 そろそろやった方がいいんじゃないか?
 いやいやちょっと待て、寝る前の方がいいか。
 シロベニアさんがベッドに入った頃、寝室に向かおう。よし、やるぞ僕は!
 僕は鼻息荒く意気込んでからシロベニアさんに声をかけた。

「シロベニアさん。夜も遅くなってきたし、そろそろお開きにしませんか?」

 レモン酒を飲んでいたシロベニアさんは名残惜しいのか一瞬残念そうな表情をしたが、すぐにニコッと微笑んだ。

「そうですね。明日も早いですしね」

 よし! これでシロベニアさんが寝る体勢に入るぞ!
 あとは僕の腕の見せどころだ!

「じゃあおやすみなさい。歯ブラシとかは洗面所に用意してあるんで」
「いえいえ。一緒に後片付けをしますよ」

 そう言って空になった小鉢やらグラスを台所へ運んでくれた。

「そんなこと僕がやります!」
「いいから。これくらいはやらせてください」

 などと言いながらスポンジを泡立てて、食器を洗い始めた。
 申し訳ないけど無理に突っぱねるのも変だと思い、シロベニアさんの隣に立つ。
 それからシロベニアさんの洗った食器を布で拭き始めた。

 こ、これはシロベニアさんとの共同作業だ!
 僕は今、シロベニアさんと食器の後片付けをしている。

 もしシロベニアさんと同棲したら、こんな感じなのだろうか? などと考えてブルブル頭をふる。
 な、なにを考えているんだ、僕は!
 シロベニアさんと同棲するなんて天地がひっくり返ってもあり得ないだろ!
 でも……シロベニアさんから洗い終わったお皿を受け取るたびに胸がドキドキする。な、何なんだろう? ちょっとおかしいぞ、僕!?
 などと思いながら隣に立つシロベニアさんを盗み見る。
 シロベニアさん、本当背が高いなぁ。横顔もカッコいい……。
 こんな人に性接待なんて出来るのだろうか……?

 なぜか今更緊張してきて、僕の心臓はバクバクと鳴り響いたのだった。
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