【完結】エルフの喫茶店は、今日も客が一人しか来ない

チョロケロ

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第十二話 メガネの過去

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 ここから立ち去りたいのにメガネが逃してくれない。
 俺はほとほと困り果てていた。

 すると、そんな窮地に救いの声がかかった。

「ネ、ネル様……! 二人のゴタゴタにエルフを巻き込むのは、さすがに気の毒だと思います。ここは二人でお話ししてください。僕とエルフは外で待っていますので」

 声の正体は、赤髪だ。
 おぉ……! いいぞ赤髪。助かったぜ。俺は急いで赤髪の後ろに隠れた。

「そうだぞ。二人で話せよ。俺を巻き込むな」
「で、ですが……」

 なにか言いたそうなメガネを置いて、俺はさっさと出口に向かう。赤髪も後ろから着いてきた。
 二人でそそくさと外に出ると、ホッと安堵の息が漏れた。

「怖かったぁ~」

 赤髪がその場にへたりと座り込んだので、俺も隣にしゃがみ込む。

「赤髪。助かったぜ。ありがとうな」
「……」

 礼を言うと、赤髪はムッとした表情で俺を睨んだ。

「僕は赤髪って名前じゃない。イリヤだ。これからはイリヤ様と呼べ」
「あっそう。じゃあイリヤって呼ぶよ。――それよりさぁ、さっきのなんだよ。青髪、親の仇みたいな目で俺を睨んでたぞ? メガネとなにがあったんだ?」
「ネル様のことを適当なあだ名で呼ぶな! ネル様と呼べ!」
「なんで歳下にそんな丁寧な呼び方しなきゃいけねーんだよ。俺の方が歳上だぞ? 歳上をうやまえよ。お前の方こそ、俺のことをフォルン様と呼べ」

 イリヤは不満なのかぷくーっと頰を膨らませた。だが、少し考えるような表情をしたあと、『まぁ、歳上ならしょうがないな』と言って納得した。
 ほぉ。意外と素直だな。まぁまぁ可愛いぞ。

「じゃあ、お前のことはフォルンさんと呼ぶ。それでいいな?」
「いいよ」

 俺がうなずくと、イリヤはさっきの修羅場を思い出したのか、ぶるりと身震いした。

「それにしても、さっきは怖かったなぁ。フォルンさんも巻き込まれて災難だったな」
「本当だよ。――なぁ、あの二人になにがあったんだ? 付き合ってたけど、何らかの理由で別れたんだろ? あの温厚なメガネが怒るなんて、よほどの理由があったんじゃねーの?」

 イリヤは気まずそうに頭をかいた。

「フォルンさんって野次馬精神凄いね。他人の色恋ごとに首突っ込まない方がいいと思うよ?」
「だってすげー気になるんだもん。イリヤー。教えてくれよ。ドロドロした恋愛話好きなんだよ、俺は」

 そう言って俺は気安くイリヤの肩を組んだ。嫌そうなイリヤに『なーなー教えてくれよー』としつこく迫る。
 根負けしたイリヤが、ハァーとため息をついた。

「……まぁ、フォルンさんには知る権利があるよね。だってネル様の恋人だからね」

 いや、恋人と言うかセフレみたいなものだけどな。と言おうと思ったが、言ったら話してもらえそうもないので黙っておく。

 イリヤは気難しい顔で話し始めた。

「そう。お察しの通り、ネル様とアーリヤは付き合っていたんだ。でも、アーリヤの浮気が原因で別れた」
「!」

 うわぁ……。あの青髪、清純そうな顔して浮気したのかよ。最低だな。メガネが可哀想じゃねーか。
 メガネと知り合ってまだそんなに月日は経っていない。だからアイツの全てを理解しているわけではないけれど、それでもアイツが真面目で一途な男だっていうのは、はっきり分かる。そんな男を裏切るなんて酷いな。メガネはきっと、もの凄いショックだったろう。
 
 セフレとか言ってるお前が偉そうなこと言うなと思うかもしれないが、俺って結構浮気には厳しいタイプなのだ。メガネと恋人同士になりたくないのも、付き合ったら他の奴と遊べないからだ。流石の俺も、恋人がいるのに他の奴と遊ぼうなんて思わない。こんな俺だが、付き合ったら意外と一途なのだ。

「メガネ……可哀想だな」

 俺の言葉に、イリヤも同意した。

「僕もそう思う。だってネル様、アーリヤと別れたら逃げるように仕事を辞めちゃったんだ。多分……凄く傷付いたんだと思う。もうアーリヤの顔なんか見たくないから辞めたんじゃないかなぁって僕は思ってるんだ」

 あぁ、そうか……。
 メガネは以前、親父さんの具合が悪いからカボス村に戻ってきたと言っていた。でも、本当は失恋したから戻ってきたのだろう。失恋ぐらいで仕事を辞めるなと思うかもしれないが、メガネは超が付くくらい一途なのだ。そんな男が恋人に裏切られたら、きっと仕事なんて手に付かなくなってしまうほど心に深い傷を負うだろう。

 俺は青髪に対して腹が立ってきた。

「青髪のやろう……。よくメガネの前に顔を出せたな。見かけによらず図々しいやろうだ!」
「僕も、アーリヤには来るなと言ったんだ。……でも、どうしてもネル様に会いたいってしつこくて……」

 青髪は浮気したくせに、メガネに未練たらたらなんだな。なんかムカつくぜ! 俺は青髪に文句を言ってやろうと思い、店に戻ろうとした。だが、なんとか踏み止まった。

 ……いやいや。部外者がとやかく言うことじゃねーな。
 もしかしたらメガネは、青髪が来て内心喜んでいるかもしれないし。
 そんなことを考えたら、更にイライラした。
 メガネのやろう……。もし喜んでたらぶん殴ってやる!
 メガネは俺に惚れてんだろう? だったら他のやつを見るな!

「……ッチ」
 
 俺は舌打ちした。クソッ。俺は何を嫉妬してるんだよ。これじゃあまるで、俺がメガネに惚れてるみたいじゃねーか。

 でも、これが俺の本音なのだから仕方がない。
 メガネは俺だけ見てりゃあいいんだよ!
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