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第七話
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「あ、あの……。実はこの後用事があるのです。そろそろ失礼します」
あれからポンポンと会話は進み、オズベルト様と次も会う約束をしてしまった。これ以上話していたらボロが出そうなので、取りあえず帰る事にした。
「あ……。そうなのですか。分かりました」
オズベルト様は一瞬残念そうな顔をしたが、すぐにニコリと微笑み椅子から立ち上がった。
私も申し訳なさそうな顔をして椅子から立ち上がる。
二人で玄関に向かって歩いていたら、オズベルト様が話しかけてきた。
「あの……。お名前を教えてくれませんか? ずっと知りたかったのです」
「な、名前ですか!?」
名前……名前……。
どうしよう。ルーンと名乗るわけにはいかないし。ちょっと考えてから口を開いた。
「私はルーイと言います」
何の捻りもない。ルーンの『ン』を『イ』に変えただけだ。だって良い名前が思い付かなかったのだから仕方がない。
「ルーイさんですか! 素敵な名前ですね!」
「……ありがとうございます」
そんな会話をしてから家を出た。
「では、また」
「はい! ルーイさん、またお会いできるのを楽しみにしています!」
「私も楽しみです」
私はオズベルト様にニコリと微笑んでから歩き始めた。
暫くして後ろを振り返ると、オズベルト様はまだ私を見ていた。手を振るとブンブンと振りかえしてくれた。
オズベルト様の姿が見えなくなると、物陰に隠れてすぐに蛇の姿に戻った。
そして何気ない様子で窓から家に戻った。
「オズベルト様。ただ今戻りました」
「ルーン!」
オズベルト様はすぐに私の元にやって来て、私を肩に乗せた。
「ありがとうルーン! お前のおかげであの人は家に来てくれた!」
「そうですか。お役に立てて何よりです」
「ルーンはどうやってあの人を見つけたのだ?」
「そ、それは……。秘密です!」
「そうか。まぁいい。兎に角ありがとう!」
「いえ……」
私はホッと胸を撫で下ろした。良かった、深く追求されなくて。どうやらオズベルト様はそれどころではないらしい。私に向かって興奮したように話し続ける。
「それでな! 何とあの人と友人になれたのだ! 凄いだろう!?」
「そ、そうですね」
「今度またこの家で会う約束をしたのだ。――あぁ! 今からそれが待ち遠しい!」
「よ、良かったですね。オズベルト様」
オズベルト様はその後もずっと浮かれていて、私はとても胸が痛かった。
※※※※
それからオズベルト様は変わった。
鼻まであった長い前髪をバッサリと切り、キリリとした眉が見える男らしい短髪になった。
更に顔と身体を隠していたマントも脱ぎ捨てて、白シャツとベージュのスラックス、それに皮のブーツと言う清潔感あふれる格好に変わった。
今まで猫背気味だった背筋はピンと伸びている。元々スタイルが良いのでシンプルな服装でも充分カッコよかった。
まるでどこかの国の王様のようだ。この姿で街に出たら、道ゆく女性の視線を独り占めできるだろう。
やはりオズベルト様は素敵なお方だ。ペットである私も鼻が高い。
私ははしゃいだ様にオズベルト様に巻き付いた。
「オズベルト様ー! カッコよくなりましたねぇ! 見違えちゃいました!」
「そうかな? ありがとうルーン。少しでもルーイさんにふさわしい男になりたくてな」
「そ、そうですか……」
オズベルト様は嬉しそうに話を続けた。
「今日はこれからルーイさんと街へ向かうんだ。……あぁ、これはデートと言うやつだ。胸がドキドキする」
あれから私は、人型でオズベルト様と何回か会った。
先日会った時に、今度街へ行きませんか? と言われ、ついつい頷いてしまったのだ。
「そ、そうですか。――じゃあ私は用があるので出かけてきます」
「分かった。暗くなる前に帰るのだよ?」
「はい……」
そそくさと部屋を出て外に向かう。
用意していた白シャツを地面に置いて、人型に変身した。
「あぁ、これからどうしよう……」
白シャツを着ると、トボトボとオズベルト様の元へ向かった。
※※※※
「やぁ! よく来てくれましたね!」
オズベルト様は満面の笑みで私を出迎えてくれた。
「こんにちは。今日は街へ行くんですよね。楽しみです」
「ええ! そうですね」
「……オズベルト様」
この姿になったら絶対にオズベルト様に言おうと思っていた言葉があるのだ。
「何ですか?」
オズベルト様はキョトンとした顔で聞き返した。
「今日のオズベルト様、とても素敵です。まるでどこかのお城に住む王様のようです」
「!!」
本当に、頑張りましたねオズベルト様。いつも自信なさげに背を丸めていたオズベルト様がこんなお姿になるなんて……。
私はとても嬉しいです。
オズベルト様は照れたように頭をかいた。お顔は真っ赤だ。
「あ、ありがとうございます。で、では、街へ行きましょう」
オズベルト様が手を差し出したので、私はそっとその手を握った。
街へは転移魔法を使えばすぐに辿り着く。
オズベルト様が詠唱を唱えると、私達の身体はヒュンと音を立てて消えた。
あれからポンポンと会話は進み、オズベルト様と次も会う約束をしてしまった。これ以上話していたらボロが出そうなので、取りあえず帰る事にした。
「あ……。そうなのですか。分かりました」
オズベルト様は一瞬残念そうな顔をしたが、すぐにニコリと微笑み椅子から立ち上がった。
私も申し訳なさそうな顔をして椅子から立ち上がる。
二人で玄関に向かって歩いていたら、オズベルト様が話しかけてきた。
「あの……。お名前を教えてくれませんか? ずっと知りたかったのです」
「な、名前ですか!?」
名前……名前……。
どうしよう。ルーンと名乗るわけにはいかないし。ちょっと考えてから口を開いた。
「私はルーイと言います」
何の捻りもない。ルーンの『ン』を『イ』に変えただけだ。だって良い名前が思い付かなかったのだから仕方がない。
「ルーイさんですか! 素敵な名前ですね!」
「……ありがとうございます」
そんな会話をしてから家を出た。
「では、また」
「はい! ルーイさん、またお会いできるのを楽しみにしています!」
「私も楽しみです」
私はオズベルト様にニコリと微笑んでから歩き始めた。
暫くして後ろを振り返ると、オズベルト様はまだ私を見ていた。手を振るとブンブンと振りかえしてくれた。
オズベルト様の姿が見えなくなると、物陰に隠れてすぐに蛇の姿に戻った。
そして何気ない様子で窓から家に戻った。
「オズベルト様。ただ今戻りました」
「ルーン!」
オズベルト様はすぐに私の元にやって来て、私を肩に乗せた。
「ありがとうルーン! お前のおかげであの人は家に来てくれた!」
「そうですか。お役に立てて何よりです」
「ルーンはどうやってあの人を見つけたのだ?」
「そ、それは……。秘密です!」
「そうか。まぁいい。兎に角ありがとう!」
「いえ……」
私はホッと胸を撫で下ろした。良かった、深く追求されなくて。どうやらオズベルト様はそれどころではないらしい。私に向かって興奮したように話し続ける。
「それでな! 何とあの人と友人になれたのだ! 凄いだろう!?」
「そ、そうですね」
「今度またこの家で会う約束をしたのだ。――あぁ! 今からそれが待ち遠しい!」
「よ、良かったですね。オズベルト様」
オズベルト様はその後もずっと浮かれていて、私はとても胸が痛かった。
※※※※
それからオズベルト様は変わった。
鼻まであった長い前髪をバッサリと切り、キリリとした眉が見える男らしい短髪になった。
更に顔と身体を隠していたマントも脱ぎ捨てて、白シャツとベージュのスラックス、それに皮のブーツと言う清潔感あふれる格好に変わった。
今まで猫背気味だった背筋はピンと伸びている。元々スタイルが良いのでシンプルな服装でも充分カッコよかった。
まるでどこかの国の王様のようだ。この姿で街に出たら、道ゆく女性の視線を独り占めできるだろう。
やはりオズベルト様は素敵なお方だ。ペットである私も鼻が高い。
私ははしゃいだ様にオズベルト様に巻き付いた。
「オズベルト様ー! カッコよくなりましたねぇ! 見違えちゃいました!」
「そうかな? ありがとうルーン。少しでもルーイさんにふさわしい男になりたくてな」
「そ、そうですか……」
オズベルト様は嬉しそうに話を続けた。
「今日はこれからルーイさんと街へ向かうんだ。……あぁ、これはデートと言うやつだ。胸がドキドキする」
あれから私は、人型でオズベルト様と何回か会った。
先日会った時に、今度街へ行きませんか? と言われ、ついつい頷いてしまったのだ。
「そ、そうですか。――じゃあ私は用があるので出かけてきます」
「分かった。暗くなる前に帰るのだよ?」
「はい……」
そそくさと部屋を出て外に向かう。
用意していた白シャツを地面に置いて、人型に変身した。
「あぁ、これからどうしよう……」
白シャツを着ると、トボトボとオズベルト様の元へ向かった。
※※※※
「やぁ! よく来てくれましたね!」
オズベルト様は満面の笑みで私を出迎えてくれた。
「こんにちは。今日は街へ行くんですよね。楽しみです」
「ええ! そうですね」
「……オズベルト様」
この姿になったら絶対にオズベルト様に言おうと思っていた言葉があるのだ。
「何ですか?」
オズベルト様はキョトンとした顔で聞き返した。
「今日のオズベルト様、とても素敵です。まるでどこかのお城に住む王様のようです」
「!!」
本当に、頑張りましたねオズベルト様。いつも自信なさげに背を丸めていたオズベルト様がこんなお姿になるなんて……。
私はとても嬉しいです。
オズベルト様は照れたように頭をかいた。お顔は真っ赤だ。
「あ、ありがとうございます。で、では、街へ行きましょう」
オズベルト様が手を差し出したので、私はそっとその手を握った。
街へは転移魔法を使えばすぐに辿り着く。
オズベルト様が詠唱を唱えると、私達の身体はヒュンと音を立てて消えた。
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