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第一話 貧乏貴族の成り上がり
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ある日、貧乏貴族だった僕の家に奇跡が舞い込んだ。
なんと、僕の家が所有する山からエスタリドと言う宝石の原石が発見されたのだ。
エスタリドは上位貴族に人気のある赤い宝石だ。そんな高級品が山からボロボロ発掘されたのだ。
これこそ奇跡だ。僕たち家族は喜びのあまり小躍りした。
エスタリドの原石により、僕の家は一瞬で金持ち貴族の仲間入りをした。
今までは夜会の招待状なんて滅多に来なかったのに、エスタリドのことがあってから毎日のように届くようになった。
みんな、僕の家の幸運にあやかりたいのだ。
なんとかして僕の家と縁を結び、甘い汁が吸いたいのだろう。
もちろん婚約話もたくさんきた。
伯爵令嬢のレイチェル様。侯爵令息のウィンドル様。
金持ち連中がみんなこぞって僕に求婚した。
僕は面食いなので、ウィンドル様に好意を抱いていた。お父様にウィンドル様と結婚したいと言ったのだが、その願いは却下された。
なぜなら侯爵家よりもっと上位のお方が、僕に求婚してきたからだ。
その方とは、公爵家当主モーリス・アンガレッド様だ。
公爵家まで僕の家の鉱山に目を付けているとは思わなかったよ。僕はその話を聞いたとき、素直に驚いた。
公爵家と縁を結べば、リガシー家は安泰だ!
そう言ってお父様は興奮したように頰を紅潮させた。
でも僕は、なんだか憂鬱な気分になった。
だってモーリス様っておじさんなんだもん。年齢は三十七歳。結婚は一度したけど、奥さんの浮気により破局。子供はいないらしい。
そんな人生の敗北者みたいなおじさんに僕をあてがうなんて酷い!
僕はお父様に絶対嫌だ! と訴えた。
だが、僕の抵抗も虚しく話はトントン拍子に進んでいき、今日はモーリス様と顔合わせすることになってしまった。
場所はアンガレッド邸だ。そこの庭で、親族だけの小さなお茶会を開くらしい。
本当嫌だ……。だって僕、まだピチピチの十八歳なんだよ? いくら家のためとはいえ、そんなおじさんと結婚したくないよ。
あーあ。この結婚、破談にならないかなぁ。会いたくないよ、おじさんなんかに……。
などと思いながら、僕はうなだれて両親と一緒にアンガレッド邸へと向かったのだった。
※※※※
「セルビット君だね。こんにちは」
「……!」
モーリス様に挨拶されて、僕は目を大きく見開いた。
……油断していた。三十七歳と言うから、脂ぎったおじさんを想像していた。
それがどうだ!?
こんなに美しい美丈夫がこの世にいたなんて……!
モーリス様は金色の髪に青い瞳を持つ、とても美しい男性だった。
背は高く、身体もほっそりしている。
にこやかに笑う顔は温和そうで、釣られて僕も笑いそうになってしまった。
び、びっくりした……! 面食いの僕が驚くほどの美形じゃないか!
で、でも! 顔は合格でも、性格がなぁ。
どうせ性悪なんだろう? だから奥さんに浮気されたんだろ? などと思っていたのだが、性格も完璧だった。公爵家なので威張っているのかと思いきや、謙虚でとても優しいのだ。僕が不機嫌な表情をしていても咎めたりしない。それどころか、気を遣ってお菓子をすすめてくれるのだ。
僕は段々心を開いてゆき、いつの間にかモーリス様に懐いてしまった。
「モーリス様はチョコレートとクリームどちらが好きですか?」
そんなくだらない質問にも、モーリス様は真剣に答えてくれた。
「うーん。私はあまり甘いものが好きじゃないな。どちらかと言えば辛いものが好きだ」
「えー! 辛い食べ物なんて美味しくないですよ! モーリス様、変!」
僕の言葉に、お父様が慌てる。
「セルビット! モーリス様に失礼なことを言うな!」
「ふふ……。いいのですよ。それどころか気さくに話してくれて嬉しいのです。セルビット君は、元気な子だね」
そう言ってニコリと微笑んでくれた。
……なんか、モーリス様っていいな。すごく優しい。
こういうのなんて言うんだっけ?
そうだ! 包容力だ!
モーリス様には包容力がある。
こういう方と結婚したら、毎日甘やかしてくれるんだろうなー。
僕はモーリス様との結婚生活を想像した。
想像の中の僕は、モーリス様に優しく愛されて幸せそうだった。
――なんか僕、モーリス様のこと好きになっちゃった。
ちょっと優しくされただけで単純だなぁと思うかもしれないけど、結婚するなら『優しい人』は絶対条件だと思うのだ。
この人と一生を添い遂げたい。
それで思う存分甘やかしてもらいたい。
そんなことを考えていたら、モーリス様と目が合った。
モーリス様は、ニコッと微笑んでくれた。
その笑顔を見て、僕はモーリス様への恋心をはっきり自覚したのだった。
※※※※
顔合わせは上手くいき、それから結婚までスムーズに話が進んだ。
あの顔合わせでは生意気な態度ばかり取ってしまったけど、それでもモーリス様は僕を気に入ってくれたんだと思い、とても嬉しくなった。
無事結婚式も終わり、今日から僕はアンガレッド邸で暮らすことになった。
お風呂に入ってから寝室に向かう。
僕はかなり緊張していた。
だって、今日は初夜なんだもの! モーリス様に抱いてもらえる日なのだ。
ドキドキしながらベッドに横になる。
身体は隅々まで洗った。お尻の準備も済んだ。男同士のやり方も勉強した。
大丈夫、大丈夫。上手くやれる。
そんなことを考えながら、カチコチに固まっていたら、寝室のドアが控えめに開ける音が聞こえた。
そちらに目を向けると、モーリス様がいつものニコニコ顔でこちらに近付いてくるところだった。
「モ、モーリス様っ……」
僕はワタワタとモーリス様の名前を呼んだ。
そんな僕とは対照的に、モーリス様は落ち着いた表情でベッドに乗り上げた。
そして、そっと僕の頬に口付けたのだ。
僕は心臓がバクバクしてしまい、思わず目を瞑った。
だが、次の言葉を聞いた瞬間、僕は閉じていた目をカッと見開いた。
「おやすみ。可愛いセルビット……」
そう言って僕の隣に横になり、しばらくするとすぅすぅ寝息を立てて寝てしまったのだ。
「……へ?」
これから熱い夜が始まるんじゃないの?
モーリス様……なにスヤスヤ寝てるんですか?
そんなことを思いながら、僕はかなり長い時間モーリス様の寝顔を恨めしそうに眺めていたのだった。
なんと、僕の家が所有する山からエスタリドと言う宝石の原石が発見されたのだ。
エスタリドは上位貴族に人気のある赤い宝石だ。そんな高級品が山からボロボロ発掘されたのだ。
これこそ奇跡だ。僕たち家族は喜びのあまり小躍りした。
エスタリドの原石により、僕の家は一瞬で金持ち貴族の仲間入りをした。
今までは夜会の招待状なんて滅多に来なかったのに、エスタリドのことがあってから毎日のように届くようになった。
みんな、僕の家の幸運にあやかりたいのだ。
なんとかして僕の家と縁を結び、甘い汁が吸いたいのだろう。
もちろん婚約話もたくさんきた。
伯爵令嬢のレイチェル様。侯爵令息のウィンドル様。
金持ち連中がみんなこぞって僕に求婚した。
僕は面食いなので、ウィンドル様に好意を抱いていた。お父様にウィンドル様と結婚したいと言ったのだが、その願いは却下された。
なぜなら侯爵家よりもっと上位のお方が、僕に求婚してきたからだ。
その方とは、公爵家当主モーリス・アンガレッド様だ。
公爵家まで僕の家の鉱山に目を付けているとは思わなかったよ。僕はその話を聞いたとき、素直に驚いた。
公爵家と縁を結べば、リガシー家は安泰だ!
そう言ってお父様は興奮したように頰を紅潮させた。
でも僕は、なんだか憂鬱な気分になった。
だってモーリス様っておじさんなんだもん。年齢は三十七歳。結婚は一度したけど、奥さんの浮気により破局。子供はいないらしい。
そんな人生の敗北者みたいなおじさんに僕をあてがうなんて酷い!
僕はお父様に絶対嫌だ! と訴えた。
だが、僕の抵抗も虚しく話はトントン拍子に進んでいき、今日はモーリス様と顔合わせすることになってしまった。
場所はアンガレッド邸だ。そこの庭で、親族だけの小さなお茶会を開くらしい。
本当嫌だ……。だって僕、まだピチピチの十八歳なんだよ? いくら家のためとはいえ、そんなおじさんと結婚したくないよ。
あーあ。この結婚、破談にならないかなぁ。会いたくないよ、おじさんなんかに……。
などと思いながら、僕はうなだれて両親と一緒にアンガレッド邸へと向かったのだった。
※※※※
「セルビット君だね。こんにちは」
「……!」
モーリス様に挨拶されて、僕は目を大きく見開いた。
……油断していた。三十七歳と言うから、脂ぎったおじさんを想像していた。
それがどうだ!?
こんなに美しい美丈夫がこの世にいたなんて……!
モーリス様は金色の髪に青い瞳を持つ、とても美しい男性だった。
背は高く、身体もほっそりしている。
にこやかに笑う顔は温和そうで、釣られて僕も笑いそうになってしまった。
び、びっくりした……! 面食いの僕が驚くほどの美形じゃないか!
で、でも! 顔は合格でも、性格がなぁ。
どうせ性悪なんだろう? だから奥さんに浮気されたんだろ? などと思っていたのだが、性格も完璧だった。公爵家なので威張っているのかと思いきや、謙虚でとても優しいのだ。僕が不機嫌な表情をしていても咎めたりしない。それどころか、気を遣ってお菓子をすすめてくれるのだ。
僕は段々心を開いてゆき、いつの間にかモーリス様に懐いてしまった。
「モーリス様はチョコレートとクリームどちらが好きですか?」
そんなくだらない質問にも、モーリス様は真剣に答えてくれた。
「うーん。私はあまり甘いものが好きじゃないな。どちらかと言えば辛いものが好きだ」
「えー! 辛い食べ物なんて美味しくないですよ! モーリス様、変!」
僕の言葉に、お父様が慌てる。
「セルビット! モーリス様に失礼なことを言うな!」
「ふふ……。いいのですよ。それどころか気さくに話してくれて嬉しいのです。セルビット君は、元気な子だね」
そう言ってニコリと微笑んでくれた。
……なんか、モーリス様っていいな。すごく優しい。
こういうのなんて言うんだっけ?
そうだ! 包容力だ!
モーリス様には包容力がある。
こういう方と結婚したら、毎日甘やかしてくれるんだろうなー。
僕はモーリス様との結婚生活を想像した。
想像の中の僕は、モーリス様に優しく愛されて幸せそうだった。
――なんか僕、モーリス様のこと好きになっちゃった。
ちょっと優しくされただけで単純だなぁと思うかもしれないけど、結婚するなら『優しい人』は絶対条件だと思うのだ。
この人と一生を添い遂げたい。
それで思う存分甘やかしてもらいたい。
そんなことを考えていたら、モーリス様と目が合った。
モーリス様は、ニコッと微笑んでくれた。
その笑顔を見て、僕はモーリス様への恋心をはっきり自覚したのだった。
※※※※
顔合わせは上手くいき、それから結婚までスムーズに話が進んだ。
あの顔合わせでは生意気な態度ばかり取ってしまったけど、それでもモーリス様は僕を気に入ってくれたんだと思い、とても嬉しくなった。
無事結婚式も終わり、今日から僕はアンガレッド邸で暮らすことになった。
お風呂に入ってから寝室に向かう。
僕はかなり緊張していた。
だって、今日は初夜なんだもの! モーリス様に抱いてもらえる日なのだ。
ドキドキしながらベッドに横になる。
身体は隅々まで洗った。お尻の準備も済んだ。男同士のやり方も勉強した。
大丈夫、大丈夫。上手くやれる。
そんなことを考えながら、カチコチに固まっていたら、寝室のドアが控えめに開ける音が聞こえた。
そちらに目を向けると、モーリス様がいつものニコニコ顔でこちらに近付いてくるところだった。
「モ、モーリス様っ……」
僕はワタワタとモーリス様の名前を呼んだ。
そんな僕とは対照的に、モーリス様は落ち着いた表情でベッドに乗り上げた。
そして、そっと僕の頬に口付けたのだ。
僕は心臓がバクバクしてしまい、思わず目を瞑った。
だが、次の言葉を聞いた瞬間、僕は閉じていた目をカッと見開いた。
「おやすみ。可愛いセルビット……」
そう言って僕の隣に横になり、しばらくするとすぅすぅ寝息を立てて寝てしまったのだ。
「……へ?」
これから熱い夜が始まるんじゃないの?
モーリス様……なにスヤスヤ寝てるんですか?
そんなことを思いながら、僕はかなり長い時間モーリス様の寝顔を恨めしそうに眺めていたのだった。
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